第8章「鬼の饗宴」
第97話「地獄の底」
※ 新章 ※
───ここはエレベーターシャフトじゃ。
何気なく魔王は言うが、
(エレベーターって……おまっ!)
簡易バイザーのMAPにも確かにエレベーター区画と表示されている。
それは深く、
それは暗く、
それは巨大で……それでもまだまだ全容の一部。
地下………何メートルなんだか。
『乗れっ、ここのパスは代々王族が握って居ったようじゃの…どーりでのぉ』
「あ? 何の話だ?」
『
……多分な。と魔王は告げた。
「上等っ」
ガシャキと、ショットガンに弾を送り込む。
残弾は潤沢ではないが、『勇者』一人ならなんとかなる程度。
要は、
ゴン、ゴン、ゴンッ…とエプソMK-2の重々しい足音を立てて鋼鉄製のエレベーターに乗る。
それは屋根も壁もなく。
一見してこの地下牢の底にも見える真円の底蓋……
「まだ、底があったなんて…」
初めて知ったとネリスは言う。
こんな程度が底なものか……──エーベルンシュタットの全容は、まさに魔王城だ。
それが
「魔王、MAPの情報を開示してくれ……不明箇所が多すぎる!」
『ならん! お主のエーベルンシュタットでの扱いと同じと思え! ワシが先に突入し、偵察しておる。そのルートを来いっ』
ち……魔王の奴。何を隠していやがる。
ゴゴゴゴゴオゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
クラム達が乗ったのを見届けたのか、エレベーターが轟音を立てて降下していく。
本来のエーベルンシュタットなら、このエレベーターは地上部まで行くはずだが、何らかの事情でルゥナの部屋がある位置で詰まってしまっていたのだろう。
それを幸いとしたのか、王国の連中は壁をくり貫いて地下牢だか…貴人の隔離場所だかに活用していたらしい。
それは分かるのだが……エーベルンシュタットが二つ?
……魔王め───いったい……
ゴゴゴオゴゴゴ…………ゴシュュンン…
深く考える暇もなく、エレベーターは地下深くに到達する。上を見上げれば微かに光が射す程度。
相当な深さだと分かる。
「な。なに……ここ?」
「…………地獄だろうさ」
シャキ、と銃を構えて歩き出すクラム。それに追従するしかないネリス。
入り口は一カ所だけ。
薄汚れてボロボロの外観のエレベーターとそのシャフト。それと同様に、その入り口も朽ちかけている。
エーベルンシュタットには違いないのだろうが……なんだこの
「ルートを寄越せ」
『うむ。はぐれるなよ。こっちも未だ偵察中じゃ。武器の再補給はできんから気を付けろ』
もとより、そのつもりだ。
刀があれば最悪何とでもなる。
それよりも───……
エレベーターの床には大量の埃が堆積していた。そして、そこ
についている無数の足跡。
「……ネリス。後宮を守備していた兵はどこへ行った?」
「え? …………わからない、よ」
ち、使えねぇアマだ。
「普段はどの程度の兵が詰めていた?」
「…………
……ブレイズ?
「世界中から勇者が選りすぐった……100人の男女───とても綺麗な……兵のこと」
は!! アホ『勇者』がっ!
男もいける口かぁ!?
は!!
