第98話「亡者達」

 後宮地下のエーベルンシュタット。

 ───便宜上、旧エーベルンシュタットと呼ぶ。


 そこは、クラムが滞在したあの施設に瓜二つで、

 経年劣化でボロボロである以外は見知った風景だった。


 クラムが初めに拘束された部屋もあったし……その先にある施設の配置も記憶の通り。


 懐かしいという程のものではないが、奇妙なデジャブを感じる不思議な光景だ。


 時折、ライトが点滅する以外にはほとんど動きがない。


 幾つかの部屋では、電力を入れたと同時に器材が動き始めたのか、

 魔王軍が使っているようなPCが起動する音を立てている。


 さらには、ポンプも作動しているらしく、

 水流が戻ったためか、どこかで水が漏れているような音がしている。

 多分、便所でも漏水したのだろう。


「廃墟になったエーベルンシュタットか……」

 いや、この様子は既に遺跡といってもいいかもな……。


 ネリスを従えたクラムは、銃を手に進んでいく。


 確か……。

 この先にあるのは、エーベルンシュタット兵器廠と、

 ……自動医療機器オートメディックのあるロボトミー実験棟。


 そして、魔王に指示された大型資材運搬用のエレベーターだ。


 MAPのから表示だけみてもそこが相当に広大な空間だと分かる。

 そこは、まるまる王城の本丸部分が収まりそうな巨大さを誇っていた。


「魔王軍ってのは、程度を知らんからな…」

 とにかくデカいものをバンバン作っていやがる気がする。


 空中空母といい、潜水空母と言い……。


 次はなんだ? 本家本元の原子力空母か? それとも陸上空母か?


「ん?…………これは?」

 何気なく通り過ぎようとしたクラムは違和感に気付く。


『どうした?』

「魔王……エーベルンシュタットの兵器廠ってのは、ここだよな?」


 クラムがいるのは、旧エーベルンシュタットの兵器廠。

 魔王軍の管理しているエーベルンシュタットでいえばエプソMK-2があった──あそこだ。


『そうじゃが……封鎖しておるはず───なんじゃと!?』


 突然、バイザー内の魔王が驚愕して大声をあげる。


『な、何故開いている? 歴代の王にしか開けられんハズ!』


 …………は?


 歴代の『王』が開けられる?

 ど、どういうことだよ?


「おい、魔王───」

『クラム、調査しろ! そこはお主の権限でも』

「───これはなんだ?」『──入れ、る……』



 ……なんだ、これ?



 扉の前に転がっていた、それ・・

 クラムが拾いあげ、バイザーの先にいる魔王たちにも見えるように示したもの。


「ひ!」

 背後でネリスが驚いている。

 バイザーの中ではリズが目を背けていた……。


『ぬぅ……腕に、目玉……それに魔法詠唱用の水晶……か』


 兵器廠の分厚い隔壁は開放状態。

 そして、転がっているのは歴代王・・・の腕と───目玉……。

 そして、声を記録できる魔法詠唱用の水晶。


αアルファ個体め──! それで王の目玉を、か!』

 声は魔法技術の応用で水晶に収めることができるだろう。

 だが、指紋照合や、網膜スキャンは本物である必要がある……だから、王を解体して持ってきた。


 ───何のために?


「魔王……中に何がある?」

『エ───』


 ダダダダダダダッダダダン!! ダダダダダダダン!!


「グ!」


 カキン、パシン! と装甲に命中する───銃弾!?


「な、なんだ!? 撃たれたのか?」

 とっさにネリスを突き飛ばし、安全圏に放り込む。

 その間にクラムは兵器廠の扉の脇に張り付き、内部を窺う。


 その間にも銃撃は連続し、何発かが装甲で弾ける!


「拳銃弾───9mmクラス? どういう事だ……おい魔王!!」

 弾は非力な拳銃弾クラスで、エプソを貫通には至らないが、連続で受けると関節部なんかは損傷が発生する。


 いやそれより───!


『くそっ! 遺失物を再利用しておる! クラム気を付けろ……!』

 はぁ? 何が何だか……。



 そこには、


『───旧エプソが山ほどあるんじゃ!!』




 んな!?




「ど、どういうことだ! おい!」

『詳しくは話せんが……! ワシらのエーベルンシュタットの武器庫が敵に手に落ちた、とでも思えっ!』


 おいおい……意味が分からん。

 ここは王城だろ?


 魔王軍のエーベルンシュタットは、遥か北のはずじゃ……?


『ええい、物わかりの悪い奴じゃ…! そこは、古いエーベルンシュタットだと思え───』

「思えって、てめぇ……っぐ!」


 無線越しに言い合いをしていると、


「天誅ぅぅぅぅぅ!!!」


 大型のハンマーのようなモノを構えた兵が突っ込んでくる。

 だが、タダの兵ではない……近衛か、勇者親衛隊ブレイズだか何だか知らんが……。


 ───き、旧エプソを装備してやがる!?


 そいつが、ハンマーをぉぉぉぉぉおおおお、


「がぁ!」


 獣のような唸り声と共に振り下ろされるウォーハンマー!

「ちぃ……!」

 その一撃を、辛うじてかわす───そこに、すかさず発砲!


 ドゥン! ドゥンドゥン!!


 どう、だ……? やった、か───





 あ?





『クラム! 散弾では効かんぞ! ええい、リズ! RLCVポチの操作を替われ……目標地点に向かわせるだけでいい!』

『う、うん』


 画面ごしに魔王とリズが、ガチャガチャしている。


 魔王は魔王で、RLCVポチの操作とクラムのサポートを同時に行うのは難しいらしい。

 緊急時ゆえ、リズと交代……っていうか他の要員はいないのかよ!?


「魔王っ、……どうなってる!?」

『馬鹿者! 敵の装甲はチタン合金! MK-2より劣るとは言え、頑丈だぞっ!』


 って、

 お前らの持ちモンだろうがっ、……くそがぁぁ!


『スラッグ弾か、グレネード弾を使え! 25mmではないぞ!? 間違えるなっ』


 分かってるわ! こんな至近距離で25mmが使えるかっ!


「天誅うぅぅぅぅ! ──続けえぇぇぇぇ」

 奥からは更に増援がくる。


 そりゃ、

 一機だけのはずがない!


 魔王は言った……旧エプソが山ほどあると……!


「突撃ぃぃぃぃ!!」


 ギョム、ギョム、ギョム!!


 ギョムギョムギョムギョムギョムギムギムギムギギギギ!!!


 ギョムギョムギョムギョムギョム

  ギョムギョムギョムギョムギョム

   ギョムギョムギョムギョムギョム

    ギョムギョムギョムギョムギョム

     ギョムギョムギョムギョムギョム




 じょ、


「じょ、冗ぅッ談ッッだろぉ!!??」

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