第104話「ラストマン」
カン、カン、カン……。
金属の足音が地階から上がってくる。
少女の遺体を抱きしめたクラムは足音を消すこともなく、ただ無言で登っていた。
『……クラム』
消え入りそうなほど小さな声で魔王が声を掛けてくる。
「……なんだよ?」
一瞬無視するかと思われたが、クラムはいつもと同じ声量で返す。
『う……うむ。その……なんだ、』
ゴニョゴニョと言い淀む魔王。……言いたいことがあるならハッキリ言えよ。
『ルゥナの遺───……か、
「連れて帰るさ……」
どこにと言われても困るが……こんなところに放置はできない。
『そ、そうか……あー……』
「───……テンガのことか? ……安心しろ。言われんでも、ちゃんと仕留めるさっ」
必ず、な!
『う、うむ……じゃが、その、どうするのだ? 時間はあまりない……その、ルゥナを───』
「連れていく。絶対に、だ」
あぁ、
「……あぁ、そう、だな。戦闘に巻き込まれたら……怖いよな。ルゥナ───」
ムチュと、その冷たい額にキスを落とし、
「一旦どこかに寝かせて……仕留めてから戻る? ……いや、戻れる保証もない───」
魔王は爆撃を
魔王軍は人情味はあるが、……感情だけで動く人物達でもない。その辺だけは確信できる。
ルゥナの体がどうなろうと、目的のためなら施設ごと焼き払うのに躊躇はない。
一応、職員扱いであるクラムならいざ知らず……ルゥナのために爆撃を止めることは───絶対にしない。
……そうだろ?
『……任務を遂行してくれて、感謝する。じゃから、の……せめてもの礼じゃ───』
カチャカチャとキーボードを操作する音に、ポォン♪ と、軽い音と共にMAP上の一つが解放される。
空白の秘匿区画の一つだ。
「なんだ?」
『いいから、行け。……すぐそこじゃ』
??
「いいけど───ここか?」
言われるままに、指定された部屋にたどり着く。
そこは開閉式ドアではなく、シャッタータイプの入り口だった。
つまり、職員などの人間だけが使う部屋ではなく、魔王軍のエーベルンシュタットで言う所の格納庫や研究施設に多いそれだ。
「また変なもんが出てくるんじゃないのか?」
『変なもんとはなんじゃ、変なもんとは!』
……自分のちっさい胸に手を当てて考えてみろっつの。
「これか……?」
開閉スイッチは薄汚れていたが、生きていた。
ピ、
ガラララララララララ!
「ぶっ!」
ムワッと埃が噴き出してくる。
随分と長い間密閉されていたのだろう。
「ペッぺっ! ひでぇ匂いだ」
油のにおいまで生きている。
そして、遺跡独特の埃のような……カビのような……。
……ヘルメットをしておこう。
って、
「お、おいおい……こりゃあ……!」
『うむ。オフラインじゃがの……。お主のエプソを介してやれば復旧できる。近くの奴に触れてみぃ』
魔王のいうオフラインのそれ───。
「RLCV、ポチか……」
『うむ……。型は古いが、コイツの基本設計は何世紀も変わっておらん。自立させるところまでやれば、あとはワシ等で操作して……ルゥナを地上まで連れて行ってやる』
一応、この古いRLCVも
武装の無い、簡易型らしいが……小柄なルゥナは楽に乗せられそうだ。
「外部端子───これか」
パカっとカバーをあけると様々なジャックが並ぶ。そこにエプソから伸ばしたコードと繋ぐと、
『───おうおう、来た来た。……んむ。オンラインできた』
キュラララ……! と、キャタピラが空転し、まるで魔王が乗り移ったかのように、突然起動する旧型RLCV。
「……ルゥナ───少し我慢してくれよ……」
コンテナをあけると、軽く埃などを掃って……そっと、ルゥナを横たえる。
小さなコンテナに収まるルゥナ。
その顔は……まるで寝ているようだ。
「魔王…頼む」
『うむ。……任せろ。上階で回収員を待機させておく』
例の姿の見えない武装隊員たちか。
「感謝する、よ」
ポン……と旧型RLCVを労わる様に叩くと、キュラキュラと履帯を軋ませてエレベーターの方へと下がっていった。
『あとは……任務を遂行せよ』
「……おう」
背部コンテナから、中破したショットガンを取り出す。
グリップが破損していてやや照準にブレが出そうだ。兵器類には
これはコンピュータ制御の関係だろう。
要するに、ただの道具と機械でその機能が別れているとクラムは推測している。
だから、旧型RLCVには
ただし、ミサイルや大型の火器はこの限りではないかもしれない。
それゆえ、火薬類は流石に劣化しているのでそれほど危険ではないだろうが……この旧エーベルンシュタットにSLBMのような大型ミサイルがあれば、爆薬は劣化していてもミサイルそのものは生きているかもしれない。
十分に注意が必要だ。
ジッ……とショットガンを確認し、コンテナから弾力テープをとりだすと、テープでショットガンのグリップを補強した。
とりあえず、撃つ分には問題ないだろう。
応急処置を整えると銃を構えて前進を開始するクラム。
目的地はそう遠くはない。敵の数もおおむね把握している。
『
そこに、
そして『勇者テンガ』がいる。
(ちっ。どうやっても弾が足りないな……)
ガバメント改をあわせても全弾命中でもさせない限り、弾が先に尽きる。
魔王は
現状として
たかだか、ハッチの開放に手間取っていることからもそれが分かる。
「いいさ……
そうさ、
俺に、
もう……………………失うものはない。
何も、ない。
ここには、『勇者』どもしかいない…───!
ならば、戦おう。
俺に残ったのは、
テンガ───。
もう
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