「くだらねぇ……そいつら、全員ここにいるな」
センサーを駆使して、解析───およそ100~150人程の人間がいたらしい。
空気中の微粒子も観測できる。
だが、位置情報はわからない。
魔王がわざとジャミングしているとしか思えない。
……まぁいい。屋内戦はエプソの望むところ。
先行している魔王が操作中の
懸念があるとすれば残弾か……
ガポンとヘルメットを被り、バイザーシステムを起動させる。
たちまち全周モニターが周囲を映し、まるでヘルメットなど被っていないかのように景色を示してくる。
しかし、息苦しさは多少あるため、まったく被っていない時とはやはり違う。
そして、画面上には簡易バイザーにはなかった項目が浮かび、
支援機のコマンドや空中空母の支援、
詳細なMAPに、レーダー画面が映る。
さらにはオペレーターの魔王とリズの顔も見える。
『準備できたようじゃの。では、ルートを送る。……追従せよ。───奴の痕跡を見つけた』
ブィンと、画面上にルートが表示される。
それと同時に、いくつかのMAP上の不開示情報がが解除され、詳細が浮かび上がる。とは言え当初の地図とそう変わるところはない。
クラムが見ても問題ないと判断した場所だけを表示しているのだろう。
ち……隠し事が過ぎるぞ。
「前進する。サポートを頼むぞ」
『うむ。内部は朽ち果てておる。床は問題ないが、天井はいつ崩れるか分からん……電気も復旧してみたが、ほとんど回復せんかった。……だが、無傷の───生きた区画もある』
へぇ? 電気があるのか……それに生きている区画か。
『じゃが、ほとんどは秘匿地域じゃ。お主は入れんから注意しろ。下手なことをする気なら、こちらからエプソをダウンさせねばならん……いいな?』
なにがオペレートだ……ただの見張りじゃねぇか。
「どうにも胡散臭いな……お前ら───」
『お主に話せる内容はない。行けっ、クラム!』
ち……俺は犬じゃねぇぞ。
「ネリス。迷っても俺は知らん。必死で付いて来い」
「わか、った」
足場も悪い。
経年劣化のためか天井パネルが腐って落ちて、本来のむき出しのベトン構造が現れている。
ボロボロの天井にところどころ浮かんでいるように見えるのは、ライトの成れの果てらしい。
それでもいくつかは点灯するらしく、チカチカと点滅しつつも、明かりを周囲に放っていた。
ジャリ、ジャリ、
エプソの足が床を踏みしめていく。
確かに床は頑丈だが、壁はくすんで元々何色だったかもわからない。
天井はパネルが抜け落ちているため妙に高く感じる。その上、ライトより奥は暗く沈んでいる。
……とは言えエプソには暗視装置がついているため支障はない。
電灯の明かりは、むしろネリスのためと言ったところか。
『妙じゃ……
閉鎖したはずじゃが……とブツブツと言っている。
「歴代王はここを知っていたんだろ?」
『らしいの……じゃが、せいぜい廃棄品を拾える程度で、重要区画に入れるはずも…そもそも入ったところで、ここの文明水準で扱えるはずもない』
魔王よ。そりゃ過信し過ぎだ。
「人間、長年
クラムやリズとて、
一応は魔王軍の機材を使っている。リズはまだ日も浅いというのに、無人機すら指揮している。
魔王軍の兵器とはいえ、
人間が扱えて当然だろうに……
『まぁいい。とにかく追うぞ。何を目的としとるが知らんが、『勇者』がここにいるのは──ワシ等としても望ましくない』
「破壊したらどうだ?」
……
『無理じゃ』
「はぁ? 破壊するつもりだったんだろ?」
『エレベーターまではできる。じゃが他の区画は深すぎる。こっちで爆撃箇所を解放せんとならん』
ビュインと、MAPの秘匿区画が点滅表示。
内部は情報開示できないらしいが、ここを何とかしろという事らしい。
『大型ハッチじゃ。見ろ、ここに大型資材運搬用のハッチがある。それを開放する。……お主が降りてきた小型資材運搬用のエレベーターだけを爆撃しても全部は破壊できん』
大型資材用のハッチねぇ……さっき降りてきた巨大エレベーターが小型資材運搬用だと言うんだから、どれだけデカい資材なんだか。
『いいか、聞けクラム』
「なんだよ?」
魔王は唐突に、切り出した。
そう───
『うまくやれば『勇者』をそこに永遠に閉じ込められるかもしれん』
「なに?」
『何…簡単なことじゃ。そこは地下深くの施設じゃ。……入口を徹底的に破壊し埋めてしまえば中で復活しようが、何億トンと言う土砂をどけて這い出ることは
ほう。
……生き埋めか。そんな簡単な方法で、な。
「わかった。指示を出してくれれば従うさ」
『うむ。
分かりやすい作戦だ。
「
『よし、ワシは先に行くが、『勇者』とその兵は未だ消息が掴めん。奇襲に備えよ』
「造作もねぇよ」
ジャキン!!!
勇者?
兵士──……?
「…………………はっ!!」
───どっからでもこい!
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