第86話「滅せよ、故郷───」

 ───エントリィィィィィ───!!!


 ガシャン! と、クラムを固定していたラックが外れて、地上へと自由落下を開始する。


 しかし、背中に背負っている落下傘には主索が伸びており、ミサイルの腹にある固定フックに繋がっていた。

 それが故に、

 主索がビュンビュン引き出されて───背負っている落下傘に繋がりぃぃぃ……

 

 ボン! と強制的に落下傘を開かせた。


初降下はつこうかっ!」

 空挺降下時の開傘までの時間を、降下符号をもって確認する。


 引き出された落下傘は空気を浴びて猛烈な勢いで花開いていく。

 だが、まだ完全には開いていない。

 だいたい──二、三秒はかかるだろう。


二降下にこうか! 三降下さんこうかっ! 四降下よんこうかっっ!! ──点検っ!!」


 そして、数えきると──チラリ……傘の解放を──確認!


「傘開放確認! 点検シーケンス起動! …………オールグリーン! 異状なし。制動用ブースター準備!」


 高度は約1000m程、恐ろしく高く感じるが……その分、王都がまるで箱庭の様にも見えた。


「……着地に備える! ………──リズ…見えるか?」

『うん……』

しばらくは居たんだろ? …いいんだな?」


 えて「何が」とは言わない。


『いいよ。……いいよ。──いいよ! 叔父さんの思いは私の想い! いいんだよ!』


 だから、


 終わりにしよう! ───と、リズは言う。


 そうだ……終わりだ。

 綺麗で、

 小さな…

 懐かしい故郷、

 そして─────………敵の本拠地!!


「消えろ! 消えてなくなれっ」

『油断するなクラム! 勇者がいた場合に備えて、同時着弾にした。そのため、高高度での落下にせざるを得ん!』


 つまり……


『高度1000mでの降下───約3分間はお主は無防備じゃ!』


 勇者がいた場合、問答無用で攻撃されるだろう。

 その時は、一度落下傘を切り離し、自由落下に切り替えて…ギリギリのところで予備傘を開く手筈だった。


「上等…! 射てるなら射ってみろ、テンガぁぁっぁ!」


 クラムとしてはそれでもよかった。

 テンガが衝撃波なりなんなり・・・・をぶっ放してくれれば、位置が特定できるというもの。


『……よし! 応射なしじゃ! クラムよ、露払いが行くぞ! 巻き込まれるな!』


 魔王が言うのは───


『お、叔父さん……えっと、みさいる・・・・着弾まで、あと5秒!』


 ゴォォォォォォッォォォォ!! と空を割る大音響。


 一発はクラムが乗っていたSLBM改。それがクラムを投下後、Uターンし、目標へ───


 そして、

 それ以上に、空を圧する途方もない質量……!


 一度大気圏を割り、宇宙空間へと躍り出た弾道ミサイルは……今まさに鉄槌の如く王都に降り注ごうとしていた。


 その数…潜水空母全力発射の───23発!


 発射サイロ24基中、

 一発はクラムの載ったSLBM改……それは今まさに、着弾する。

 残りは純粋なSLBM──つまりは大型ミサイルだ!


 そして、先発はSLBM改。

 クラムの母機で、彼の落下地点を予測して忠実に引き返し、腹に抱えていた主人を護らんと大地を焼くべくぅ───……


 着弾!!!


 地上約50mで爆発! 破片と散弾を撒き散らし王都の民家を無茶苦茶に吹き飛ばす!


 老若男女の区別なく、

 戦闘、非戦闘員も分け隔てなく───……平等に!



 ボォォォォォォン!!! ザァァ───



 無数の針状の散弾が降り注いだ先には、ぺちゃんこになった民家の残骸と、なにか赤黒いもの……

 最後にブースター部分だけになったミサイルが落下し、単純な質量兵器となって小さなクレーターを穿うがつ。



 これでクラムの着地点の安全は確保。



 そして未だ落下傘降下中のクラムの上空に無数のミサイルが───隕石の如く、空を圧して……降り注ぐ。


 クラムの真横を…………


 いで、そのまま眼下へと流れていった───



『着弾まで───2、1……だんちゃぁぁぁくインパァァァクトナァウ!!』







 ───………



 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 !!!!!! ドン !!!!!!!!!!!!



 !!!!! ゴォン !!!!!! ボン !!



 !!!! ボォン! ボン…!! ドンッ !!



 !!! ッ!!!!!! ゴオォォォオン !!


 

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!







 ───ズォォオオオオオオオオオオオオン!!!





 …火山の噴火。

 まさにその一言に尽きる。



 高度500mくらいをフラフラと降下中のクラムをして、装甲越しにジリジリと熱風を感じる気さえした。

 実際、凄まじい熱が発生しているのだろう。


 耐熱仕様の落下傘が下からの熱を受けてパンパンに膨らんでいる……そして、発生した上昇気流になかなか高度が下がらない。



 濛々もうもうとした煙に通常の光学カメラは用をなさなくなっていた。



「魔王! 前が…下が見えない!」

『おっほう……やり過ぎたかのぉぉ?』

 うっひょー! と言わんばかりに大はしゃぎの魔王。

 …上昇気流と爆炎にあおられているクラムにはそれどころではない。


『まぁ落ち着け、ある程度は落下傘も操作ができる。バンドを引けば前に進むから、自分で調整しろ』


 バックパックから垂れ下がっている落下傘は腹の前にある予備傘と連結しており、都合クラムを吊り下げている落下傘のバンドは肩の上にある状態だ。


 それを引けと言う。


 たしかに訓練でやったことがあるが……グライダーのように飛ぶと言えば飛ぶ。

 微々たるものだが……



 ぐぃぃぃぃぃ……


 ………



「おい! 全然進まねぇぞ」

『むぅ? 随分派手に燃えておるの?』


「アホォ! 派手にやり過ぎだ! ……更地さらちになってるだろうが!」

『安心せい、城下町だけじゃよ。お主の生家も粉みじんにしておいた。リズの要望じゃしの』


『ごめんなさい…叔父さん』

 ───勝手なことをして、と。


「いや……ケジメだな。俺もそうしたさ」


 眼下で燃えている……いや溶けている街並みのどこかにあるクラムの家。

 それはすでに灰と炭とガラスになってしまった。


 既に感慨はない……あそこはもうただの廃墟だ。

 家族が戻ることは無い。


 ここは敵の本拠地……ただそれだけさ。


『とりあえず、ロケット推進を使え…多少は前に進むはずじゃ』

 そうか。エプソ自身の推進装置を使えばいいのか。


 フィと、バイザー内を操作しロケット推進を選択。後は脳内処理で調整し───ロケットブースト開始!



 ブォォォォォオオオ! と、

 足裏と、バックパックから噴射されるロケット推進によってクラムの体を前へ前へ……!

 そして、若干体を傾けることで徐々に高度も下がり始めた。



「降下し始めた! 目標地点に向かう!」

『うむ……ではこっちも支援行動を開始する……ところで───』


 画面の向こうで魔王がバツの悪そうな顔、








『───一つ問題がの……』

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