第19話「奴隷市場」

 突然、横の広場が「ワッ」と沸き返る。



 ───なんだ?



「お……! 見ろよ。奴隷市場だぜ」


 元盗賊の囚人兵が指し示す先。

 地形を利用した天然のステージに、簡易柵や馬車に乗った檻が広場をぐるりと囲んでいる、ちょっとしたいちが立っていた。


「へへ……。久しぶりに若い女を見たな」


 視線の先には、暗い顔をした男女が檻に入れられて下を向いている。


 「あー、なりたくないな……」と、元盗賊の囚人兵は言うが───うーむ。囚人兵も大概だと思うぞ……?

 

 余計にドンヨリしたクラム達を尻目に、視線の先では「大金」と「人間」が熱気もあらわに、やり取り・・・・されていく。


 そして、次々に競売が実施されて───クラムたちの目の前で商品・・が売れていく……。


 屈強な男は戦闘奴隷として、

 痩せた男は鉱山奴隷として、

 老婆は薬の実験台として高価で、


 若い子供は男女問わず、性奴隷として……、


 なお、男の子は鉱山奴隷や戦闘奴隷にも変更可能らしい。

 そして、同じ商品でも扱いによって値段がべらぼうに違う。


「なんだ? あの婆さんや小さい子、若い娘より高いじゃないか?」


 興味を覚えた別の囚人兵が、元盗賊の囚人兵にたずねている。


「なんだなんだ? 知らないのか?」

 ふふふん、と鼻高々に説明し始める元盗賊の囚人兵。


 その間にも、ドンドンと奴隷は売れていく。


 子供、男、女、老女、

 人、人、ヒト、ひと……───。


「奴隷ってのは、基本的に国のもんだ。売買によって一時的に所有はできるが、最終的な権利は国が持つ、」


 あー……。そういや、奴隷は国の財産だって、どっかで聞いたことがあるな。


「──それでだ。人間様が生きている期間に応じて、最終的な値段として売買されるわけだ。つまり、死ぬのが早い戦闘奴隷は高価になるが、死ぬ危険が少ない性奴隷は安価と……まぁ、かわりに毎年更新料が必要になるわけだがな」


 そして、性奴隷、鉱山(重労働)奴隷、戦闘奴隷、酷使奴隷の順で高価になる。


 とはいえ、生きている間は年度ごとの更新料も必要となり、支払いできなければ奴隷は国に返却することになる。

 つまり、最終的な人間の値段はほぼ同じになるという事。

 (ちなみに、奴隷が子供を生んだ場合は国が権利者になる)


 性奴隷は、死ぬまでのお金を計算して比較的安く……。

 薬や兵器の実験台、拷問趣味の変態のための酷使奴隷はすぐに死ぬため値段は高い……。───ということらしい。


 故に、酷使奴隷の老女が高かったり(それでも寿命換算で言えば安い)、

 鉱山奴隷や戦闘奴隷にされる男の子のほうが高かったり(性奴隷にすれば安くなる)、


 つまり、命を天秤の乗せて、奴隷の残り寿命をお金で換算して値段が決まるというわけだ。


 実に人類愛に満ちた制度。

 人間の命は平等で、その価値は同じなんだよ! と、まぁそういうことらしい。


 それが、この世界での奴隷売買の基準なんだとか?

 まぁ、お優しい世界なこって──。


 ちなみに、これを誤魔化して性奴隷として購入(この場合はレンタルに近い)した者を、酷使奴隷や戦闘奴隷として使用した場合──……購入者が厳罰に処させる。

 そのうえ───仮に死んだ場合は、本来発生する代金に罰金を上乗せした額が徴収されるらしい。


 故に、しっかりと使用目的・・・・に合わせた奴隷を買う必要があるのだとか?


 また、純粋に労働力や家事手伝いとして雇いたい場合は生活奴隷と言って───これまた高い。


 生活奴隷は、奴隷というよりも通常市民に近い扱いとなるため、市民権を与えるのが通例らしい。

 そのため、一市民の権利を与えることになるので、これまた王国の財産を買うという事で酷使奴隷なみの金額が必要になる。


 それくらいなら、と。

 性奴隷として購入したものに家事手伝いをさせることが一般的だった。

 それ自体は別に罪ではないが、最終的な扱いが問題になる。


 つまり、そんな法律逃れを防ぐため──きちんと年間の更新時にちゃんと「使用・・」していることを証明せねばならない。


 証明できない場合は奴隷の回収と、最悪の場合、違反金を取られることになる。

 昔の笑い話に、こんな話がある。


 奴隷の代金をケチるため、一時金逃れを画策した男がいたらしい。

 生活奴隷として使っていた値段の安い女を性奴隷として購入した結果──醜女しこめを、役人の前で抱く羽目になったとかなんとか……。


 性奴隷として(当然品質により性奴隷の中でも安く購入できるわけだが)購入した場合……そういった危険もあるわけだ。

 もっとも、失礼な話ではあるけどね。


 とは言え、昔話の戒めは中々身につまされるものだ。

 下手な代金逃れは後々大変ということ。違反した購入者は結局は自分が大変な目にあうのだから、なかなかよくできたシステムだ。


 そんなこんなで、奴隷は財産──とはよく言ったものだ。


 ぼんやりと、奴隷の流れる様子を見ていると、さらにさらにと奴隷が奥から追加されていく。

 その様子に、会場中のボルテージも上昇していき、熱気が凄いことになってきた。


「さぁ、ドンドン売れてまいります! 今の戦闘奴隷は、金貨60枚でのお買い上げです!」


 屈強な男が絶望的な顔で牢から引き出され、

 金と交換で傭兵団に引き渡されている。


 絶望的な顔をした男。

 彼には戦闘奴隷として過酷な運命しか待っていないのだろう。

 囚人兵とどっちがいいかと言われてもクラムには答えようもなかったが……。


 そして、高値の交渉をまとめた司会は上機嫌に次の奴隷を紹介する。

 

「──さぁ、お次はぁぁーーー!!」


 ダラララララララララララララ、……ダァン!

 と、場を盛り上げる太鼓の音に続き──サッと、檻の垂れ幕が取り払われる。



の『勇者』テンガのハレムで飼われていた、美しい少女だぁぁぁぁぁぁ!!」









 え?






 リ──────。



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