第7章『さらば、故郷』
第84話「ざまぁ! と言いたくて──」
コーン
コーーン
コーーーン
浅深度で航行中の潜水空母。
飛行甲板には既に空中空母はなく、海水が周囲を埋め尽くしている。
キラキラと輝く陽光が辛うじて届く深度は、どこまでも深い青と緑の世界。
しかし、クラムはそんな美しい世界がそこにあるとも知らず、海水から鉄板を数枚隔てた先の不恰好な機械の中に鎮座していた。
そう、彼は───
潜水空母の主要武装SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の弾頭内にクラムはいた。
それは、超大型弾頭の内部を改装したもので、
対G装置を組み込んだうえに、居住空間を確保した弾頭。
内部は3階層構造となっていた。
上端は落下地点を制圧するための高性能爆薬と散弾がしこたま詰め込まれており、攻撃力も併せ持った
その下にはエプソを装備したクラムが窮屈そうに詰め込まれている。
これを、
非常に狭いが洋上かつ、潜水状態で発射───もとい発進できるため隠密性が高い。
……もっとも、この世界において潜水艦を発見し、撃沈できる戦力など皆無に等しいのだが───
それでも、魔王軍は慎重に慎重を期しているそうだ。
そして、一番下の階層には武装が詰め込まれていた。
ただし、
やはりスペースの都合で重武装エプソのように、重火器をゴッテリと搭載できるわけではない。
そのため、
重量箱に詰めた武装は、先行した空中空母が投下することになっている。
今回も、空中空母から発射する事ができれば無駄なく運用で来たものの、
空中発射型の
まだまだ研究段階の代物で……──要は、前回の戦いはそれらの装備も含めての実験だったらしい。
そして、現在クラムが詰め込まれているSLBM改造型の空挺ないし、
「ちっ……失敗しないだろうな?」
狭い筒内では体を自由に動かすこともできない。
『あーテステス、聞こえるかクラム? 異常の有無を報告せい』
ビュィンとバイザー内に画像が浮かび、魔王がにこやかに答える。
「……狭くて吐きそうだ」
これは本心。
『おうおう、我慢せい』
他人事だと思って……
『もうじき発射す───…発進するから、少しの辛抱じゃ』
もう発射でもなんでもいいよ───
『儂らも
……
「なぁ?」
『うん?』
いやさ、
『魔王って暇なのか?』
……
なんで魔王自らオペレートしてるんだよ。
『暇とはなんじゃ、暇とはぁぁぁ! 人が
余計な世話だよ。まったく……
『ったく、気を使ってやってるというのに。───ほれ……これで話して、…そのボタンじゃ。それじゃ、それ。…まずは、ここから慣れていくぞぃ?』
と、プリプリする魔王が、急に態度をかえてスピーカーの向こう側で何やらゴソゴソと、
「どうした?」
クラムが疑問に感じる前に、魔王が写っていた画面が二分割。
そして───
「リズ!?」
『お、叔父さん? き、聞こえますか?』
……
「リズ!?」
『ちゃんと答えてやれぃ』
「……リズ!?」
『えっと……』
……
「魔王、替われ」
『いや、替わらんでも同時チャンネルじゃぞ?』
「じゃーリズ…ちょっと下がってて?」
『う、うん?』
スピーカーから、ガサガサと言う音。画面が二分割から、1つに……魔王一人になる。
「……───言いたいことは色々なくもないが…」
『ん? 礼なら、え』
「何やっとんじゃボケぇぇ!!」
間髪入れずに文句を叫ぶ。
『ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、…ボケとはなんじゃ!』
うがー! と画面ごしの魔王が怒り狂い、画面にドアップを突きつける。
はっはっは…可愛いだけだぞ魔王!
