第48話「テンガ無双」

 ──ヴァァァァァァァン!!!!



 ッ……!

 キーン…………!


 あ?

 あーあーあー!


 くそ、耳が……!



 キーーーーーーーーーーーーン……!



 な、何が……? 何が起こった?!


 すさまじい光と音で、一瞬だけ意識の途絶えていたクラムだが、

「ぐぅ……癇癪玉かんしゃくだまとなッ!」

 フラフラになったイッパが、それでも剣を手放さずに立っている。

 ……こいつも十分バケモノだ。


 それは魔王軍も同様の感想だったらしく、

「バケモノめぇ……! スタングレネードを至近でくらって平気でいやがる」


 だが、その一瞬のスキで十分だった。

 魔王軍はすでに体制を整えており、攻撃の矛先をイッパに向けるだけでよかった。



「撃───」



 まさにイッパを撃ち取らんとしていた魔王軍。勝利は揺るぎないかと思われたが──。


 魔王軍の指揮官らしき男が配下に合図を送ろうとした、まさにその時……!!


 魔王軍全員の───いや、この場にいたもの全ての耳に、ドォォン!! と、いう爆発音が響いたのはその瞬間だ。


 何事かと、全員が揃って空を見上げる。


 その視線の先には、支援のために急降下していたドラゴン……それが2匹。

 そのうちの一匹が火をき、きりもみ状態で落下していた。


「───……な!? 無人機、ロスト?!」

「バカな! どうやって!?」

「対空火器があるのか!」


 瞬時に動揺し、動きに精細さを欠く魔王軍──。


 そして、更に異変は続く。

 

 ドラゴンの落下とは別に、キィィィン! と、空気を切り裂く音───!!


 その音は……。


 あぁこの音は、知っている。

 知っているぞテンガぁぁぁあああ!


 そう、これは──!

 『勇者テンガ』が跳躍し、空気を切り裂く時に響かせている、勇者の飛翔音のそれだ。



 やはり───生きていたか……!!



 悔しげに瞑目するクラムの耳に、

『む!? 武装全隊警──』


 魔王の焦りに満ちた警告が飛ぶ。



 ィィ……。


 ィィィ───!


 キィィィィィィン!


 ッ……!!


「砲弾の落下音? マズイ……!」


 空気を切り裂く音に、魔王軍指揮官は空を見上げる。


迫撃砲モーターだ!」


迫撃砲モーターイン来るぞカミィィング!!」




 ……違う。勇者だ───!!


 勇者が来るッッッ!!






 ッッッ───ドォォォォォオン!!!!





 もうもうと噴き上げる煙に、降り立つ達人影───。


「てめぇぇぇらぁぁ……」


 ブン……ベチャ! と、手に持っていた何かを投げ捨てる。

 女の……………………首?


 見たことのない女だったが、

 テンガの女の一人のようだ。

 

 ドラゴンの攻撃はハレムにも被害を及ぼしていたようだ。

 ハレム───まさ、か……な。


 ノシノシと歩くテンガ、

「ミサイルとかよぉぉぉ……ファンタジーな世界に随分ずいぶん無茶苦茶してくれるじゃんよー」


 その声は怒りに満ちている。

 気圧けおされるように、後退あとずさる魔王軍。


 テンガの表情は、怒りに満ちている。

 理由は…………あぁ、たぶんさっきの魔王軍の攻撃で女に被害が出たんだろう───。


 こんな時でも、義母さんや、ネリス……ミナの顔が浮かんだ。


 にくいし、

 くやしい……が、死んで嬉しいのかと言われれば───。


αアルファ個体? いかんッ! 交戦するな、即時撤収せよッ! 全機体を現場に急行させぃ、部隊の後退を支援する!!』


 ギュゴオオオオオォォォ! と、残ったドラゴンの1匹が超低空に降りてくる。

 片割かたわれは殺されたがもう一匹は生きていたようだ。


「ぐ……! 近接航空支援CASの援護を受けて後退する! 重装備は放棄! 遺体の回収は今は諦めろ!」


 ガポン、と兜を脱いで次々に投げ捨てていく魔王軍。

 腰につけていたびんの様なものも捨て、手には黒い塊だけを携えている。


 意外なことに、顔は普通の人間に見える。


「要塞から、現地軍が急行している。ゴブリンどもを盾にしてもかまわんから遁走とんそうするぞ!」

「「「了解コピー!」」」


 パンパンパンッ! と破裂音を響かせ、テンガに敵意を集中させつつも逃走体制にはいる魔王軍。


「逃・が・す・か・よ!」


 宝剣を構えると───!


