第45話「ドラゴン襲来」

 やや回想(時系列混乱しないでね!)


 数日ほど遡ります。

 人類軍が壊滅するまでの経緯を追っていく。


 そして、クラムが魔王に収容されるまでの回です。


──────────────────


近接航空支援CASの制限を解除するタリホー!───防衛予備行動を実施ブチカマセせよ


 無機質でいて、それで美しい発音───。


 魔王は、もはや会話をする気も起きないとばかりに、勇者達を突き放した。


 そして…………。



 ───それ・・は来た。



 最初は、兵のときの声かと思った。



 実際、へたり込むクラムを目掛けて(別にクラムを目掛けていたわけではないが……)突撃を開始した近衛兵団の歩兵達と、後方に控えていた予備部隊の大群が地響きのごとく足音を立てて突っ込んできた。


「「「「ウラァァァァァァァァ!!」」」」

「「「「フラァァァァァァァァ!!」」」」

 

 王国軍のときの声と、予備として集まった各国軍の声が合わさり耳をつぶさんばかりの大音量。


 実際に、すごい勢いだ。


 勇者の威を借りての蛮勇。

 誰もが、最強の男の背後に隠れて威勢をあげるのだ。


 ドドドドドドドドド、と───!!


 この勢いでは、クラムも死体ごと踏みつぶされかねない。

 軍馬ほどではないにしても、密集隊形の歩兵も十分に脅威だった。


 先程、重装騎兵をあっという間に掃き清めた光も鳴りを潜めている。

 それを好機と見たのか、テンガが隊列の先頭に躍り出た。


「おらぁ! 走れ、のろまどもがぁぁ」


 テンガは走るというよりも、跳躍ちょうやくといった勢いで魔族の城壁に取り付こうとする───まさにそのとき、






 ……………………来たのだ。






 テンガと、

 近衛兵団と、

 各国の予備部隊にとっての悪夢が───!





 ──キィィィィィィィィィィン…………!





 と、聞いたこともない……。

 まるで、高価な金属を磨く職人が立てるような美しい音色。

 そんなものが高空から響いてきた。


 空───……?


 な、

 なんだあれは??


 遮る物のない戦場を、我が物顔で闊歩かっぽしている人類の軍隊が、


 気付く。


 ふと、空を見上げた誰かが気付いたのだ。

 

 ───あれは……? と、


 それに、被さるのは不特定多数の声。



 ……………………ド、

 ドラ──────。



「───ドラゴンだぁぁぁぁああ!!」



 ど、ドラゴン……?

 死体の山から顔を出したクラムの目に写る影──。



 陽炎かげろうをまとわりつかせた、銀色の鳥の様なものが見えた。

 それも複数。


「ド・ラ・ゴ・ンだぁ?」


 兵の叫びに気づいたテンガはその場に足を止め、空を見上げる。


「あ、ありゃぁ……」

 何か知っている風な様子で、目を細めてその鳥の様なものをみている。


 おいおい───と、

「せ、戦……闘機、だとぉ?」


 テンガの呟きをクラムが耳にすると同時に、チカッっと鳥のようなものが光を放つ。


 それは煙を吐きつつ、徐々にこっちへ……───。


「じょ、冗談じゃねぇぇ!!」


 あの、

 あのテンガが初めて焦り声をあげた。


 そう、あのテンガが!

 

 『勇者テンガ』が恐れをなした、その鳥───いやドラゴンを……!


 きびすを返すテンガ───その背後に迫ったのは、煙を吐くドラゴンのブレスらしきもの……!!





 シュゴォォォォオオオオオオ!!! 


 ォォォ───…!


 ォ──……!


 ……!


 音が消え……。

 次の瞬間─────────!!



 大地が破裂した。

 そう、文字通りの破裂だ。


 ……そうとしか言えない。


 ドラゴンのブレスは、近衛兵団の真っただ中に飛び込むと、







 ズッッ!──グァアアアアアアン!!!






 と、巨大な火柱を上げる。


 そして、

 兵士を───!

 近衛兵だったものを───!


 空と地中と周囲にまき散らした!! 


 そうとも、撒き散らしたのだ!

 焼き焦がローストして!!


 兵の絶叫すら炎は溶かしていく。

 隊列中央に飛び込んだそれは、ただの一撃で近衛兵団を壊滅に追いやった。


 ムワァっ……! とした熱風がクラムにも押し寄せる。

 そこには、焼けた肉やら血やら……臓物の匂いが混ざって──もう何の匂いなんだか分からない!


 オエエエエエエェェ──と、人目もはばからず吐き戻すクラム。


 そして、第2撃目!


 空に遊弋する、鳥───いや、………ドラゴンは複数!


 なんてこった!

 奴ら一頭じゃないぞ!?


 複数………………群れだ!


 ……これは、まずい!!


 消滅した近衛兵団を目の当たりにした予備部隊の動きがにぶる。


 鼓舞し、

 あおり立てていたテンガはいない。


 あの炎によって消えたのだろうか?


 空に浮かぶ少女の姿はいまだそこにあり、今は口を引き結んで成り行きを見守っているようだ。


 その少女の像を突き破るように煙を吹く真っ赤なブレスが予備部隊にまっすぐに突き刺さり───。






 ズッッ!──ガァァアアアアン!!!



 更にもう一発!


 

 ドッッ!──ガァァアアアアン!!!





 もうもうと立ち込める炎の中──。

 予備部隊は、一兵も残さず焼却………。


 本当にこの世から消えてしまった!


 なんだ、

 なんなんだ!?

 そんなことありうるのか?


 だが、この目で確かに見た!

 だ、だけど、何が起きている!?


 これが、

 これがドラゴン……?


 ドラゴンの力!!??





 ──テンガは、ドラゴンを倒せるんじゃなかったのか!?



 いや、テンガなんぞ死んでしまったならばもうどうでもいい!


 今は───。


 今は──────!!





「リぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃズ!!」

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