第108話「どこかの怒りのナントカ」
───
『分かっておる! さっさと武器をとれ!!』
言われるまでもなく、ゴギギギギ……! とコンテナをこじ開けるも、
「ろ、ロクな武器がねぇぞ!!」
よほど慌てていたのか、魔王が持ち出してきた武器は小物ばかり。
大型ライフルもあるにはあるのだが、既に破損していた。
『だから、急いで来たと言うたじゃろうが!! 弾はあるが───……。そうだ、ショットガンはどうした!?』
「捨てたよ!!」
『アホォ!!』
なるほど、ショットガン用の弾に、25mmグレネード弾もある。
それが使えれば、かなりの効果が見込めただろうが───
『お主は、何でそう短絡的なんじゃ!!』
「うるっせぇぇ!!」
って、
ッ…………!
「これは……」
こじ開けた拍子に、
様々なコードが繋がったままゴロンと地面に転がった多銃身のそれ───。
おいおい。
(……いいもんあるじゃねぇかよ!!)
ガシャキ!!
「……ようは、墜としゃいいんだろう!!」
持ち上げた拍子に、ベリバキバキバキィ……! と
よっしゃ!……どれかがつながりゃあとはAIがなんとかする!!
いうが早いか。
───ウィィィイイン!!! と、エプソから電力供給を受けたRLCV自衛用の5.56mmガトリング砲が回転を始めた!
「食らえや、クソボケがぁっぁああ!!」
無理やり外部端子から電力を送られたガトリング砲の接続部分から火花が奔る。
だが、エプソ側から連接したことで、AIがのハッキング開始、むりやりOSを書き換えガトリング砲の操作権をクラムに移譲する!
「照準来た!!」
……ズジャキィィイイイン!! と構えるクラム──!!
トリガーを握りっぱなしにすると、砲身を飛行船に向けて発射!!
「……ぉぉ堕・ちぃぃ・ろぉォぉぉぉぉぉぉお!!!」
──フィィィィィンン……多銃身がカラカラカラと空転すると、ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
獣の様に咆哮するのは、ガトリング砲と───……、
ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーー!!」
……───クラム!!
『お前は、どこのラ〇ボーだ!?』
ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
(ラ〇ボー? 何をいってるんだ魔王は?)
凄まじい反動と発砲炎で、撒き上がった埃が焼け解けていく。
まるで光の奔流のように連続弾が飛行船へ向かっていき、
その射線は火山の噴火の様に真っ赤に焼けた帯をまっすぐに向け───ガガ、ガッ、ガガガンガン!! と、激しい火花が飛び散り、装甲板が弾け飛んでいくのが見えた!
『む、無茶をしよる……! ───っ、ん~、ええい、構わんから墜とせぇぇ!!』
魔王に言われるまでもない!!!
「死ぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
テンガぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁ!!!!!
ヴァアアアアアアアアアアアアアア!!!!
ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「───このまま、墜とぉぉす!!」
ガラン! ゴンと、装甲が剥がれ落ちていき一部で火災が発生しているようだ。
いけるか!?
にしても───
……どんだけデカいんだよぉ!!
ヴァアアアアアアアアアアアアアア!!!!
ヴァアアアアア!!!──カシュゥゥゥウン…………カラカラカラカラ!
「む?」
『連続射撃後の強制冷却じゃ!! 奴はまだ浮いておるぞ!!』
カラカラカラカラカラ……!
真っ赤になった銃身がカラカラと空転する。
その音を聞きながら、
『ぁ♪ ……ー…♪』
……♪ ──────……。
攻撃中も全くぶれることなく流れていた子守歌が、終焉を迎える。
それは、クラムが銃身冷却のため射撃を一時的に中止した間隙とシンクロし───……。
───結果……妙な沈黙が周囲を支配した。
そして、
まるで──その瞬間があることを見越していたかのように、
『───………………ふふふ。いい子ね、クラム♪』
ッ!!!
……い、今の、
今の声は───……?!
『何をしておる!! 冷却終了じゃ! さっさと、撃て! 撃って撃って撃ちまくれ! 奴を、撃ち落とせぇぇぇ!!』
…………く!!
脳を溶かすような甘い響きを振り払い、再びガトリング砲を振りかざす。
ヴァアアアアッ、ヴァアアアアアアアアアア!!
ドガガン、──ボンッ! と、命中に次ぐ命中。
だが、それでも飛行船の動きは衰えない。未だ射撃は続いているも、飛行船は力強くエンジンを噴き上げ上昇力を得ていく。
プロペラに命中した弾丸が火花を上げて反跳している。
デカい……。
デカすぎる!!
だが、
「───逃・が・す・か・よぉ!」
もはや冷却などと言っていられない。
真っ赤に銃身が焼けて、鉄の溶ける気配を感じつつも射線を集中させる。
小爆発がところどころで発生しており、チロチロと火が上がっているが───……!
「墜ちねぇぇええ!!」
…………落ちない!!!
……堕ちない!!!
墜ちないぃ!!
───ヴァアアアアアアアアアアアアア!!
墜ちないっつってんだろぅがぁ!!
「……さっさと、墜ちろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
と、次の瞬間───バィン! パキィン! と、銃撃以外の音が突如響き渡たる。
「な、なんだ?」
訝しく思ったクラムが声を上げるか上げないかの間に……バシィィン! と、すぐ傍に向かって係留ロープが弾けた!
「なんだと? 係留ロープを引き千切った?!」
限界まで張り詰めた係留ロープが恐ろしい勢いで壁に叩きつけられていく。
その数4本!
