第5章『実戦テスト』
第58話「実戦テスト」
キィィィィィィィン───。
空気を切り裂く音が高空に響き、薄い大気の層を滑るようにして、超大型の航空機が舞っていた。
キィィィ……───。
『テステス───聞こえるかクラムよ?』
内蔵しているモニターに、母機側から信号を送っているのだろう。
同時にスピーカーからも音声が出ていた。
「───あぁ、感度良好。聞こえているよ」
バイザー越しに可愛いルゥナの姿が見えたことに
魔王にもその姿は見えているらしく、思いかけず笑顔を浮かべるクラムに、少々戸惑ったとような顔でぎこちない笑みを浮かべた。
『う……戦場にいく前に見せる顔にしては、上々かの───』
さもありなん、と言葉をつづける。
『んんッ。コホン……。確認するぞ? 今回はエプソの実戦試験を兼ねた、魔王軍初の人類への攻撃じゃ』
初の??
『───我々は現時点で宣戦布告を受諾し、正式にここの現地生物と交戦することと
そういえば、この3カ月の間でその辺の歴史やら知識やらを、クラムは叩き込まれたな───と思い出していた。
魔王軍は基本的に定期的にこの地で、『勇者』と言われる特殊な
それ以外は、基本的にエーベルンシュタットのある地は完全閉鎖され、そこで監視を続けているらしい。
エーベルンシュッタットはその間、
そのため、魔族と人類がいくら激しく戦争をしようとも基本的に不干渉───というより、興味がなかったという。
そんな中、人類軍の一方的な越境から始まる略奪を観測。
当初は放置しようとしていたのだが、戦争が激化するにつれ、とある国で『勇者』の存在が確認された。
そのため、急遽『魔王軍』を編成し、連合軍の「北伐」に干渉したらしい。
それでも、『勇者』を駆逐または活動停止に追い込めばそれで終了するつもりだったらしいが、今回発生したのは、かなり厄介な『勇者』らしく───彼等の呼称でいう
そいつは、いわゆる不死身の『勇者』。
……魔王軍の戦力や、技術を
唯一、まともに戦えて、かつ圧倒できるのがこのエプソだが、様々な制約のため扱えるものがいないという状況で、相当持て余していたそうだ。
そうこうしているうちに、『勇者』を航空攻撃で一時的に活動不能にしたが、その際に捕獲ないし完全な活動停止へ追い込もうとした。
───最悪でも組織サンプルを採取しようと派遣したのだが、武装チームが反撃に遭い……やむなく撤収したという。
せっかく『勇者』を一時的に活動停止にしたが、損害の拡大を恐れて、それ以上の接触を諦めたというのが顛末だ。
(人道を重んずる───というより、機構側から死者を出したくないのが本音だそうだ)
……そして、その過程でクラムが捕虜になったと───。
『ん。とにかく、我々としてもな───これ以上『勇者』を野放しにするのは得策ではないと判断しての~。あまり、やりたくはないのじゃが……現地勢力と戦うことにしたのよ』
ふん、と面白くなさそうに鼻を鳴らす。
その辺の事情はよく分からないまでも、
戦いはやむを得ないと───しつこいくらい再三言われたため、一応は納得しているクラム。
「───だが、今回はやるんだろ?」
『そうじゃ、限定的な作戦じゃが……王国深部に突入し、まずは情報収集と実戦テスト、そして───』
ふと、目を逸らしバツが悪そうにする魔王。
『……お主の
苦々しくいう魔王に、クラムは目をつぶり思いを
───すまん、リズ。
………………………………待たせたな。
クラムは強化手術をし、唯一のエプソを扱える人間になったことで、魔王軍における待遇が一気に上がった。
もちろん、制限も多いし───彼らでいうところの現地生物であるクラムには監視の目は常についていたが、それでも、エーベルンシュタットでの自由行動と居室などが与えられた。
それは、魔王軍いわく───勤務する職員と同等以上の扱い。
しかも、(部下とはちょっと違うが……)戦場ではサポートする者さえ付くという破格の扱いだ。
……最も
そして、クラムはその時に満を持して、待遇改善の機会を逃さず、魔王と交渉を開始。
リズの救出を
『まったく。……本来そう言った現地事情に関わらないのが我々の信条なのだが───』
「戦争するんだろ? 今更じゃないか」
そうだ。
たった一人を救うくらいどうとでもなるだろうに……。
『そうは言うがな!……しかも、発見次第──ルゥナもその条件に加えるなど……調子にのるなよ』
「まったくもう……」と、ルゥナの顔をした魔王が、ルゥナについて文句を垂れているのだ。それが可笑しかった。
「そう言うなって、ちゃんと……
そう、わずか数カ月の命───せいぜい目一杯活用するだけだ。
その中で、リズとルゥナを救うのは当然のことだろ?
