第60話「エプソ大地に立つ」

 近衛兵団長のイッパが気勢きせいをあげて、撃ち落とせと命じたドラゴン。

 その撃ち落とすべきドラゴンは既に着弾し、野戦師団本部を灰燼かいじんに変えていた。


 それはミサイルであり───、

 同時にクラム運ぶための、プラットホームでもあった。


 野戦師団本部───その手前で、クラムの操るエプソMK-2パワードスーツは強制的に射出。


 バシュッッッ───!!!


 発射と射出の凄まじいGを機体に受けつつも、急制動のブースターを噴出しながら、落下傘を広げた。


 ボンッッ!


 強化繊維と特殊鋼材が編み込まれた───耐火、耐刃に優れた落下傘がフックによって自動開傘される。


 開傘衝撃はかなりのものであったが、エプソMK-2は耐えきった。


「なるほど……強化人間ブーステッドマンでなければ、死んでいるよ」

 ヒラヒラと舞う木の葉のように、クラムはゆっくりと地上に降下しつつあり───。


 その姿を見つけた町の生き残りが、クラムを指さしていた。


「ん……お客さんか?」


 集まりつつある人混みを、バイザー越しに見るクラムは、

 その人々を電子情報として解析。


 キュルキュル……と、バイザーの画面に輪っかの様なものが表示され、一つ一つが住民にマッチングし、文字情報として表示された。


「…………ただの住人か」


 ビッビッビ……。

 ───非武装市民、脅威度0


 その情報を、データバンクからクラムに伝える。


(……相手にするほどでもないな)

 独りごちるクラム。


 特に焦りもなく───。

 間もなく地上へ…………。


 ボシュウゥゥゥ!!


 ───と、落下直前にブースターから噴射。着陸時の制動を掛ける。

 一気に落下速度が低下し───そうして、何事もなくクラムとエプソは着地した。


 ズシィィン!


 と、重々しい音を立てて地についたクラムの姿………。


 まるで、フルプレートアーマーを着た騎士のような出で立ち。

 しかし、カラーリングは黒と赤。


 ……実に禍々しく映るそれだ。


 おまけに、顔の部分はツルンとした無表情……と、いうよりも完全に表情がない──のっぺらぼうだ。


 関節各部から湯気を吹き、射出の衝撃で熱を帯びたエプソは陽炎をまとっていた。


 そこに、上からフワリと落ちてきた落下傘がドラゴンの翼の皮膜の如く───。


「あ、あああ、悪魔───」

 

 呆気にとられた住民たち。

 エプソを見て慄いている住民は、幾人かは逃げ───幾人かは散らばった家の構造物を手に警戒している。


 ビッビッビ……ビー

 ───武装市民、白兵装備、脅威度1


 雑魚だな。


「どけ」

 マイクを通してしゃべるクラムの声は、人間の声帯から出るものと違いどこか無機質になる。

 それは一見して恐ろしげに見え───。


「ばけものめぇぇ!!」


 元軍人と思しき、初老の男性が勇気を奮い立たせて角材を手に突っ込んできた。



 パン



 と、

 クラムはサイドアームを手に、あっけなく撃ち倒す。


 ただの住民であっても容赦なく!


 その顔は全身鎧の様なパワードスーツに覆われているため外からは全くわからないが、感情に揺らぎは見えない。


「───失せろ」


 そして、その声はやはり無機質。

 ドサっと、初老の男が倒れる音を皮切りに、「「「ひぃぃぃ!!」」」と悲鳴をあげて、市民たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ散っていった。


「着地成功、───状況を開始する」

 短い報告を終えると、空を見上げる。


「……支援が来たか───母機から発進。無人機の一個小隊シュバルム……豪勢だな」


『───テステス』

 ヴン……! と、バイザーに魔王が表示される。

「感度良好」

『聞こ……先に言うでない! …まったく、どうじゃ? 異常はないか?』


「すこぶる快調だ。支援ありがとさん」

 

 クイクイと上を指さすジェスチャー。


『うむ、存分に活用するがいい。我々も支援するぞぃ。必要な時に言えば搭載火器で援護してやろう。───が、それまでは偵察に徹することになるじゃろうな』


「ほぅ?! 空中空母の援護も期待できるのか? 今日は大盤振る舞いだな」


『───今回は、より一層の慎重を期すためにな。なんせ初の実戦試験じゃ……補給用に潜水艦も沖合に待機しとる。心行くまでやるといい』


 ニカっと眩しい笑顔を見せる魔王だが、言っていることは物凄く物騒だ。


 魔王の確約した支援。

 その追加項目として、ピコンと、バイザー画面の隅に空中空母の支援火器がズラーと並ぶ。


 155mm連装榴弾砲、

 60mm迫撃砲、

 25mm機関砲、

 12.7mm重機関銃、

 掃射用レーザー、

 バンカー用レールガン、

 対戦車ミサイル、

 対人クラスター弾、

 気化爆弾、


「おいおいおい……本当に大盤振る舞いだな」

 ───こりゃ、魔王軍の本音がテンコ盛りだ。


 彼らいわく旧式の武器だという。

 魔王軍の基準でいえば博物館クラスの、骨董品なので、比較的入手も容易なのだとか?


 半面、個人火器にはかなり神経を使うらしい。


 軍用の現役ライフルなんて代物は、管理が厳重過ぎて触れることもできないとか……?


 正直、基準がよく変わらない。


 まぁいいか。と、クラムも手元の武器を整えていく。


 サイドアームの拳銃は別にして、降下の衝撃に備えるため、梱包箱コンテナボックスに収められたそれは背中に固定されていた。


 ガシャコと、音を立てて地面に下ろされるそれを開けると───。


「豪勢だな……!」


 中から取り出したのは、


 長大な12.7mm重機関銃の銃身と、

 下方に9mm拳銃弾用の回転式砲身が付いた上下二連装の大型マシンガン。


 さらに、側面には40mmグレネード発射機と、火炎放射器がついている。この火炎放射器は周囲の酸素を圧縮し放射するもので、空気ある限りほぼ無限に使えるという代物。


 さすがにグレネードは単発だが、腰につけたベルトに装着する予備弾は潤沢。


 12.7mmの弾は梱包箱に収められているので、それを再度背負い直せば給弾機構と連結して、いつでも発射可能になる。


 9mm拳銃弾は200発入りの弾倉に螺旋状に収められている。

 打ち切った場合は交換が必要だが、やはり予備弾は潤沢にあった。


 そして、脳波連動型のサイドアーム。


 梱包箱の中には肩に取り付ける脳波と視覚連動型の小型ガトリングガンと、対人ミサイル発射装置が収められており、左右それぞれに装着できる。


 それをおもむろにガチャッ! と取り付けると、テスト作動。


 ウィ、ウィ───と異常なく視覚に連動している。


 腰には、何でも切り裂く一振りの高振動ハイバイブレーションブレードと、予備の近接武器として、高熱で焼き切るヒートナイフを備えた。


 そして、オマケのサイドアーム。

 9mmガバメント改。


 これで全装備だ。


「足りるかな?」

 チラっと、バイザーに表示される残弾表示を見つつ、ひとりごちる。


「ま、補給もあるし、いってみるとするか」


 まったく危機感もなく、敵地に降り立ったクラム。


 メインウェポンのバカでっかいマシンガンを、かる~くヒョイっと構えると歩きだした。





 ギョム、ギョム、ギョム! という、機械チックな音を立てて……───。

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