第25話 襲撃開始

 璃子とのぎこちない電話を終えてからしばらく時間が過ぎた。俺たちは出かけるための準備を着実に整えていた。




「ライト?」


「ええ。これでオセロが移動できる影をつぶすなり、妨害ができるはずですよ」




 リブラのアイデアに従い、俺はポケットに懐中電灯を忍ばせる。小型のものだが光量が多いタイプだ。これが吉と出るかはわからないが、余裕があったら試してみよう。




「そろそろ日も暮れる。みんな、移動の段階で警戒しながら進もう」


「もちろんです。魔物が活発になるのは夜からですし、そういう意味でも抜かりはありません」




 今回はオセロに加え、奴が放った魔物にも警戒しなければいけない。しかも花咲が不在で若干の不安がある。




「万が一の場合は皆さん私のところへ。この部屋の座標は覚えましたし、いつでもここへ帰ってくることができます」




 だがその不安はクロエさんの存在でかき消される。


彼女の存在が今回の鍵だ。オセロはまだクロエさんのことを知らない。それならばいくらでもやりようはあるはず。




「みんな、準備はできたな?」


「ええ」


「いつでもいけます!」




 そして俺たちは夜の町へと飛び出した。見慣れた道が徐々に暗くなる中、三人でお互いを守るように歩みを進める。


 目指すのは駅の北側。璃子の家や神社がある方角だ。




「とりあえず、まずは神社から行ってみようか。あそこが一番怪しいと思う」


「? どうしてですか」




 俺の提案にリブラが疑問を呈す。あの場所は俺とレインがかつて戦った場所。もしあそこにオセロがいたならば、レインに加勢して俺のことを倒そうとしてくるはずだ。しかし実際にはそんなことはなく、俺は何とかレインを倒すに至ったのだ。




「あの場には、俺たちだけじゃなくウィッチもいた。それがずっと疑問だったんだ」




 ウィッチが俺たちのことを敵とみなしているのなら、レインに加勢して俺のことを倒そうとしてくるはず。レインは、ガイアと連携が取れているようなことを言っていた。つまり、レインとガイアは完全なる協力関係だった。それなら、すぐにでも手を貸すはず。




「あいつは最後の瞬間まで手を出さなかった。それどころか、最後にはレインのことを殺した」




 つまり、ウィッチがあの場で見切りをつけたのだ。それがレインを殺した理由。ならば、なぜあの場に訪れることができたのか。




「あの場にウィッチがいたのは偶然。だとすれば、あいつは何をしにあの場に現れた?」




 そこで考えられるのが、オセロの存在だ。


 オセロはぎりぎりまでガイアに抵抗していたみたいだ。おそらくガイアの連中は、何らかの手段でオセロの場所を炙り出したのだろう。そして服従させるために、あの場にウィッチをよこした。だとすれば、あの近くにオセロがいたということになる。




「つまり、レンが戦っている近くで、オセロが隠れていたのですか?」


「奴は俺のことを知らないみたいだった。多分だけど俺とレインが戦ってた時、あの時は傷を癒すことに専念していて気付かなかったんだと思う」




 それほどまでに、オセロは傷を負っていたのだ。だがその回復もむなしく、オセロはガイアに服従させられたのだ。




「オセロはお気に入りの影を見つけたらそこに隠れたがる癖があるんだろ。なら、現状で一番怪しいのは神社周辺だ」




 だから俺は璃子の家を通り過ぎ、神社の方へと足を進めていた。もしそこにオセロがいるのなら、神社のあの場が決戦の舞台となる。




「レインに続いてオセロと、あの場で戦うのか?」




 そう考えると何かと縁がある神社だ。荒神神社は俺の異能力が覚醒した場所でもある。今回も都合よく新たな力が目覚めてくれればいいのだが、あまり期待せず持ち合わせている能力だけでどうにかするしかないだろう。




 そして俺たちは、神社に続く階段の前まで来ていた。




「・・・ビンゴ、ですね」




 リブラはそう呟き、暗い階段を見上げている。


 神社の階段の脇、そこにひっそりと野良猫が二匹いるのが見えた。普通の猫と違うのは、額に角が生えており、尻尾に刃がついているという点くらいだろうか。




「ガードマン、ということでしょうか?」


「多分そうだろうな。リブラ、最終確認だけど、いけそうか?」




 何度目になるかわからない言葉をリブラに告げる。もしリブラの調子が優れないのであれば、今すぐにでも引き返し作戦を練り直す。それか、葉島たちの都合がいい日に合わせてみんなで襲撃をするのもありかもしれない。




「もう腹は決めてます。レン、私はいつでもいけますよ」




 俺とリブラは目を合わせてうなずき合い、クロエさんも気合が入っているのかすでに釘をつかんでいる。




「それじゃ、行こう!」


「「はい!」」




 俺たちは同時に駆け出した。




 すると俺たちの接近に気づいたのか、二匹の野良猫は同時に立ち上がり威嚇を始めた。危ない尻尾をぶんぶんと振り回しており、かすっただけでも怪我を免れないのが分かる。




「そのまま走ってください。ここは私が!」




 俺の横を走るクロエさんが両手に持った釘を掲げる。そして俺の前に飛び出し、猫たちに照準を合わせた。




「まずはご挨拶です・・・『転移テレポート』」




 クロエさんの指に挟まった釘が消えるのと同時に、目の前の野良猫二匹が悲鳴に似た鳴き声を上げるのが聞こえた。




「にぎゃぁぁぁ!!!」




 手足と尾、二匹の猫それぞれに五本ずつの釘が刺さっていた。肉を貫通し地面にまでめり込んでいる。これで身動きは封じることができたはず。


 だがそれもつかの間、猫たちはじたばたと体を動かすのやめ、深く息を吸い込み始めた。




「「にゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん!!!!!!」」




「っ!・・・まずい!」




 とんでもない声量の鳴き声が放たれて思わず耳をふさいでしまう。だがリブラが、猫たちの首を一瞬で切り落とした。




「「にぎゃ?」」




 そんなあっけない声と同時に、猫型の魔物は首を切断されて絶命した。




「これは、確実に襲撃がばれてしまいましたね」




 もしオセロがいるなら、確実に今の鳴き声を聞いているはず。つまり、この段階で奇襲は通用しないだろう。




「どうする、いったん引くか?」




 俺はリブラの意見を求める。いざとなったらクロエさんの能力でいつでも離脱することができる。




「いや、このままいきましょう。これ以上日を開けてしまうと、オセロが完全に回復してしまいます。そうなる前に、手を打たなければ」


「わかった」




 俺たちは作戦を続行することを決意する。隣のクロエさんも覚悟を決め俺と一緒に階段を駆け上がる。それに続いてリブラも後方を警戒しつつ階段を上ってくる。




「待ってろオセロ、俺が引導を渡す」




 相棒を泣かせた罪、償ってもらうぞ!




 俺は決意を胸に走り出す。絶対にオセロのことを一発殴ってやるのだ。だから何も考えずに真っすぐ走る。




 この戦いが、あんな結末になるとは知らずに。


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