第46話「俺の家族を……」
「リぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃズ!!」
愛しき家族の残り香───俺の手に残る今唯一の肉親で、
最後の家族!!
「リぃぃぃぃぃぃぃぃズぅぅぅぅぅ!!」
逃げる?
どうでもいい!
勇者?
どうでいい!!!
義母さん、ネリス、ミナ───?
「どーーでもいいから、リズをぉぉおお!」
隠れ場所から飛び出すクラム。
ドラゴンのブレスの着弾点からは離れていたため無傷だったものの、周囲は酷い有り様だ。
燃え、溶けて、流れる大地───!
辛うじて生きているのは、半欠けの負傷者のみ。
彼らの上げる断末魔、
狂ったような笑い声、
激痛への叫び、
地獄だ……。
地獄だ……。
地獄だ……!
だが、
それがどうした!
のたうち回っている奴も、
瀕死で血ヘド吐いてる奴も、
飛び出た
みーーんな!
俺をこんな目に合わせたクソ野郎どもの、仲間じゃないか!
知るか!
ざまーみろ!
いいからどけぇぇ!!
足枷を盛大に鳴らしながら駆けるクラム。
溶けた地面が足裏を焼く……。
痛みは限界を超え、感覚などとっくにない。
今、この場を切り抜けても二度と走れないだろう。
それが?
「──それがどうした!!」
リズを……!
あの子を守るためなら、足の1本や2本くらい……「いるかぁぁぁ!!」
最後に『教官』がいた場所にリズはいた。
───そこまで行けば!
幸いにも、『教官』らがいた位置にはブレスの着弾はなく、無事なようだ。
あのドラゴンは、あくまでも大軍目掛けてブレスを降らせたということだろうか?
『α個体をロスト……。
必死でリズを探すクラムなど、目にも入らないかのように、空に浮かぶ少女の像はブツブツと謎の言葉を放つ。
それは王国軍や『勇者』に向けたものではないらしいが……?
『……出動部隊の装備は? 重武装か?……ん、了解した。───『軍』の介入を招く事態だけは避けよ』
空から降る声に、どうしてもルゥナのそれと重なる。
確かめたい衝動にかられつつも、クラムはリズを救うために動く。
できることなど、何もないと知りつつも!
「リズ! リぃぃズ!──どこだッ!」
ようやくたどり着いた位置にはリズの姿はなく、
「貴様……?! クラム・エンバニア───生きていたのか!?」
『教官』が一人そこにいた。
「てめぇ! リズは! リズはどこだ!」
「てめぇ……だと?」
口の利き方がなっとらんな───と、『教官』が額に青筋を浮かべている。
「ごちゃごちゃしゃべる気はねぇよ! リズを返せば見逃してやる!」
……は?
「クズが一丁前の口を聞くじゃないか?」
クラムの怒気を平然と受け流していたはずの『教官』はこの時ばかりは、いつもと違った。
「ハッ! ひどい目にあったもんだよ……。命があっただけでも運がいいのだろうが、」
コキキと首を鳴らす『教官』、
「───軍は壊滅。『勇者』は好き放題。おまけに囚人兵に
グンっ、と体を引き絞るように身を落とした『教官』は、
「おらぁ!」と、拳をクラムの
ドスッという鈍い音のあとに、途端にこみ上げる吐き気と激痛───!
「ゲェエエエエ!」
ビチャビチャ……と、胃液が
「素人が舐めるんじゃぁああねぇ!」
クルっと体を反転、戻しざまに作った遠心力を生かして回し蹴りぃぃぃ!
ドカっと吹っ飛ばされクラムは、無様に自分の吐しゃ物に突っ込む。
「ふん! 素人に毛が生えただけの囚人兵が敵うものかよ」
ひゅぱっ、と足を戻すと残身。
ボロとは言え、槍を持ち、皮鎧を着たクラムを素手で圧倒して見せた。
「リズぅぅ? あのガキなら『勇者』殿のご命令で、さっさと後方に送ったよ!」
ペッっと吐き掛ける唾は、這いつくばるクラムに着弾。
「安心しろ……。『勇者』殿はあれで、かなり飽きっぽい───」
リズが……無事?
「───飽きたら、今度は俺が使ってやるよ! ギャハハハハハ!」
食らったような声で笑う『教官』。こいつには、
コイツには何度も煮え湯を飲まされている……!
何度も何度も、何度もぉぉ!
「てめぇも……。テメェもぶっ殺してやるぁぁああ……!」
何とか絞り出した声に、
「できねぇことほざくな、ゴミがぁ!」
ドゴス! と腹に喧嘩キックを叩き込まれ、体を九の字に苦悶するクラム。
「あぁ!? 舐めんなゴミが! ったく、使えねぇ連中だよ、テメェらはよー!! あわよくば、勇者を暗殺でもしてくれねぇかと思ったが……」
はぁ?
何を……───ぐぅぅ!
「どいつもこいつも舐めやがって、俺の軍まで木っ端みじんだよ!!」
何を言っているんだコイツは!?
「て、テメェの事情なんぞ知るか……! り、リズに手を出したら、」
「どうするってんだよ!? あぁん? 下らねぇこと言いやがって。あのガキは滅茶苦茶にしてやるよ……! 犯しては
オラァァと、思いっきり顔面を蹴り飛ばされ、ゴロゴロと転がるクラム。
反撃の機会をと、槍を手放さずにいたが、
(つ、強い……!)
勝てない!
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