第63話「思いしれぇぇぇぇぇ!」

 ───ひさしぶりだな!!!

 さ・い・ば・ん・ちょ・う・ど・の──!


 ズン!!

 と、大股で一歩を踏み出し───ブーダスの目の前に足を振り下ろす。


 もはや逃げられないというのに、尻餅をついたブーダスはまだズリズリと逃げる。



『─────簡単に死ねると思うなよ……』



 ドスーーーーン!

 と、ヘビーマシンガンを地面に落とし、腰のシースからヒートナイフを抜き出した。


 空いた手にはガバメント改を構える。


 ブゥゥゥン……! と、赤く光るナイフを手に、ブーダスを見下ろすクラム。

 外からは見えないだろうが、きっと内部の彼の表情は暗い笑みに彩られているだろう。


「ひぃぃぃ! よせ! 待て! 違う。違うんだ!!」


 ……あ゛?!


 みっともなく命乞いを始めるデブの裁判長殿。何を言ったところで───、


『───聞くにえん!』

 バンッ!


 ガバメント改で左手を撃ち抜く。


 まるでスローモーションのように、弾丸が奴の手にめり込んでいき、血を吹き出す。


 そして、思い出したように、


「───ぎゃあああああああ!!!」

 と、聞くに堪えない汚い悲鳴が上がる。


 だが、クラムが止まるはずなどない。

 チャキリ! と、ガバメント改を構え、


『そーいえばよー!! こうやって、バンバンとガベル裁判で使う木槌を叩いていたよな! あん時もよぉぉぉぉお!』


 あのクソのような裁判を思い出し───、


『うおらぁぁぁあ!! 判決ッッ』


 バン、バン、バンバンバンッ!!


 ……と、左手目掛けて立て続けに撃ちこむ9mm弾の連射。


「ぎゃぁぁぁあああああ!!! ああががががががっがが!! ぎゃあああ!! ま、待てってんだろ!!」


 涎と小便をまき散らしながらも、喚くブーダス。


 誰が待つか!!!

 裁判では、静粛に!!!


 バン、バン、バンバン!!



「あがっ! うぎええええ、違う! 違うんだ! 聞け、聞け……聞けよぉぉぉ!!」


 ───ざけんなぁぁ!!!


『てめぇぇぇはぁぁぁ! 俺の話を聞いたのかよぉぉぉぉぉ!!』


 主文を言い渡す!!

 ブタのような面に対して、左手削除の刑に処す!!


 バンンッ……! 


 トドメの一発が、左手の手首を撃ち抜き、穴だらけのそれはブチブチと音をたてて、その部分で千切れた。


 その際、


「───ぎゃあああああああああああ!!」


 一際デカい悲鳴を上げるブーダス。

 だが、


『まだまだ、まだ終わりにするかよ! この豚がぁぁ!』


 ヌラリと、ヒートナイフを手にしたクラムがゆったりと迫る。


「ひぎひぎぃぃ……イッパだ! イッパの奴がワシをそそのかしたんだぁぁ!!」


 きったない涎をまき散らしながら、

 きったない声でのたまうクソ豚。


 で?!


『───それがどうしたぁぁぁっぁあ!!』


 ザックゥゥウウ!!


「ぎぃぃい?!」


 左の肩口にヒートナイフをぶっ刺すと、

「豚は、豚らしく捌いてやらぁぁぁあ!!」


 ビィィィィイィ!!

 と、切れた手首までハムでも割くように二枚に卸していく!


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああ!!!」


 ジュウウウウ! 

 肉の焼ける匂いと、焼き切られて行き場を失った血が蒸発する悪臭が立ち込める。


「い、いでええええええ! あがぁぁぁ! き、ききき、聞けよこの野郎?! い、イッパの居場所を言うからよぉぉぉぉ!!」


 この期に及んで生き残ろうと、仲間を売るという素晴らしき同僚精神。


 だが、クラムの心が動くはずもない。


 さて……。

 仕上げだな。


 ガバメント改に替わり、背中の梱包箱から取り出すソレ。


 近代的かつ、近未来的な武器のなかで一際ひときわ異彩を放つ───……鉄球。


 …………鉄球?!


