第47話「我らはMAOH」

 ぐ…………。


 『教官』がこれほど強いなんて───俺では……勝てないッ!


 地に伏せるクラムを凶暴な面で見下ろす『教官』は、

「どいつもこいつも……クソがぁぁああ!」


 グググゥと持ち上げた足を、クラムに叩き落とす───!


「死ね、ゴミぃぃぃぃ!!」


 ブンと振り落とされるそれを、

「ぐぉぉぉおお!」

 ごろりと転がり、辛うじて一撃をかわす。


 だが、かすった頬がブシュっ! と割け、血が噴き出る。

「チ……! もういいッ」

 渾身の一撃だったのだろう。

 ズン!! と地面に大きな穴をあけて強烈な一撃を見せた『教官』。


 だが、追撃はなかった。


 それっきり、興味を失ったかのように、きびすを返す。


 その頃には、ようやく生き残りの兵がパラパラと姿を見せ始めた。


 連中も壊滅したとはいえ、多少の人員は生き残っていたらしく、30名ほどの近衛兵が集まりだした。


 騎馬と歩兵でバラバラの編成だが、クラムから見れば脅威という他ない。


 近衛兵は『教官』の姿を認めると、急速に接近しつつあった。


 クソ……!

 まて、まてよ!!───『教官』てめぇ!


「───リズを……リズを返せぇぇええ!」


 『教官』は、ちらっと振り返ると、

「ハッ、飽きたらお前にも貸してやるよ」


 そのまま、ギャハハハハ! と高笑いしながら去っていく。


 その『教官』の前に、ズラリと一個小隊規模の兵が整列し、整然と敬礼して見せた。

 その中から一人の近衛兵が進み出ると『教官』の前に膝をつき───兜を脱いだ。


 こ、コイツは……!


「殿下!?……ご無事で!」

 見間違うはずもない、かつてクラムを逮捕しやがった近衛兵団長のイッパだ───。


 イッパは、ガン!! と膝をつくと、『教官』に対してこうべを垂れる。


 ……で、殿下だぁ?


「無事なものか……。大損害だ! 父上になんと報告する!」

 忌々しそうに空を仰ぐ『教官』。


 彼の見上げる先にはドラゴンが悠々と舞っていた。


「面目ございません……。しかし、」


 ガバっと、顔を上げたイッパは───、


「『勇者』は現在行方不明であります。先の魔王軍の攻撃で死んだものと」

「バカを言え……! あの化け物が、あれしきで死ぬものかよ」


 憎々しげに口をゆがめる『教官』はドラゴンを睨みつける。


「魔王軍とて、勇者を殺すには手を焼くだろうさ───」


 そういって早々に立ち去ろうとするが、


『ちと、待て……』


 先ほどから沈黙し、対話の姿勢を放棄していた魔王が『教官』に語り掛ける。


『このまま帰られるのは──うむ、……気に食わんな』


 空に浮かぶ像が教官を見据える。


『当然、お主には軍を退いてもらうぞ? 嫌とは言うまいな? でなければ──』


 ───こうだ!


 そう、言わんばかりに、少女が腕を降り下ろす。


 その動きに合わせてドラゴンが急降下し、『教官』目掛けて最接近する。

 ブレス攻撃がないのは、威嚇いかくのためだろうか?


 キィィィン! と急接近するも、まだまだ遠い。

 だが、こちらを見ているという事実が『教官』達を硬直させる。


「んんな!?」

 驚愕した『教官』に対して、近衛兵の動きはさすがに早い。

 勝ち目がないことを知りつつも、体を張って『教官』を守ろうとする。



『死を持って償え───総員、撃て』


 

 パァン……!


 ドタリと、近衛兵の一人が倒れる。

 ドラゴンはいまだ高空、ならば彼ではない。


 何が───……?


