第107話「火力が全て」
ゆっくりと浮力を得て推進力に後押しされるように徐々に高度を上げる飛行船。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴンと
ギュンギュン…ギュン、と巨大なプロペラが高速で回転し始める。
そして、
飛行船を
───もう一刻の猶予もない!
ボンヤリとした明かりに照らされる艦橋にはテンガの姿があるのみだったが、奴が操作している形跡はない。
まるで、指揮官のようにふんぞり返っているが、それでも飛行船は問題なく運用されているようだ。
「ちぃ。逃がすかよぉぉぉお!」
憎々し気に飛行船を見上げるクラム。
その視線が…………ふと緩む。
(なんだ?)
♪
♪ ♪
「───……歌?」
歌が聞こえる……。
浮かび上がる飛行船の動きに合わせるように、クラムの
プロペラの立てる騒々しい音の中に確かに聞こえるそれ。
船の浮揚に合わせるように、歌の音色が高揚する。
「おん、な……?」
───♪
「これ……? どこかで───」
『ッ♪ ───ぁぁぁ♪』
浮かび上がりつつある飛行船からは、その出撃を
スピーカーから流れるそれは、讃美歌のような……子守唄のような、美しい旋律でもって祝福していた。
朗々と、訥々、脈々と謳い続けている。
♪
♪♪
ラー……♪
「……クラム」
「おやすみ、クラム───」
記憶を刺激する優しい音色…………………………。
「ッ?!」
う、嘘だろ……?
こ、この声は……。
(この……聲は───)
この唄は───!!
───ザ、
『ク…ム!! ザザ、をして…ッ!!』
…………はっっっ!!!
音色に心を奪われていたクラムは、ザザザザ! と音の割れた無線に意識を取り戻す。
「……あれ? ま、魔王?」
『馬鹿…ン! さっさと───ザ、』
魔王からの無線が近距離通信でがなり立てる!
|どこかで壊れている
『ザ、そ──を、………っ………
その言葉を聞いてハッとしたように体を震わせる───!!
「っっっ!! こ、
くそ!
何をしているんだ俺はあぁ!!
……こんな、こんな千載一遇のチャンスをッ。
「うぉぉおおおおおおおおお!」
ベリベリととらわれかけた意識を引きはがすように、ショットガンを構える。
あんな、
(
「
ジャキ! と、薬きょうを排莢し、狙いをつえたクラム!!
「墜ちろ! クソ野郎!」
あれだけデカい的なら、どこを狙っても当たる。
『……ふふふ♪ ───クラム……ー♪』
クラムは、歌を…
『───♪』
心の大半を占める殺意を探り……一色に、塗り固め、
「おらぁぁぁぁあああああ!!」
──全力射撃!!
ドゥン、ドゥン、ドゥン!!!! 散弾とは言え、エプソMK-2ほどに装甲の厚いとは思えない飛行船───墜とせる!
……墜とせる!
その実、散弾が命中する度に、バッキン──バシンッ! と細かな傷やら穴が開く。
行ける、
逝ける、
往ける!!
このまま撃てば落とせる───!
「…………って、弾ぁぁぁぁぁっぁ、
あんなの、落とせるか!!
全然効かねぇ!
「デカすぎるっつーーの!」
散弾を撃ち切り、残りの焼夷弾やら電子妨害弾なんかも順次ぶち込んで見るが───。
「───パンチ力が足りねぇぇ!!」
道理で、テンガが余裕なわけだ。
道理で、
道理で、あの歌がっぁぁぁぁぁっぁぁ!!
カチカチッ、と引き金を引いても弾が出なくなると、クラムは力任せにショットガンをぶん投げるが、それで落とせれば世話はない。
既に、宙に浮いている飛行船は、
それは、溜まりに溜まっていた埃を巻き上げて、周囲を覆うほど。おかげで凄まじい視界の悪さだ。
だがそれでも、不敵に立つテンガの姿だけは鮮明に見える───。
……あのニヤケ面ぁぁぁぁあ!!
「死ねぇぇぇ、テンガあぁっぁあ!!」
サイドアームのガバメント改を抜き放つと、弾倉にあった全弾を叩き込む。
バン、バン、バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンッ!!
ビシィビシシ…とテンガの居る位置目掛けて弾は吸い込まれていくが、防弾性能があるらしい正面ガラスに阻まれる。
全く動じず、ニィィと口の端で笑うテンガの顔が目につく……!
まるで「オー怖い怖いッ」とお道化ているかのように、
ッ……舐めるなっ!
「てめぇぇぇぇぇはぁあ! ブッ殺す!!」
弾倉を交換。
最後のそれを連射しつつクラムは
火力が足りないことは明白だった。
巻き上がった埃の中に身を投じ、足りない火力を補う
そして、その答えは既にある。
『魔王!』
まずは武器だ。
広大な空間はほとんど
所々に端末操作機が設置されているらしいコンソールがあるだけだ。
見通しはよく、どこからでもクラムは攻撃を受けかねない。
(この状態で、飛行船側から応射がないのが救いと言えば救いか。……火器類は全て風化しているというのは本当らしいな)
グズグズに風化したコンソール。
そこにもたれるようにして
一見、それは無防備に放置されているようにも見えたが、魔王も最後まで戦っていたのだろう。
ハッキングのため、ハッチを開放するためにコンソールを直接操作していたらしいアームはポッキリと折れており、周囲には薬莢が散乱していた。
カーゴ部分も損傷しているらしく、ピクピク……とキャタピラの有ったはずの足回りが、まるで死にかけの昆虫のように蠢いていた。
……くそ!
『魔王聞こえるか?!』
さっきかなりの電力を使ったのだろう。
今は露出したコードが……バチバチッ、と火花の様な漏電現象が青い火を放っているのみ。これだけ近距離でも通信がうんともすんとも言わない。
だが、完全に破壊されたわけではない。
ならば──────……!
「サポート! ダイレクト端子はどこだ?!」
エプソに搭載されているAIに、RLCVの構造をバイザーに映し出させる。
すると、バイザー上にピコンと表示がともり、、破壊されている
……途端に劇的な反応があった!
『ぬ?! 通信が回復した?? く、クラムか?! 有線から直接通信信号が来たぞ! そっちは聞こえるか!?』
よし……!
「感度良好!」
同時に音声も映像も回復し、魔王とリズの姿が映る。
『す、すまん……! こっちは手ひどくやられた。武装コンテナの開閉が出来んから、自力で武器をひっぱり出してくれ』
周囲に散らばる薬莢の量からも、激しい戦闘があった事を
事実、3体ほどの旧エプソ転がっており、顔面がグチャグチャに潰れた死体がそこ遺棄されている。
───例の
勇者の持つ宝剣と、軍馬に騎乗した男のシルエットがモチーフの───その旗を背負っていた。
一応、魔王も善戦してはいたらしい。
だが、
100体の旧エプソには勝てなかったのだろう。
『面目ないのー……!』
どこまでも後手に回る状況に苛立ちを隠さず、
「ったく、てめぇらが隠し事してるからだろうが!!」
『スマン……と言うとるだろうが!! むむむ!』
ギャーギャー言いながらもクラムの心は焦燥感に溢れていた。
テンガがそこにいるというのに決定打がない。
下手をすれば飛行船で逃げられるかもしれない。
くそ!
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