第59話「大打撃!」

 ───コンタ~~~ック!!


 クラムは、訓練で教わった発進時の号令を威勢良く叫ぶ。


 しかし、これ……発進ではなく、

 発射といったのだが───??



『───発射します』



 バシュ!



「ぐお!?」

 身体にかかる強烈なGを感じ、思わず悲鳴がもれる。

 その間にもバイザーには高度計や速度などが表示され、目まぐるしく数字を回転させていた。


 クラムの搭乗する機体を俯瞰ふかんしてみると、それは航空機の腹からまるでミサイルのように発射される……───というより、まんま大型ミサイルのそれだ。


 推力はロケット推進。


 尻と脇についたブースターから真っ赤な炎が長大な尾を引き加速していく。

 目標は、王国の首都───その郊外にある広大な敷地、練兵所に向かっていた。



 キュゴォォオオオオオオオ!!



 音速を越えた、地上を目指す一筋の矢のごとき大型ミサイル。

 それは、情けも容赦も慈悲もなく───。



 一路、眼下の街を目指す。



 街


 町


 まち……。


 そこは、

 王国軍の正規軍が駐屯する軍隊の町。


 王都の衛星都市ではあるが、それよりも軍隊色が強く───住民の大半は軍の関係者とその家族であった。


 その町は常に平和であった。しかし、今日をもってそれは変わる。


 天高くより降り注ぐ轟音が、すべてを変えるのだ。

 そうと知らぬは住民ばかり。


 だが、さすがに空を圧する轟音に気付かぬはずがない。


 兵も、住民も、

 訓練と、仕事と、

 全てが全て、それを中断して空を見上げた。


 そこに映るのは、一本の雲退く巨大な……、

怪鳥ガルダ?」

 と、誰かが言ったのを皮切りにザワザワと、そして、その腹から生まれ落ちた火の玉に目を奪われる。


 火を噴き、町を目指す悪意の塊───。


 まるで、

 まるでそれは……?


 誰かが気付く、あれは悪意のそれで……。

 空から襲いくる───、


「ド……」


 ドラゴン───!?


 ギュゴゴオオオオオオオオオ!!

 ───ォォォォォオオオオオ!!


 その火を噴くドラゴンは、途中で何か黒い物体を吐き出したかと思うと、燃え盛る体をそのままに───……。



 ッッ!!!



 野戦フィールド師団ディヴィジョンの本部に突き刺さった。



 ズッガァァッァァァァァァッァン!!



 と、巨大なキノコ雲が吹き上がり、建中の野戦師団を、再建不可能にした。


「なんだ!?」

「な、なんの音よぉ?!」

「か、火山が噴火したのか?」


 こんなところに火山があるはずもないのだが、街の住人も被害を免れていた兵も頓珍漢なことをいっている。


 ただ共通しているのは、驚きを隠せないということ───。


 が、次の瞬間。


 ブワワワアアアアアアァァッァァ!──と押し寄せた衝撃波によってもろい家屋ごとほとんどが押しつぶされてしまった。


 ボファァァァア……!!───と、薙ぎ倒される人々と家屋。


 そして箱庭のようなファンタジー世界の小さな町は、大型ミサイルに詰め込まれた高性能爆薬と、その後の衝撃波によって灰塵に帰す。


 無事だったのは、地形的に低い位置にいた野戦師団の一部隊と、訓練中の近衛兵団。

 

 生き残ったのはただの偶然なのだろうか?


 彼らの大半は、昼の休憩のため、一度天幕に入り、思い思いに過ごしているときだった。


 それは、近衛兵団長として魔王領から逃げかえってきた、あのイッパ・ナルグーも同様であった。

 彼の高尚な趣味の一環である、拷問趣味のそれを行っている最中のこと───天幕の隅で震えている少女を、さも楽しげに足蹴にしていた時のことであった。


 事態に驚いた近衛兵の若い騎士が勢い込んでイッパの天幕に飛び込んできた。

 そこで、既に事切れた少女や、……ズタズタにされた少女の死体と、今まさに痛めつけられんとしていた少女の姿を見て驚く。


 「北伐」時に誘拐した魔王軍の元占領地にいた少女たちやら、後に安値で買い漁った酷使奴隷たち───。


 それらが詰め込まれた檻が、ズラリと並ぶ醜悪な天幕。


 そこは、不衛生な生き物の発する酸えた臭いが漂っており、近衛兵団長クズ野郎そのもののようであった。

 もっとも。こいつの場合は、天幕の中のそれはいつも通りの光景だ。


 伝令のために訪れた若い騎士は、最初こそ顔をしかめたものの、職業意識を取り戻し、表情を引き締めた。


 この手の嗜虐しぎゃく趣味のある男だとは聞いていたのでそれほど驚きはしなかったものの、実際に目にしてしまうと、どうしても嫌悪感をあらわにしてしまう。


「何事だ!」


 ドカっと、ボロボロになっている少女を蹴り飛ばして脇に退けると、駆けこんできた兵に報告を促す。


 兵は嫌悪感を仕事人の顔で押し隠すと、

「───わ、わかりません!」

 と、阿呆な回答をしてしまう。


「馬鹿者ぉ! そんな報告があるか!」


 叱責を受けて、慌てて付け加える兵。

「ふ、不明ですが、野戦師団本部が爆発炎上! 町も壊滅しました! その……ド、ドラゴンらしき姿をみたと───」 


 ──ド、ドラゴンだと!?


 そう言ってイッパは青い顔をする。

 彼とて、あの戦場で魔王軍のドラゴンを見たひとりだ。


 だから恐怖する。


 ………あれが、襲ってきたというのか!?と。


「な、なんてことだ! 魔王軍めぇ、この地を襲いにくるとは、ふ、ふざけた真似を!」


 報告内容に、ぎょっとして体を仰け反らせたものの、流石は一軍を率いる長。


 一瞬で表情を取り繕うと、部下の前という事もあってすぐに平静を装う。


 内心は、かなりの冷や汗ものであったが……。


(───いや、待てよ?)


 ───ここは魔王領ではない。

 ここは我が祖国。つまり、こちらのホームグラウンドなのだ。


「フッ……。図に乗りおって……!」


 イッパはニヤリと口角を釣り上げると、

「伝令を出せ!」


 今は、逆に好都合かもしれん、と思い直していた。


 そう───。

 王国軍は、あの戦いで大損害を受けたが、それと同時に学習もし、ドラゴンや魔王軍に対する策を練り続けていたのだ。


 大損害を負った第二次「北伐」だが……。

 一足早く帰った伝令の報告をもとに、魔法技術を中心に特殊部隊を創設することに決定。


 対魔王軍、

 対ドラゴン、

 

 その専門部隊だ。


 それを、再建したばかりの新設近衛師団に組み込む訓練を実施中なのだが、今日この日は、まさにその訓練の最中の襲撃だった。



「いい機会だ!───迎え撃つぞ!」

 素早く装備を身にまとうイッパは、もう勝利を確信していた。


 ドラゴンなにするものぞ!


「魔法兵を出せ! ドラゴンを撃ち落としてやる!」

「はっ!」



 バシッと敬礼して応じる兵に、満足気に、頷くイッパ。




 さらに、ダメ押しとばかりに切り札の準備を───……。






「それと、私の天幕に───」

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