『わかったわかった!……ルゥナも同じく捜索させる。期待はするなよ? それに──』
魔王は、ちょっと困ったような顔で、
『あの三人のことはええのか? 居場所は簡単に分かったぞ?』
……三人か。
ネリス、
ミナ、
「わからないんだ……。なんという、憎んでいるというよりも……戸惑っている。正直、裏切りは明白だし───心底腹立たしいが……」
彼女らの真意がわからない。
結局、一度もキチンと話す機会はなかった。
だから、
「───だから、会って───いや、遭遇した時に考えるさ」
『…………そういうのは、戦場では命取りになるぞ?』
「……こいつは最強なんだろ?」
こいつは、と───エプソMK-2について、お道化るように暗に示して見せる。
『───だから、そういうのが……』
ピーピーピー!
バイザー内に響くアラームに、意識を削がれる。
それは同時に、魔王側でも察知しているらしく、
『───っと、まぁいい。では、現地上空じゃ、せいぜい暴れまわるがいい。戦争ゆえな、被害は、』
「───ああ、気にしない。王国は、……滅ぼしてもいいんだろ?」
そうだ……もう、容赦などしない。
王国は───テンガを称えるような国は、
「───滅してやるッ!」
ピーーーーー!!
ガコン! とエプソの装甲越しに、航空機の腹が開く気配がする。
『ふむ……。もはや、何も言わん。お主の自由にせよ───では、我々は支援行動を開始する』
「頼む」
ピコンと、バイザーに地図が表示され──そこに光点が灯る。
それは中央に位置するエプソと同時に動いており、同じく航空機で移動中とわかる。
『緑の光点は友軍じゃ、青の光点は、補給品───お主の降下後にコイツを重量箱に入れて降下させる。必要になったら使え』
「大丈夫なのか?
『そんなことは気にするな。回収部隊も待機しているし、最悪自爆させる。……町区画ごと、ボンッ!───じゃ、クヒヒヒヒヒ』
悪戯っぽく笑う魔王を見て、
「本当は戦争したかったんじゃないのか? アンタらは……」
『否定はせんの~……圧倒的武力で
ニヤァ……と笑う顔は、絶対にルゥナのものではない。
「やっぱアンタは魔王で、アンタらは魔王軍だよ」
緑色の光点を見つつ言うクラムに、
『お主も───じゃよ? っと、時間だな、武運を祈るぞ』
「了解」
ブーーーーー!! とけたたましいアラームが航空機に鳴り響く。
同時に、クラムの乗り込む小型の機材が傾いていく気配が、感覚として伝わってきた。
そして、機械音声がバイザーに響く。
《───目的地上空、射出10秒前。職員は発射の衝撃に備えてください》
(───職員ねぇ。……とんだ魔王軍だぜ)
───5、4、3、2、1……。
0───。
ビーーーーー!
……さぁ、いこうか!
俺の想いをのせて──────!!
行くぞッ、エプソMK-2!!
「コンタ~~~ック!!」
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