第105話「亡者蠢く」

 ヂャキッ───!


 ホルスターからガバメント改を抜き出すと、ショットガンとあわせて2丁の銃を構えてまま、ズシズシと隠れる気もなく前へ行く。


 この先にいる、敵の奴らに聞こえんとばかりに!


 そうして歩くうちに、足音の反響が変わる。


 通路に反射していたそれが、広大な空間に飲み込まれていくようだ。

 例の大型の資材搬入孔がある場所だろう。


 通路の先……視界に捉えたそこには、大型シャッターが破壊されていた。


 その先には、やはり広大な空間があり、ライトの他魔法の明かりが空間を照らし出している。

 間違いなく奴等かいるようだ。



 フ───。

 知ったことか!



 何の気構えもなくクラムが無造作に向かうと、

 彼が突入する前に───。

「て、敵襲!!」

「奴だ! 鬼がきたぞぉぉぉぉぉ!!」


 泡を食ったような悲鳴が上がる。

 どうやら一度接敵した連中らしい。

 明らかに声には脅えが混じっている。


 ほう?

 鬼……??


 鬼───……。


「はは」


 俺のことか……?


「フ───ふふふふふ」


 ニィィとバイザー内で顔を歪めるクラム。

 鬼神、鬼……!


 人成らざる、悪鬼羅刹の如し───!!


 その通りだ。

 その通りさ。


 その通りに────してやるよおぉぉ!!



 キュィ、キィィィン───。



  「──地獄を見せてやる!!」



 スピーカー全開! 地下全てに続けとばかりに!

 

『ク、クラム?! 無茶をするな!?』

「何が無茶だ!」


 俺が無茶だ!



 おおおおおお、らああああああぁぁぁ!!

 かかってこいやぁっぁあああ!!



 ───ぶっ殺す!!!



 ダンッ! と、思いっきり踏み込むと、前へ前へ!


「く、来るぞぉぉぉ!」

「構えろ!! 用ぉぉぉおお意ぃ!」


 ザザザと、現れたのは黒々とした汚れの目立つ旧エプソが10機ほど……王太子直属か。


「どけぇぇぇ!」

 雑魚に用はない!!


 ───その先にいるんだろぅぅ!


「テンガぁぁぁぁっぁぁぁ!!!」


 ブーストを加えた一歩でかなりの距離を稼ぎぃぃ、っ次の一歩!


「は、はやい!」

「くそ! なんて速度だ?!」


 驚愕に目を見開く王太子直属の兵に───ドゥン! と初弾を見舞う。


 たちまち、グシャリと変形する頭部。

 散弾がむき出しの顔面に命中したのだ…当然だろう! 次ィ───!


「ひ、怯むな! 囲めぇぇぇえ!」


 む……!?

 先に倒した一人を別にして、なんでこいつ等、着ぶくれしてやがる!?

 

 一見して、デブのエプソ……?


 旧エプソを装備した王太子直属部隊。

 兵器廠でグレネード弾に晒されたおかげですすけているものの、それ以上に汚れているのは───……??


『クラム! 散弾では効かん! 一粒スラッグ弾をぶち込んでやれっ』


 うるっせぇぇ! もう弾がぁぁぁ、ねぇぇぇんだよ!


 一弾倉に詰まっている弾は使い切ればそれッきりだ。

 多種の弾があるのは良いが、その分特殊弾は数が少ない!


 そして、目の前に居並ぶ5体ほどの旧エプソは、

「あん? ……追加装甲だとぉぉ!?」


 こりゃ実に原始的かつ、効果的。


 王太子直属部隊の残存は、自らの旧エプソに仲間の使っていた装甲をはぎ取って取り付けているのだ。

 ご丁寧にも、不格好なのを承知で頭部にまで旧エプソを分解したヘルメットもどき付きときた。


 ───ドゥン、ドゥン!


 手近の奴に、弱点の頭部目掛けて散弾をぶっ放してやったが、耳触りな反跳音を立てて弾き返される。

 だが、弾の衝撃は伝わったらしく仰け反る旧エプソ(追加装甲)の兵。

 そこに、装甲の隙間すきま目掛けてガバメント改をねじ込むと……!


 バン、バンバン!


「ぐぁぁぁ!」


 薬莢の音と共に崩れ落ちる兵。

 だが、その隙に一体がクラムに襲い掛かる。


「しぃぃぃねぇぇぇぇぇぇ!!」


 チィ! 


 欲張っている場合じゃないなと、火器選択、ショットガン───一粒スラッグ弾使用っ!

 

「とっておきだ!」

 味わえこの野郎!

 

 ドゥン! と至近距離でぶっ放す一粒スラッグ弾。こいつは流石に強力だ。

 パカンと、追加装甲ごと貫いて貫通。どさりと崩れ落ちる兵を蹴り飛ばして脇に退ける。


 これで怯んでくれれば楽だが……よほど指揮官の薫陶くんとうが行き届いているのだろう。

 残りの兵も全く怯まない。


 そして、唸りを上げて迫りくるウォーハンマーの一撃! ───バンバンバンバンバン!!

