第33話 激突
「どうして・・・お前がここに?」
衝撃で体を動かすことができないでいた俺に、唯一出せたのはそんな質問だった。
奴と俺との間にどれほどの差があるのかはわからないが、ウィッチに勝てるビジョンがまるで浮かばない。
戦闘訓練を重ねた今だからこそわかる、圧倒的な隙のなさ。それが俺の自由を奪っていた、
「ハッ! どうしても何もここはオレも通ってる学校だぜ? 真正面からどうどうと試験受けて入ってんだ。ならオレがここにいるのに資格はいらねーはずだよな? まあ通ってる、じゃなくて通ってただけどな、ハハッ」
「な、なにっ!?」
よく見ると、白いフードの下には見覚えのある服があった。それは見間違えようもない、この学園の女子用の制服だった。
この前の夜はわからなかったが、言われてはじめて気づいた。
(俺は、こんなとんでもないことに気づかなかったのか!?)
してはいけない類の大失態だ。
年齢的にその可能性を危惧すべきだったのに、敵の表の姿について全く考えていなかった。
ウィッチは、俺と同じ学校の生徒だったのか・・・
「待てよ」
俺はとある可能性に思い当たる。
そのことについてリブラと話したのはずいぶん前だ。だが話し合った結果、ありえないと俺たちは割り切った。
だがここまで証拠がそろってしまえば疑いようもない。
「もしかして、お前は・・・」
俺がそう言おうとしたとき、後ろから誰かが走ってくる音がした。
「レン君、そっちは大丈夫!?」
「先輩」
逃げてくれ、そう言おうとしたが俺は後ろを振り向けなかった。だって目の前には、俺のことを貫こうと浮遊するつららの数々が一呼吸のうちに創り出されていたのだから。
「じゃあ、死ね!」
ウィッチはつららの投擲を始める。前回の戦いと違って距離が近すぎる。これではつららを見切る余裕がない。
『インストール』
俺は真正面から迎え撃つことを選択した。このままよけきれるかは未知数だが、もしよけれたとしても後ろにいるであろう先輩に被害が出る。
「うおぉぉぉ!」
何とか一つ目のつららを砕くことに成功するも、あまりにも敵との距離が近すぎた。
俺は二射目に反応するのが遅れてしまう。
「しまっ・・・!」
つららは俺の額めがけて飛んでくる。頭突きをしてもいいが正直受け止めきれる自信がない。おそらく脳を貫かれて死んでしまう。生きていたとしても、戦闘続行は不可能だろう。
だが、やるしかない!
俺が歯を食いしばってつららを額で受け止めようとした時
『
その声が聞こえた瞬間、目の前のつららがすべて止まった。
ウィッチも驚いたのか、舌打ちをしつつ新たにつららを創り出しこちらへ向かって投擲する。
だがそれはすべて、俺に届く前に止まってしまう。
「レン君下がって!」
俺は反射的にその場から離脱した。すると効果が切れたのか、つららはこちらに向かって再び飛んでくる。
だが俺たちはすでに射程外、そのつららが俺たちを貫くことはなかった。そして俺は隣にいる人物に目を向ける。
「遊香、先輩」
作戦では遊香先輩は後ろで待機している予定だった。だが俺がいつまでも戻ってこないのを心配したのか、俺のところまで駆けつけてくれたようだった。
「まったくもう。君は巻き込まれ体質なんだから」
先輩はそう言って笑いながら、目の前のウィッチを見据える。
「ああ、テメーがスナイパーが話してた女か。ちょうどいい、二人まとめて氷漬けのモニュメントにして木っ端微塵に砕いてやんよ」
ウィッチは新たにつららを創り出し、両手に氷の刀を創り出してそれを握った。
「安心しろ、お前らごときに本気は出さねえよ・・・半分くらいしかな!」
ウィッチは数々のつららとともに、俺たちのことを切り伏せようとこちらへと迫ってきた。
「先輩、隙を見て逃げますよ」
「うん、わかった」
異能力が成長しているとはいえ、今の俺にウィッチは倒せない。だからこれから行うのは逃げるための戦いだ。
俺一人では無理だが、先輩がいれば可能性は十分にあるだろう。
絶対生き延びてやる、そんな覚悟を胸に俺と遊香先輩はウィッチと激突する。
※
スナイパー視点
「順調みたいっスね」
燃えている学校の少し遠く、電柱の上に上ったスナイパーは火の手が上がる学校をじっと眺めていた。
もともと彼らとの戦闘は優先するべきものではなかった。もしできるのであればついでにといった程度のもの。今回の作戦は学園そのものへの攻撃。
それに何の意味があるのかスナイパーは知らないし、知ろうとも思わない。
だがウィッチとコマンダーは、この八つ当たりのような光景を作り出すことを作戦として取り入れていた。
あのコマンダーも認めたのだ、自分も知らない狙いが何かあるのだろう。
こういう不安要素が多いことに付き合うのはらしくないが、コマンダーが信頼しているのなら問題はないだろうと信じる。
後はウィッチの戦いを見守るだけ。必要があればここから狙撃で援護しよう。
コマンダーがそう考えていた時だった。
「やはりいましたか」
「っ!」
背後から聞こえるはずのない声が聞こえた。何せスナイパーは電柱の一番上に登っているのだ。背後と取れるなんて、それこそ翼でもないと・・・
「ああ、なるほど」
スナイパーは動揺を押し殺して理解する。そういえば彼の近くには頼りになる異世界人の相棒がいたのだということを。
その考えに至った時、スナイパーは跳んだ。
足から衝撃波を出して移動し、一度遠くまで離脱するためだ。
さすがにこの異世界人相手に、近接戦は不利だろう。スナイパーはこの異世界人の実力をまだ測りかねている。だからこそ慎重にならざるを得なかった。
だから一度距離をとるために跳躍した、そんな時だ
『
空気を割るような凛とした声があたりに響いた。
その瞬間、スナイパーの行方を遮るように前方に立ちふさがるような障壁が出現したのだ。そして背後からは翼が生えた少女からの追撃が迫りくる。
「・・・へぇ」
スナイパーは相手の異能力に感心しつつも、急いで方向転換し一時的に足を地面につける。そして図らずも目の前にいた人と向き合う形になった。
その少女は自分のことを警戒しているのか真剣に、そしてほんの少しだけ怒りを織り交ぜたかのような顔をして自分の前に現れた。
「あなたがスナイパーだよね?」
「そうだと言ったら?」
スナイパーは遠回しに肯定する。その言葉を聞いた後、少女の隣には異世界人の少女が舞い降りた。
どうやら背中の一部を羽に変えていたらしい。まるで天使のような見た目だと、そう思ってしまった。そして一瞬で羽は消えてしまう。
報告によるとこのような異能力の使い方は上がっていなかったが、彼女もまだまだ自身の力を隠しているのだろう。
「いくよリブラ・・・水嶋君たちの仇は、私たちがとる」
ガイアにとって警戒人物の一人であった二人の少女、葉島メイと異世界人リブラがスナイパーの前に立ちふさがった。
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