「死ねや!!」

 ブワッ! と振り抜き衝撃波を放つ。


「来るぞぉぉお! 隊列変換ッ、キャンセラー持ちは最後尾に!」


 しかし、魔王軍の指揮官は冷静だ。部隊の隊列を入れ替えると、


「何ッ!?」


 テンガの必殺の一撃。

 それは、魔王軍の最後尾の兵に当たったかと思うと───その衝撃波は、彼の体に当たるそばから掻き消えた……。


 テンガの必殺一撃がまるで何事もなかったかのように、魔王軍を通過していく。


「白兵戦のみに注意すればいい! 後退支援射撃を行いつつ、順次撤退!」


「「「了解コピー!」」」


 パンパン! と破裂音を立てる魔王軍。

 さきほどの威勢もなく、大慌てで逃げていく。


 しかし、見事に連携してるのが地に伏せているクラムの目にも鮮やかに映った。


「い、今のうちに……」


 『教官』こと殿下は、近衛兵団長のイッパに付き添われて逃げだしていた。


 くそ!

 リズを……!


 行かせるものか!

 戦闘とかまけることなく、クラムは起き上がろうとするが───。


「た、弾切れです!」

弾倉最後の一本ですマガジンラスト!」


 魔王軍は、連携しつつ逃げているが、それでも危機は迫りつつあったようだ。


『もう少し……もう少しじゃ! 耐えろ!』


 ゴォォォォオオオ! と超低空飛行のドラゴンが、ようやくテンガをそのあぎととらえんと接近していた。


 そしてぇぇぇええええ───!



 ──ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッッ!!!!



 ついに、ドラゴンが火を噴く。

 勇者を浄化せしめんと!!


 それは、まるで川に投げた水切の石のよう。

 炎が着弾するたびに、大地から次々に柱が立ち上り───不可視のブレスが飛び交っていることが見えた。


 だが……!


「舐めんなボケェェ!!」


 テンガが───「オラァァァ!」と斬撃を連発。


 衝撃波ソニックブーム! 衝撃波ソニックブーム! 衝撃波ソニックブーム



 巨大なブーメランのような衝撃波が空を切り裂く───。


 そして、─────ボォォォン!! と爆発音がひとつ。


「な……?! に、2番機、ロスト!」

「1番機もアイツか……!? バケモノめぇぇ」


 テンガに切り裂かれたドラゴンが地面に激突し、ズドォォォン! と盛大な火柱を上げる───。


『諦めるな! 3番機と4番機は弾を温存しておる! もう少しで発射地点に到達する。それまで、耐えろ!』


 空に浮かぶ少女の像は、先ほどでの余裕綽々よゆうしゃくしゃくの表情は消え、純粋な焦りが見えた。


「所長、危険手当上乗せしてくださいよ!」

 リーダー格の魔王軍の一人が、逃走方向とは逆に立つ。


「お前ら援護しろ! あのバケモンに目にもの見せてくれる!」


 黒い塊をポイっと投げ捨てると、懐から銀色に輝く、美しい楽器の様なものを取り出した。


「班長……それ───」

 あきれたような声の仲間に、


「私物だ。高かったんだからな」

「個人じゃ違法ですよ。あー……業務日誌に書けませんね」

「死人も出ている。今更だ」


『あー……マグナムじゃと? ったく。ワシは何も見とらん』


 プイすとそっぽを向いた少女。その間にも、遠くの空にドラゴンが集まっているのが見える。


「いくらαアルファ個体でも、こいつを食らえば、しばらくは動けなくなるはずだ」


 魔王軍指揮官が、ジャキっと正眼に構える。


 それを──、

「へー。カッコイイなそれ……!」

 宝剣を肩に担いだテンガが、正面に向き合う。


「ち……! バケモノめ」

「剣 VS 銃───ひゅうぅぅ……いくぜぇぇえ!」

 ダンっと踏込み、一気に跳躍ちょうやくするテンガ。

 距離などあってなきが如しと───!


「っく、班長を援護する! ッぇぇぇえ!」


 パパパパッパパパパパパパパパパッパパパパパパパン!!


 男たちの構える塊から、一斉に破裂音が響いた!!

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