 その持ち手を狙って、ガバメント改を連射。連射連射連射!


「ぐぁぁぁ!」


 エプソMK-2とは異なり、旧エプソの可動部はほとんど装甲らしい装甲がない。

 貫通こそしないものの、その衝撃は消えない。実際にそいつは指がグチャグチャに折れ曲がりウォーハンマーがすっぽ抜ける。

 それがブンブンと回転して飛び退り、クラムを背後から打ち据えようとしていた兵に命中。

 追加装甲を大きく凹ませて吹っ飛んだ。


「邪魔をするなぁァ!!」


 どちらも罵り合い、乱暴な言葉……もはやクラムが叫んでいるのか、兵が叫んでいるのか……。


 亡者は、ただ、だだ───地獄を賑わす……!



  「「「うおおおおおおおおお!!!」」」


 互いに野蛮な声をあげて激突する。


 銃が唸り、

 鈍器も唸る。


 だが、性能に勝るクラムのエプソMK-2が旧エプソを圧倒していく。

 次々に倒れる旧式どもをなぎ倒し、

 薄い防衛ラインを敷いていた前衛を駆逐したクラムは更に前へ前へ───!


 しかし、これほど大声で叫び銃を撃ちまくっていれば、中にいる100人の勇者親衛隊ブレイズと『勇者』に気付かれないはずがない。


 こんな雑魚に手こずっている場合では───!!


 しかし………。

「くそ! 邪魔クセェ奴らだ!!」

 オカワリ! とばかりに残りの王太子直属の兵が、ズン、ズン! と姿を現す。

 どいつもこいつも追加装甲タイプで──旧エプソの装甲由来の盾まで装備してやがる。


「勝てると思ったか! 雑魚ども!!」


 それでも、亡者のごとく立ち塞がる兵士たち。

 ……どうやらここを最終防衛ラインとみているらしい。

(必死だな? テンガの命令か? ならば……??)


 ──おいおい、この先に何が……。一体、何があるってんだ?


 どうやら、よほど近寄らせたくないらしい。

 情報を聞き出そうにも、魔王も忙しそうだ。

『くぅ……ハッキング対策が素人のそれではない?! いったい何者がα個体の傍にいる?!』 

 バイザー内で魔王が苦悶の表情。

 ハッチの開放とやらはうまくいっていないのだろう。


「おい! どうなってる───」

 いい加減雑魚の相手もうんざ───。

『……な?! このプログラミングの癖はもしや───……。ク、クラム! い、いいい、急げぇぇぇ!!』


 バイザー内に響く魔王の声。

 な、なんだ!?


『逆探知された! ハッキングを辿られてしまったわ!!…………くそぉ、完全に見つかったようじゃ! わ、儂ではハッチの開放は無理───』


 お、おいおいおいおい! 俺にやれってか?


『ええぃ、くそぉ!! くそくそくそ! リズ、そこを退けっ! クラムの相手をしておれぃ!』

『え、あ? お、叔父さん? アイツが……アイツらが、』


 リズ?

 どうした───??



 ピンポンパン、ポーン♪


「………………は?」


 ──か、館内放送??


 突如、音の割れた音声がどこからともなく流れる。

 お決まりの女性を模した機械音声は、例外なく音割れしていたが……。



『───機構、……に通達…り、…イロの開、……ます。繰、返し……───』



 それは紛れもなく、魔王軍のアナウンスそのものだ。


「おい!? どうなってる?」 


 ピンポンパン、ポーン♪ ポーン♪


『───職員は最、りのシェ…ター。また…、外部……、避を通達し……。ご案内──ザ、方、援助が必要……は近隣の武装───ザ、告してくだ、い。繰…返しま、───』


 なんだ、これ?

 ふざけてんのか?!


『ええぃ! 奴ら……起動させおったか!?』

 何の話だ?


 しかし、問い返す間もなく。

 頭上の非常灯が真っ赤に染まり、不快感を伴う緊急ベルが鳴り響き始めた。


 ──ジリ、……リリ、リリぃぃ、リリリッリリ!


(これは、非常訓練?? いや、訓練じゃない…………非常事態か?!)


 あの時は、たしか──────……。


 館内放送に続き、職員の退避を促す警報が鳴り響く。

 見覚えがあったのは、エーベルンシュタットで空中空母の発着艦があった時だ。


 だが、王都上空を飛んでいる空中空母がここに着艦するはずもなし。


『ク、クラム、急げぃ! もう持たん! 奴らにバレた! 攻撃を受けておるが、こっちの火器では歯が立たん!! ───……は、はやく!!』──ヴァアアアアアアアアアン!!