 錆び付き、ボロボロの皮膚がこびりついたそれは、かつてクラムの足にまとわりついていた無罪を有罪にする冤罪のシンボル。


 あの頃の……───囚人兵の象徴だった。


 それは、クラムの足から取り外されたあと、魔王軍によってヒッソリと廃棄される予定だったが、ソレをクラムは回収し……改良のうえ、装備に加えた。



 この瞬間のために───!!



 鉄球は手を加えずにそのまま。

 錆と人の皮膚やら血やらが染み込んだままの、素の状態。


 鎖のみエプソの装甲と同じチタン合金製。


 その鎖付き鉄球を構えるとぉぉぉぉ……ブン、ブン───ブンブンブンブンブンブブブブブブゥゥぅぅう…………!!!


 ───ブォォォォォォオオオオン!


 と凶悪な音を立て始めた。

 もはや、それは円を描く壁の如く───!


「いひぃぃぃ!! イッパの居場所を聞きたくねぇのかよぉぉぉぉ!!」


 聞くに堪えないと思いつつも囀ずらせるのも気分がいいものだ。

 あの日、他人を地獄に落として出世の肥やしにした報いを味わあわせるのだ!


 もっと、もっと、もっと無様に殺してやる!! とばかりに、鉄球を振り上げるクラム。


 その目の前に、(正確にはバイザー内の画面に)魔王の顔が表示された。


『楽しんでいるところを悪いが……』


 ち……、と舌打ちしたい気持ちで、ルゥナの顔をした魔王を睨みつける。


 内部音声に切り替えて要件を聞く、

『なんだ!? 今忙しい』

 クラムは、言外に邪魔だと言い置いて、そっけなく突っぱねる。


 が、

『───敵の特殊部隊が接近中じゃ。かなりの数じゃぞ?』

 と、言い置くと、画面から消えた。


(ち、時間をかけすぎたか)


 魔王の代わりにあらわれたのはレーダー画面上の敵表示。


 なるほど……敵の表示を示す赤い光点が大量に。

 上空で旋回中の、空中空母からの偵察結果をリアルタイムで反映しているのだろう。


 そして、足元でブヒブヒと呻いているブーダスは、クラムが動きを止めたのをチャンスと見たのか。

 ……あるいは命乞いが通じた! と勘違いしたのか───勘違いしたとして、やめておけばいいものを………………ブーダスはそこで止まるような輩ではなかったらしい。


「ぶひ?! す、隙ありぃぃい!!」

 

 逃げればいいものを───……。


「ぶひひひひ!! わ、ワシは大貴族ブーダス様じゃぁああ!!!」


 と、足元に転がっていた兵の剣を拾い上げ、



 クラムに向かって──────……。



『判決───』

 ボソリと呟くクラム。



 思いしれ……。


 そうだ、思い知れ!!


 すぅぅ、

『────ブーダス・コーベン! 有罪ッ』


 と、クラムが……数年ぶりのセリフを、オウム返しにブーダスへと返す。


「ほざけぇぇぇえええ!!」


 グァァァア……! と迫るブーダスの凶刃をものともせず。


 ズパン!!! と、ブーダスの剣を半ばから片手ナイフで切りとった、!


 そよまま、

 ───返す刀で、鉄球をぉぉぉおお……!


 食らえぇぇぇぇぇえええ……───!!



『クソ野郎のとがで───』





 ドッッッッッスン! と、





『───死刑ぇぇぇぇぇえええ!!』


 プチッ─────────!



「──────っあ゛、か…………?!」


 どうだ!!!!!

 味わったか!!!


 この思いと、この重いをぉぉおおお!!