鋼線を組み合わせたその一撃は強力無比……未だ勢いを持つソレがバィン、ビィンと……蛇の様にのたくり、バィン!! と、
───そのうちの一本がクラム目掛けて落下してきた。
高張力の限界まで張り詰められたロープの絶ち切れた反動は凄まじく、凶悪な勢いで降り注ぐ……!!
(う、うっそだろ!!??)
ドガァァァンン──!! と、叩きつけられたそれは、
「ちぃぃぃ!!」
爆音にも似た破砕音のあとに、金属の転がる音が連続した。
バラバラーと、散らばった装備はもう使い物にならない。
素早く逃れたためエプソ自体に損傷はないものの───打つ手を失ってしまった。
『ガ、ガトリング砲が……魔王! どうすりゃいい!?』
完全に大破した
『ザ…接近戦しかあるまい! ザザ、ブ、スターの噴射剤は、ザだ…もつはずだっ!』
おいおいおい。
カミカゼしろってか!?
チラリと腰の刀とナイフを
……。
はっ!
…………上等ぅぅ!!
「逃がすかよぉ!!」
徐々に高度を上げていく飛行船。
その先は暗く閉ざされた天井があるのみだが───!
『ファンタジーは、こうでなくっちゃなぁぁぁ!!!』
あの耳障りなテンガの声が響いたかと思うと、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……! と地響きが鳴り響く。
『馬鹿な?! どうやって……?!』
驚愕する魔王の声を遮るように、サァ──と、はるか上空……天井から光が射しこんだ。
あれが魔王の言うハッチの開放だろうか。
『い、幾重にもロックされておるはずじゃぞ? それをどうやって奴らがハッチを開放したというのじゃ?!』
今日になって何度目かの魔王の驚愕。
……一体、何が起こっているんだ?
『いかん! クラム、ハッチ開放の主導権は奴らにある!』
は?
それがどうした───??
『そこは危険じゃ!! 即刻退避ぃぃぃ!』
魔王は言う……当初ハッチの開放は、クラムが退避できるように遅延時間を設けるつもりだったと───。
なぜなら、
『ハ、ハッチの上には…………王城があるんじゃ!!』
…………。
……。
は、はぁ!?
「って、おいおい。……まさか、王城のあった位置ってのは───」
『ハッチの真上じゃ!!!』
……ってことはもしかして───!
『逃げろクラムぁぁぁぁ!』
「じょ、冗談だろぉぉぉおお!!」
ま、
まさか───。
まさか、ホントに王城が丸々ハッチの上に建ってたのか!?
ってことは───!!
「上で破壊した瓦礫が……全部、全部降ってくるのかよ!?」
『そう言っとるだろうがぁぁぁ!!』
冗談じゃねぇぇ! テンガを仕留めずに、瓦礫に殺されてたまるか!
……いや、それよりも、もし魔王のいうとおりなら、この空間を丸々埋め尽くさんばかりの量が降り注ぐだろう……だが、それは『勇者』達も同じなのでは?
「なら、あの飛行船も壊れるだろ!?」
『アホォ! 勇者が防空しておる! 切り抜けるに決まっておろうが!』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……と徐々に開いていくハッチ。
そこには左右に分かれる円形ハッチの移動に合わせて、縦に割れて光の軌跡を生み出していく───。
……一種神々しい光景だ。
地の底に閉鎖されて以来の、久しぶりに陽が差し込んでくるのだ。施設全体が喜んでいるようにも見える。
それは、
暗いエレベータシャフトの縦坑に差し込む光のパトス……。
だが、光だけでなく──無粋な闖入者も重力に引かれて降ってくる。
その縦の光の軌跡に混じり、黒い粒のようなモノが───ひとつ、ふたつ…三つ………た、たくさん、たくさん!??
徐々に大きくなるそれは、
「冗談じゃねぇ!!!」
『た、退避しろぉぉぉ!!』
慌てる魔王軍に対して『勇者テンガ』は悠々としていた。
『はっはっはっはっは! いいね、いいね! ド派手なシーンに大興奮!!』
いつの間にか飛行船の下部艦橋から失せていたテンガは、宝剣を肩にし、上部の開放デッキに立っていた。
『劇的に登場してやるぜっ!』
まるで、降り注ぐ瓦礫など──物の数ではないとばかりに、
『───うらぁぁぁ!!』
ブワァァ! と、衝撃波を生み出すと巨大な瓦礫を粉々に砕き切る。
幾つかの細かな破片は天を向く巨大プロペラに弾き飛ばされていった。
「バ、バケモンかよ?!」
だが、立て続けに降り注ぐ瓦礫はとどまることを知らない。
それは天を覆いつくさんばかりで───
だが、
『おらおらおらおらおらおらー!!!』
衝撃波、衝撃波、衝撃波!
ボガァァァァン! と飛行船の真上に達したところで衝撃波の連打を浴びて粉々になる。
「くそ!」
あんなでけぇ瓦礫を破壊するとかどんな火力だよ!?
「ちぃッ……! 魔王──こっちに構わず爆撃しろ!」
『!!──む、無理じゃ! やったところで、勇者に迎撃される! それに、お主を巻き込むわけにはいかん!』──……ギリギリまでな。
迎撃?
そうか……。勇者のデタラメな破壊力のことだ。
たとえ、ミサイルや爆弾を落としたとて至近距離に至る前に潰されるのだろう。
魔王軍からすれば、俺のことは二の次なのだろうが……くそぉぉ!
『クラム! 悔しいが───
───ない!!!!!
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