 魔王の危急を告げる通信に交じり、内部でRLCVポチの自衛火器であるガトリング砲が唸り声をあげている。


『ダメじゃ! クラムよ、失敗じゃ! ハッキング失敗!!……現在。……現在、』


 こ、攻撃を受けておる───!



    『───援護しろぉぉ!』



 そう魔王は怒鳴る。


 怒鳴るが、

「馬鹿野郎! コッチも手いっぱいだ!」

 ゾロゾロと現れた王太子直属の兵らは、いずれも追加装甲付きの旧エプソ。

 連中は、得物を手にジリジリと圧力を掛けてくる。


 対するクラムは一人。

 一粒スラッグ弾は強力無比だが、至近距離に限られるうえ、グリップが破損しているため命中率が2割がた落ちている。


 都合、弾に比較的余裕のある、16mmグレネードをブチかましているのだが、


 ヅバァァァァン! ヅバァァァッァン!


 と命中しても、今度の敵は一味違う。

 装甲だけで言えばエプソMK-2を上回っているかもしれない。

 盾と追加装甲の一部ははじけ飛ぶが、

 貫通もできず、損傷を与えるもわずか───!


 くそ……!

「どけっ! ぶっ殺すぞ!」


 威嚇いかくして怯むような連中ではない。

 ……奴らも既に逃げ場などないのだ。文字通り最後の抵抗線という奴だろう。


 そして、魔王は魔王で戦闘の真っ最中らしい。


 ズズン! と重量物がぶつかり合う音。

 続けてガトリング砲がそこに続く、……魔王もRLCVポチで交戦中か?


『くそぅ! くそぅ! 5.56mmでは───けんかっ! ぐぅぅぅぅ!』


 ち……。

 待ってろ!


「行かせん!」「固めろぉぉぉ!」「殿下を護れぇぇぇ」


 ええい!

退けぇぇぇぇ!」


 弾ケチってる場合じゃないか!!


「全弾くれてやらぁぁぁ!!」

 容赦なく一粒スラッグ弾を叩き込んでやる。

 外れても知るか!


 数撃ちゃ当たるわぁぁぁ!


 ドゥン! ドゥ、ドゥ、ドゥドゥドゥン!


「おらぁ!!」


 トリガーを引きっぱなしで、とっておきの一粒スラッグ弾をすべて叩き込んだ。


 それでも、まだ生き残る兵もいる。

 ───やはり一粒スラッグ弾の威力は距離に応じて落ちるのか!?


 だが、連射の威力は絶大で、敵の隊列はグチャグチャだ。


 トドメは、

「コイツで終いだぁぁ!!」


 手榴弾を引き抜くと、ピンを弾いて隊列の中央にブン投げる。



 カン、コンン…………ドォン!!



 爆発と爆炎と爆音の中に「ぎゃああ!」という悲鳴が混ざるが、あっという間に掻き消える。

 カララン……と旧エプソの装甲の成れの果てが転がり、隊列を組んでいた敵は全滅したようだ。


 念のために、むき出しになった顔面に丁寧に散弾を叩き込んでいき確実に仕留める。

 これでなんとか、立ちふさがった追加装甲装備の王太子直属の兵を撃ち倒し、通路を開放した。


「魔王! 正面の敵を殲滅───……弾をアモ弾をくれっガッデム アモ!」


『……クラ、ム、……らは、%&傷、多数……きん!』


 なんだ?

 魔王の通信がおかしい。


(……やられたのか?)


 ならば直接交信するしかない。

 通信そのものは生きている所を見ると、送話系がやられているのだろう。


 少なくとも、アンテナはまだ生きているはずだ。


「今行く!」

 兵らの死体を乗り越えつつ、クラムは悠然と歩く。


 勇者親衛隊ブレイズが100?

 ……知るかっ!


 ショットガンの残弾わずか。

 上等。


 一粒スラッグ弾は弾切れ───。

 上等。


 敵は旧エプソ装備……!

 上等ぉぉ!



 

 ───もう、うんざりだ……。

 ───もう、たくさんだ!


 だから、ここでケリをつけてやる。



 ……あとは、

 くのみ───

 くのみ───

 くのみ───



 

 通路から大型シャッターの脇に取りつき、スタングレネードを準備。

 降下後から補給を受けていないので、弾はもとより手持ちのグレネードもお寒い限りだ。


 だが、惜しんでもいられない……。



 ピィン…───と、硬質な音を立ててピンを弾くと、手首のスナップだけで中に放り込む。

 カァアン、コォォオン! と、やけに反響するところを見ると、かなり広大なのだろう。


 チ……!

 この様子だと、スタングレネードの効果は限定的になるか……?




 ───……バァァァァン!




 ものすごい音が、室内に反響したのを見計らってから───!


「おらぁっぁああ!」

 ドゥン、ドゥン、ドゥン!!!


 敵の有無はともかく、突入前に景気つけとばかりに牽制射を撃ちまくった。



突入チャージ! 突入チャージ!!」



 そして、

 クラムは突入する───!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る