「リズに戦争でも見せる気か!? どれだけ被害が出るか分かってるのか?」
『お主が望んだんじゃろうが…姪御さんだけは、お綺麗なままで居させたいとか思うておるのか?』
……何が悪い。
「それの何が悪い?」
呆れた奴じゃ、と魔王が首を振る。
『お主の姪御さんを思う気持ちは分かるがの……この子はもっと強いぞ? 地獄も見てきた……』
今さら、焼け野原くらいで驚くものかよ、と───
「それでも、だ」
俺のやろうとしていることは、タダの復讐……
そして意趣返しだ。
きっと……無関係の者もいるだろう。
だが、やるのだ。
しかし、それはクラムの事情。
巻き込まれる人からすれば、溜まったものではないはず。
きっと、
………
全員が悪いわけではないだろう。
誰も悪くないかもしれないだろう───
全てがテンガを望んだわけでもなく、
全てはクラムの敵でもなく、
全てを知らないものもいる。
それでも、
それを
もう、決めたこと……
その所業は修羅の道……良いも悪いも中庸も───まとめて滅却する悪鬼羅刹の仕業だ。
そんな、蕀と血反吐と傲慢の道。リズが……
あの優しい子が───それを望むはずがない。
あの子は健やかで、美しく、心優しい子であってほしい……
『本当に呆れた奴じゃ……お主はの、』
魔王が憐みに満ちた目でクラムを見つめる。
『──自分の理想をあの子に押し付けておるだけじゃ』
「…なんだと?」
本当に分からんのか? と、
『姪御さんの…リズの気持ちを思ったことはないのか? あの子の立場に立って考えたことは?』
「…は! アンタに何が分かる! リズのことならなんだって───」
『それが既に何も分かっておらんのじゃ!! お主の気持ちは
!!
「……そ、」
それ……は。
『叔父さん……』
ビュインと、画面が二分割。
「リズ───…」
『私が頼んだの……』
「リズ…お前っ…!?」
ばかな…
『叔父さん…? リズのことを、そんなに信じていてくれて…とても嬉しいよ───』
だけどね、と……
『わ、私はそんなに優しくも……………』
リ、
『健やかでも、心穏やかでも───ましてや、』
ズ、
『───綺麗でもない!!!!!』
「リ───」
『綺麗でもない! 綺麗じゃない! 綺麗なんかじゃない! き、汚い! 汚い! 汚いよ! だって、だってぇぇぇ!! あ、あ、あ、あんな、あんな、あんなぁぁぁあ!!!』
おえええええぇぇぇ…と、画面の向こうでリズが吐き戻している。
そして、その吐しゃ物にまみれた顔で再びクラムを見る。
『──知らないよね、叔父さんは……あの男に、……………男達に何をされたのか、………何を食わされたのか、何を、何を、なにを、ナニヲ、ナニヲォ、何をぉぉぉぉぉ!!』
ああああああああああ!!!
ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…──────!!
『ナニヲサレタノカ、イッテミロヨぉぉぉぉ!! yr2@-p3$%&$%#!!』
…………
……
「リズ…」
そう、だ───
リズも……俺と、
おれと………………
俺と
あの3人とは違い……
煉獄から──煉獄を、
地獄から────地獄を見てきた。
小さなその体で……
『はぁはぁはぁ……うぐ…ぐ……』
『リズ、落ち着け。大丈夫じゃ、大丈夫……』
画面が重なり、魔王がリズの肩を抱く。
一瞬だけ、魔王の姿がぶれて───あ? ミ…………
『うん、大丈夫。だいじょうぶ──ワタシハダイジョウブダヨ? 叔父さん……』
……
「わかった、リズ───…一緒に戦おう」
そうだ……
これは、俺の復讐で───
俺がリズの立場であれば…!
いや、リズと俺は──────同じだ!!
「リズ───…すまなかった。お前の気持ちを全く考えていなかった……」
あぁ、
やろう。
リズと共に、
『───……うん!!!』
あぁ、その笑顔。
眩しく、
美しく、
綺麗で、綺麗で綺麗な笑顔───キレイナエガオ……
優しいリズの、綺麗な笑顔───き・れ・い・な・え・が・お!
「リズ……綺麗になったな」
『え?』
そうだ……
奴隷市場で再開し、抱締めたあの瞬間から思っていた───…リズは「綺麗」だと……
…………あの虚ろな目に灯る、
「やろうか、一緒にやっつけてやろうぜ!」
『うん。うん! うん!!』
───うん!!
叔父さんが好き……
死ぬほど愛しくて……
身を焦がす復讐と恋慕の狭間───
「ん? なにか言ったか」
『うん……言ってやりたいね! アイツらに』
ん?
『ほら、あいつ等が、さ……──やられたー! って顔をしたら最っ高ぉぉに気分いいと思うの!』
だからね、
その時には言うんだ…───
「あぁ、そうだな───言ってやろうぜ!」
「『ざまぁ見ろ! って!』」
そうだ、言ってやる。
そうだね、言ってみようよ。
言うさ。
言おうね。
はっはっは
あはははは
心の底から言おう!
「『___!!!』」
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