第20話「煉獄での再会」
り、
「リズ……?」
檻から引き出され、焦点の定まらぬ視線でボンヤリと
記憶にある姿よりも成長しており───
別人?
……いや、
リズ、だ。
間違いない……。
リズだ……───。
───リズ………………………。
「さぁさ、お買い得! こんな上物二度と手に入らないよ! 当初、金貨10枚から参ります」
バァン! と、太鼓を叩き値段を示す。
そのあまりの高さに会場がザワツク。
通常相場の3倍以上らしい。
確かに……。
確かに美しい。
「おいおい……。誰がガキの性奴隷にそこまで出すかよ? ま、……確かに上物ではあるが──」
客をバカにすんなよ、と元盗賊の囚人兵がせせら笑う。
それは会場の客も同じ思いだったのか、誰も手を上げない。
「いないか!? さぁさ、まだ始まったばかり、値段分の損はさせないよ!」
司会の男が何かを言っているが、クラムの耳には入っていない。
ヨロヨロと、鎖を鳴らしながらステージへと歩いていく。
嘘、だろ……?
なぁ?
なんでそんなとこにいるんだ?
リズ……。
俺の家族、リズ───。
「お、おい!」
クラムの様子に気付いた囚人兵達が、慌てて止めに入る。
しかし、人ごみに
「いないか!? 誰もいないか?」
確かに、『勇者』のハレムから流れた来ただけあり──かなりの美しさだ。
まだ幼さを残すそれは、十二分に今後の成長も望めるだろう。
ただ……。
そう、ただ余りにも汚い。
垢汚れに、フケまみれ。泥だか糞尿がこびりついてさえいる。
それはもう、乞食以上の汚れ──。しかも、生気のない顔色は買うものを
ガリガリに痩せ……。
目は
若く美しいはずの少女だが、その瞳は暗く……、まるで地獄の底の様に沈み込んでいた。
しかし───。
それを差し引いても映える美しさ。
少女から大人へと向かう段階のアンバランスな背徳的な美を兼ね備えた───美しき少女……。
クラムの家族。
大事な姪っ子のリズ────。
たしかに、これなら……。
だが、躊躇する客も多いらしく、司会が二の足を踏んでいる。
どうする?
どうする──、と。
「さぁさいないか! いないか!? ん~~~。皆さまお悩みの様子!」
では、ご覧あれ──と、何を思ったか、司会がリズを檻から引っ張り出す様に店の者指示を出した。
すると手慣れた様子でリズを引っ張りだした男達。
「う……」
呻くリズにはお構いなしにやや乱暴な手つきで客のまえにズイズイと引き出す。
そして、
「まだまだ、使えますよ! 実際
そういって、男達に命じてボロきれの様な服を引っぺがさせる。
たちまちあらわになる少女の裸体。
それは……。
それは美しい肢体だ。
確かに汚れて、痩せてはいるものの、クビレとそして出るところのでた新鮮で可愛らしい少女そのものだ。
ツンと上を向く形の良い胸には、頂点にピンク色の綺麗な乳首がひっそりと咲いている。
恥丘にはほとんど毛が生えておらず、プックリト健康的に膨らむ、外気を浴びてしっとりと輝いていた。
まだ幼い少女。
美しさと可愛らしさのバランスの危うさが、たまらなく淫靡だった。
「さぁさ! どうだ! これがハレムの少女の美しさだぁっぁ!! 買わないか? 買わないかぁぁあ!?」
司会は、少女の顔に手を這わしつつ、少し疲れた表情をしたリズの幼さをよーーーく見えるように示してみせた。
「……10枚! 買うぞ!」
そこに──エェイ! とばかりに好色染みた老人が手を上げる。
「でた! そこな紳士から10枚です! さぁさ、いないか? 他にいないか!?」
10枚出すという老人の顔は引き
きっと老い先の短い枯人だ。
例え更新期間までの一年でも、十分に楽しめればいいという考えも明け透けに見える。
───ゲスめ。
そこを、クラムがよろよろと歩き、人々をかき分けると、
「────リズ?」
そう呟き、まるで幽鬼のようにステージに近づく。
あぁ、やっぱりだ。
リズ………。
リズがいた────。
「さぁさ、いないか? いないなら、もう決まるぞ! さぁ!」
司会の男がさらに値段を上げようと場を盛り上げようとするが、やはり高い……!
誰も彼も、欲しくないわけではないだろうが───あまりにも高い。高すぎる。
客が二の足を踏んでいる中、
「リズ……………………」
彼女の叔父────そして、囚人兵であるクラムがステージに一歩踏み入れた。
安っぽい板床がミシミシと音を立てる。
だが、クラムのあまりにも自然な歩みに誰もそれと気づかない。
「リズ……!」
なぁ?
