第68話「特殊部隊」

「気に入ったぜ……!」


 ニヤリと笑うクラム。

『───だと思うとったぞ』

 ちょうどメンテナンスが終わったらしく、ヘルメットが再び頭を覆う。


 途端に暗くなる視界だが、すぐに内部のバイザーに画面が表示───外の風景を360度スクリーンで映し出す。


 少々の息苦しさがなければ、ヘルメットを被っているなどとは思わないだろう。


『ほれ見ぃ、携帯用のもあるぞ?』


 バイザー内の視界にピコンと色が灯り、

 兵器群のうちの一角を切り取ったように淡く緑で光らせる。


 実際にその兵器が光っているわけではなく、クラムの見ているバイザー画面が補助をして、あたかも兵器が光っているように見せているのだ。


『ほれほれ…! 携帯型のレーザーライフルじゃ。本来、歩兵装備ではないがの……放熱が難しいので、生身で使うのは絶対に無理じゃ。───が、エプソなら使いこなせるぞ』


 ほう?


 レーザーを使っても御咎おとがめなし──とな?


 魔王の言う──『軍』ってのは一体どんな装備をしているんだか?


 こんな物騒な兵器を使っても、お目こぼしされる程……よほど凶悪な兵器を装備しているらしい。


 魔王曰く、

 現役の軍の個人携帯装備を使うと、すぐに軍にバレてしまうとか?


 バレた後のことは、魔王をして知らんほうがいい───というほどの事らしい。


 ───まぁいいさ。

 俺にはコイツで十分だ。


 ギョム、ギョム! と独特の足音を立ててコンテナ内の兵器を漁っていく。

 今の手持ちは高振動ハイバイブレーションブレードのみ。


 当然、これじゃ苦労する───負けはしないだろうが、時間がかかりすぎる。


 ───やはり火力だ。

 火力が正義だ───!


 12.7mm重機関銃は、なかなかにご機嫌兵器・・・・・だったしな……!


 スーと視線を走査し、目に留まった良さげなものを選んでいく。

 どうせなら、ポチに積んだ兵器よりも違うものを使いたい。


『これと……、これと……、』


 ガチャガチャ、と買い物感覚で選び、各部に取り付けていく。

 明らかに重量過多。だが、エプソMK-2のパワーは伊達じゃない。

 とはいえ、パワーアシストが効いていなければ、重さで潰れているだろう。


『明らかに重量オーバーに見えて、まったく重さを感じないとか……エプソMK-2──とんでもないパワーだな』


『くくく。装備さえ整えば、星すら破壊できるかもな』

 魔王が底意地悪そうに笑う。


 内蔵兵器は弾薬の補充が済んでいるが、空挺降下時には重量と、強度の関係で取り付けられなかった物も、この際なので装備していく。


 手持ちの武器以外にも、装甲のアタッチメントには外装兵器を取り付けることもできるし、内側の空きスペースにはスロット式に、固定装備を収められる。


 そして背中には、携帯コンテナ。


 そこには大型の火器も装着できるので、そこにも弾薬と一緒に兵器を積載することが可能だ。


 ポチRLCVもどこかで放棄しなければならないかもしれないのだ、武器はあるだけあってもいい。


 ──弾薬も同様。


『こんなもんか?』


 一通りの武装を整えたあと、試験的に軽く動いてみると───ギョム、ギョム! から、ガシャ、ガシャ…! という足音に代わっている。

 

 それもそうだろう。


 もはや、エプソMK-2の元の姿が見えないばかりに武装がテンコ盛り。


『ほほう、欲張ったの~?』

『へ、ご機嫌だぜ』


 クラム、エプソMK-2。

 装備は以下の通り、


・頭部、9mmバルカン砲×2

・右肩部、20mm短銃身対空機関砲×1

・左肩部、9連対人ミサイル発射ポッド×1

・左右肘部、40mm榴弾発射機×2

      (弾種多数)

・右前腕部、内蔵式セラミックナイフ×1

・左前腕部、火炎放射器×1

・左右太腿部、

 5連装対戦車ミサイル発射機×2

・右脛部、6連装発射発煙筒×1

・左脛部、BC兵器噴霧器×1

・背部コンテナ外装、60mm迫撃砲×1

・(格闘用空砲補充済み)

 