「な、何かいるぞッ!」


 ヒュッと剣を抜き、何もない空間を警戒する近衛兵たち。

 クラムには意味がわからなかったが、彼らは警戒している


 クラムと違い、戦争屋の彼らには見えているらしい。何かが……。



 空間をゆがませる陽炎の様な何かが───。



「チ……! バレたか、ステルスコマンド解除! 誤射するぞッ」


 バチバチバチ! と稲妻のような音と主に、奇妙ないでたち・・・・の男達が現れた。


 昆虫の様なフォルムに、つるんとした全身鎧。

 しかし、フルプレートアーマーの類ではなく、どちらかといえば華奢な印象を受けるそれだった。


「な、何だお前ら!」

 近衛兵の一人が暴力的に言葉をぶつけると、


「馬鹿者! ま、魔王軍だ!」


 教官だけは、驚きに目を見開き腰を抜かしている。

 ブルブルと震え「魔王軍……魔王……」───と譫言うわごとのように呟いている。


 一方の魔王軍は、奇妙な黒い塊を、まるでボウガンのように構えている。


 そして、そのうちの一人が片手を耳に当てるような仕草をしたかと思うと、


「こちら第一班。……了解コピー殲滅許可確認ミナゴロシ───全隊、撃てぇぇええ!」


 さっと、手を戻し──パァン!

 と、破裂音!


「撃て撃て撃てぇ!」


 パパパパパパパパパッパパパパパッパパパッパパパン!!!


 パパパパパパパパパッパパパパパッパパパッパパパン!!!


 連続した破裂音!


 なんだ!?


 クラムが疑問に思う間もなく、ドタドタドタと、近衛兵が折り重なって倒れる。


「対象の30%を無力化! 攻撃を継続するッ」


 ザッザッザ! と歩きつつ、パン、パァン! と破裂音を伴い歩く──そのたびにドタリドタリ……と近衛兵が、死ぬ。




 つ、強い!




「殿下! お逃げください」


 倒れた兵を盾にしたイッパが、『教官』に逃げるよううながしている。


『む? 逃がしはせんぞ……──オイタが過ぎるようじゃ…殲滅せよ!』

了解コピー!」


 パンパンパァン! という破裂音とともに、近衛兵が抵抗もできずに倒れ伏す、


「ちぃぃ! 小癪こしゃくな魔法をぉぉぉ」


 おおおおおおおお!! と、イッパが手近の死体を盾に突進。

「な、なんだコイツ! 射線を集中しろぉぉおお!」


 パンパンパンパパパァン!


 魔王軍の攻撃はイッパに集中するが──!


 死体が有効な盾となったのか、イッパは無傷だ。


「く……9mmでは無理だ! ライフルの使用許可を! はや───ガハッ!」


 ズン! と、兵の死体ごと魔王軍に一人を貫く、イッパ。

「笑止───……剣すらない者など、敵ではない!」 


 そして、剣を引き抜き、魔王軍の真っただ中に突進すると振り抜いた。


 ズバァァと、切り裂かれた魔王軍が数名合わせて倒れ伏す───。


「ぐあッ! 本部! 至急救援を! KIA、KIA発生!」


 イッパが魔王軍の集団に突っ込んだところで、急に動きが鈍る魔王軍の兵。

 先ほどの圧倒的な攻撃が嘘のように鳴りを潜めた。


「く! 懐に入られた! 味方の背中を撃つぞ! 射撃中止、中止ぃぃい───」

「他愛もないッ!」


 慌てた様子の魔王軍に対して、イッパは容赦のない斬撃を繰り出すが、

「退避! スタングレネードを使う!」


 魔王軍の一人が、腰から筒を引っ張りだすも、ピィンという硬質な音を響かせた!、


「グレネード!───……アウトッ!」


 小さな筒は、カン、コン……! と、頼りなげに転がり地面で跳ねる。



 それを見て嘲笑うイッパだが、

「はははは! きゅうして石でも──」







 ヴァァァァァァァン!!!!

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