 てめぇの小汚ない粗チンをプッチン!

 鉄球をブーダスの男性器に叩き落としてやったぜ!



 ダラダラと脂汗を流すブーダス。


 あとから着いてきたであろう激痛に、

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛が!」


 ブリブリブリブリブリブリブリ!!


 激痛と恐怖で脱糞するブーダス……!!


 ビクビクと股間を抑えてカメのようにうずくまり、痙攣けいれんしている。


 小さなクレーターを穿った鉄球により、ブーダスの粗末なそれは弾け飛んで小汚なく霧散した。


『で───なんだっけ? あんとき言ったよなぁ。……たしか、刑の執行まで反省してろや! だったか……あぁん!?』


 エプソの装甲越しに、ゴキィ! と蹴り飛ばし、無理やりあお向けにする。


 白目をむいてブクブクと泡を吹き出すブーダスは、出荷待ちの虚勢済み豚のようだ。


 だが、慈悲など与えない。


 かつて………こいつはクラムの話など聞かずに、一方的に死刑を言い渡した。


 しかも、まだ特別法の成立前だ。完全に勇み足のそれだったにもかかわらず、勇者に媚びを売る王国によって見過ごされてきた。


『───因果応報だ。死刑になった囚人全部の苦しみはそんなもんじゃねぇぞ!』


 さぁて、あとはじっくり、しっくりと仕返しの時間だ。

 もはや、殺すしかない段階まで追い込んでいよいよ、トドメというところで───、


『───タイムアップじゃ、クラム。銃を拾え!』


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!

 ドドドドドドドドドドドドドドドド!


 大地を揺るがす大音声に、クラムは顔を上げる。


『この音は………』


 そうだ、覚えている。

 忘れようがない……!



『───近衛兵団、重装騎兵……!』



 スゥーと視線を向ける先には、地響きをと土埃を立てて接近する騎兵集団があった。


 その後方にも、かなりの兵力がいるのか、土埃は絶えない。


『奴らは優良部隊。雑魚の野戦師団とはちょーーーっと、違うぞ? 新鋭部隊も交じっておるから、多少警戒じゃ。くくく、ここからが実戦テスト本番じゃ、心してやれッ!』



 おうよ!!

 だが……その前に───。



「───死ね、ブ」


 タ……?





 あ!?




 は、


 は……、


「───は、はえええええ!!!」


 あれほどの傷、

 あれほどの痛み、

 あれほどのデブ、が───?!


 ブーダスの野郎は、近衛兵団の接近に気づくや否や、ガバリと起き上がり、物凄い速度で近衛兵団に向かって逃げていきやがった。


「くそ! 走れるデブだったか!」


 ジャキリ!! と、今更にマシンガンを構えるが、……もう遅い!

 あっという間に近衛兵の集団に紛れ込んでしまったブーダス。

 その姿は、すでに大兵力に飲み込まれて見えなくなった。


『今は諦めい。時間をかけるとそうなる。……学習したか?』


 馬鹿め、とでも言いたげに魔王が口を歪める。


「ち!!………………まぁいいさ。あの怪我じゃぁ、そう長くもないだろう」

 と負け惜しみじめて言う。


 どう見ても悔しそうだが、突っ込む奴は魔王しかいない。


 本音でいえばトドメを刺したかっただろうに……。


『代わりと言っては何だが。……あの兵団は、例の団長が指揮しておるらしいぞ──』


 と、魔王が漏らした瞬間。

 バイザー内のクラムは、顔面全体を凶悪にゆがめる。


 それはもう、狂気のごとく嬉しそうに、


「今日一番のいい情報だ! 魔王!……良い子だ」

『ワシはお主の娘じゃないぞ』


 ヤレヤレといった様子でため息をつく、

『───では、実戦テストだということを忘れるな? 補給は気にせず、思う存分やれ』



了解コピー!』



 そして、クラム 対 近衛兵団の戦いが始まる。

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