なんでそこにいる?
……何があった?
なぁ?
ネリスは?
義母さんは……?
─────なぁ?
「リズぅぅぅ!」
「……ッ……!?」
虚空を見つめていたリズ。その目が──口が──少女が……。
僅かに、ほんの
焦点の合わない瞳に光が……。
「……ぁ」
───確かに、光が灯り、
「……ぉ……ん」
ほんの僅かに口が動き、クラムを見る。
「──リズ、リズ!! 俺だ! 俺だ!」
わかるよなリズ?
「クラムだ、……叔父ちゃんだぞッ!」
足がもつれて倒れるクラム。
ドサッ! ジャリぃぃいンと───盛大に鳴り響く鎖と足枷。
くそぉおお! 足枷が重い……もどかしい!
それでも!
リズの前まで、張って近づくクラム。
そして……。
「……ぉぃ……ぁん?」
リズの視線がクラムを捉える。
その瞳は濁り……───暗い闇に沈み、一見して……クラムを映してはいないが───!!
「ぉ……ぁ……あぁう」
確かに……。
そう、
瞳にクラムを映した───。
「リズ───────」
だがそこまでだった。
ステージに乗り込んで、しかも、盛大に鎖の音を鳴らして気付かれないわけがない。
「おい、なんだ?──邪魔だ、早く取り押さえろ!」
突然叫び出し、ステージに踏み込んできた男───クラムに、司会の男が気づく。
その顔は何事かと驚いていたが……存外冷静だ。
周りはと言えば、クラムの様子に会場の警備にいた男達が今さらながら動き始め、こん棒やサスマタを手に取り押さえようと近づいてきた。
「んー? あ、さてさて……えー! 金貨10枚! 金貨10枚だ!? 他にいないか? いないな!?」
さすがは闇市の奴隷市場の司会。
不測事態にも同様しないだけの肝をもっているらしい。
クラムに気付いていながら、半ば無視をする形で、司会の男は最後の最後で、何とか値段を釣り上げようとする。
しかし、
「は、離せ!! 離せごらぁぁぁ!!」
あっという間に制圧されたクラム。
だが、それで黙るはずもなく、
「リズ!!!! リズぅぅぅぅうううう!!」
司会がせっかく値段を上げようと頑張る中、その涙ぐましい努力を邪魔するのは、叫び続けるクラム。
手を伸ばし、やかましく叫ぶクラムに
だが、リズとクラムにはそんなことは関係ない……。
関係ない!!
リズは、今ようやくクラムを───。
クラムはここで初めて家族を──リズを!!
えぇい、
「取り押さえろ!」
業を煮やした増援の警備が飛び出し、わらわらクラムに取りつくと、ステージから引きずり降ろそうとする。
しかし、石に噛り付くように意地でも動かないクラム。
そこに、囚人兵達も到着し、警備の男と共にクラムを引き摺って行こうとする。
「この野郎!」
「おい! 行くぞっ」
「離れろって!」
乱暴に掴まれる肩や腕───!
だが、行ってなるものか。
離れてなるものか!!
二度と失ってたまるか!!
「がぁぁっぁぁ!! 離せぇぇぇ!!!」
リズが、
リズが!
リズがいるんだ!
「リぃぃぃぃぃぃぃぃぃズぅぅぅぅ!!!」
あああああああああああ!!!!
「金貨10枚! 金貨10枚で決───」
さ、
させるか!
「金貨15枚!!!」
クラムは懐にあった金と、
「あ! てめぇ!!」
後ろから抑え込んでいる元盗賊の囚人兵から、金の袋を奪い取り───
そいつは綺麗な放物線を描き、司会の足元に転がって行き、チャリンと言う音に反応した司会は、
「お……? 金貨……」
チラッと中身を確認した司会の男。
すると、
「出ました! 金貨15枚! 金貨15枚だぁぁ!!! いないか? 他にいないか??」
クラムの金額が通ったらしく、一気に値段の上がったリズ。
それを聞いて、金貨10枚出すといった老人は、渋い顔をして
性奴隷に金貨10枚というのは、彼にとってギリギリの金額だったのだろう。
暫く黙り込み、
「ま、他を当たるとしようかの──」
フルフルと首を振ると諦めたようだ。
「むーーー!!……いないか!? いないか!! いないな?!…………それでは、金貨15枚で決定ぇぇえ!」
────うぉぉぉぉぉぉ!!!!
猛烈な熱気と共に、会場が沸きたち───……。
リズはクラムによって、「性奴隷」として金貨15枚で落札された。
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