 手持ち装備


・右主武装、12.7mm重機関銃

     (40mm榴弾発射機装備)×1

・左主武装、レーザーライフル×1

・右側副武装、

 銃剣付き9mmガバメント改×1

・左型副武装、ハンドレールガン×1

・高振動刀×1

・ヒートナイフ×1

・手りゅう弾×10

・閃光手りゅう弾×10



 背部コンテナ搭載品


・110mm無反動砲×1

・コンバットショットガン×1

・折り畳み式長砲身レールガン×1

・7.62mmミニガン×1

・弾薬多数


『いや~……すごいの~壮観じゃな』

『そうなのか? 自分ではわからんが……』


 重さを感じないし、視界も補正処理されているため、まるで兵器など着いていないかのようだ。


 バイザー内の武器表示だけが、ズラーっと増えている。

 普通の人間なら絶対に処理できないような情報量でも、ことクラムは、エプソMK-2に限ってだけ言えば恐ろしい演算速度で処理していく。


『ふふん、エプソMK-2じゃからできること!』

『感謝してるよ、ル──魔王』


『お、おぅ。うむ……』


 どうしても素直に言葉にするときは、ついルゥナと言ってしまいそうになる。

 100倍の演算処理能力を手に入れているというが、よくわからない。

 実感もない。


 ──ただ、エプソMK-2を手足のように操れるということだけ。


『と、ところでじゃ、これなんかどうだ? 200mmドリルとか、スーパーショックハリセンとかあるぞ?』


『なんだよドリルって……。残ってる武器ほとんどネタ兵器みたいなもんだろうが……』


 実際、

 コンテナには、ぎっしりと武器が詰まっているように見えるが───中にはこれどうなの? という兵器もある。


 『とりもちライフル』ってなんだよ……?

 捕獲しろってか!?

 『カラーボール』とか……当たれば色がつくらしい、が……だからどうしろと?


『ね、ネタとは失敬な……これも、あれも、全~部ワシが選んだんじゃぞ! そ、そりゃ、ウチの職員も選定してはおったが……』


 うん。

 ……ちゃんとした兵器を入れてくれた職員に、感謝しよう。


『ありがとさんよ……じゃ、』


 行くぜ、と───。


 コンテナがミシミシと軋むほど、現在のエプソMK-2の足にかかる重量は相当なものなのだろう。


『舗装もされていない戦場じゃ、軟弱地に入った場合は──』

『わかってるよ』


 魔王の危惧はわかる。


 この世界でも、フルプレートアーマーはあるからな。


 それは、沼地などの軟弱地に知らずに入って沈んで死んだなどという、お間抜け話がついて回るほど。


 滅茶苦茶、重量級の装備を搭載したエプソMK-2……いや、この場合は「重武装ヘヴィアーマーエプソMK-2」というべきか?

 これも、

 当然ながら、そのフルプレートアーマー・・・・・・・・・・・的な、お間抜け話・・・・・の部類なわけだが……。


『半重力装置だな?』


『そうじゃ、消費も激しいので連用は厳禁じゃが、半日くらいならどうということはない。しっかりと使いこなせよ?』


 ふ……誰に言ってるんだか。


『エプソは俺と一心同体だ。問題ない』


 そうじゃな……。『すまんかったの』と魔王が殊勝しゅしょうに謝る。


 ───そう、これだ。

 こいつらの考え方はおかしいのだ───。


 155mm榴弾砲やら、気化爆弾で大量に殺しておきながら、……クラムの寿命を削る手術をしたことをいまだに悔いている。


 それどころか、つぐないすら必要だというのだ。


 ……クラムからすれば薄ら寒い話だった。


 例えるなら、内臓をえぐり出しておいてから、包帯を巻いて治療し───ニコニコと「良かったな」という。


 ……なるほど、魔王軍だよ───やっぱ、あんたらは。


 まぁ、俺は利用するだけさ。

 魔王も俺を利用すればいい。


 理由は知らないが『勇者』を駆逐したいという一点でのみ、クラムたちは共闘しているだけだ。



 俺は寿命を、

 魔王は武器と支援を、


 ───それぞれBETした。


 あとは、ディーラー次第ということだ。


 もう───ここから先は……ただ、くのみ!


 ガシャン!


 と、大きな足音はコンテナの終わりを告げていた。

 背後にはRLCV───ポチが付き従っている。


 その鋼鉄のボディは頼もしく、ポチなどという可愛らしい呼称が如何いかにも皮肉だった。


『行くぞ!』

『応よ。無人機の補給も終わった。ワシらも上空で監視待機中じゃ、行って暴れてこい』


 ───おう、望むところだ!


 ビービービー……! 接近警報がバイザー内に流れる。

 目視距離に、近衛兵団の特殊部隊が入ったらしい。


「ふ……人形と魔法で───」



 ヒィィィィィィ───……ン!!



 と、内蔵型のロケットブースターが、その推進力を発揮する前の呼吸をしている。


 ははははは……いいぞ、エプソ! まだまだ、暴れ足りないだろう!


 ───行くぞッッ!



 ィィィィィィ───……キュゴォォン!!

 ───ゴォオオオオオオオオオオオオ!!



 凄まじい勢いで飛び上がるエプソMK-2。

 急激なGで機体がミシミシと音を立てているが、どこにも警報は出ない。

 負荷値が限界を超えると、けたたましいアラームが盛大に騒ぎ出す。


 それがないということは、全然許容範囲ということ。


 ───いい子だ……相棒よ。


 バイザー内のレーダーには、赤い光点がビッシリと映し出されていく。

 それがだんだんと増えていった。


 それも急激に!


 そう、クラムは今───物凄い勢いで敵の集団に接近しているのだ。


 既に目視距離!!

 無機質な木偶人形ども───ゴーレムがズン、ズン! と歩いているのが見えた。




『敵機甲兵力確認!……これより殲滅する』




 鉄だろうが……。

 岩だろうが……。

 木とか、骨とかでなぁぁぁぁ───!



 すぅぅぅ…………。









『───12.7mmが防げるかぁぁぁ!』

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