第53話「エプソMKー2」

「鎧?」


 クラムの感想が、その装備を表していた。

 ぶっちゃけ……そう言うしかない代物だ。


 透明なガラスの様な容器に入った……鎧。

 剣とかじゃなくて??


「鎧か───ふむ……ま、そういう使い方もあるな」


 魔王は鎧の前にある箱の前に立つと、ピコピコと音を立てながら何か作業を始める。


「───ポチっとな」


 ウィィィィン……ブシュー…………!!

 

 奇妙な音と主に、透明な容器が開き、同時に、パッ、パパパッと照明がつく───えらく明るい。


「外骨格スーツ……。元は医療用じゃが、既存の部品を排して完全にオーダーメイドの物を組み込んだものよ。うひひ、パワードスーツといえばわかるかの?」


 いやらしく笑いながら、ぺちぺちと鎧を撫でる魔王。


「───素材は超硬チタン合金。エンジンは四つ星社製の大型のもの換装した」


 ………はぁ?


「ただ、武装は現役の軍用は使えんからのー。しかたなく、一から新規設計と制作したものと、型落ちの軍払い下げやら、民生品を改良したものを組み込んでいるが……まぁ、」


 ニヤリと笑った魔王は、


「──コイツなら軍の同兵種の奴とも、互角以上に戦えるぞぃ」


 はぃ?????

 いや、ちょっと何をいってるか、全然わからん。


「あー、えー……。で? これがその……?」

「うむ。Ep-ssMKー2:bis───通称エプソマーク2じゃ、ワシはエプソというておる」


 エプソ───へー……。


「なんじゃ? そのぉ……『何それ? おいしいの?』みたいな顔しおって」


 ……いや、まさにそんな気持ちです、ハイ。


「カカカカカ、冗談じゃ。……いきなり言うても、お主等の世界の者にはわからんものよな」


 カーカッカッカと文字通り呵々大笑かかたいしょうし笑って見せる魔王。


 …………うん、なんだか凄く馬鹿にされてる気がする。


「そう怖い顔をするでない。こっちの世界とは技術レベルが根本的に違うからのぉ、理解できなくても無理はない」


 どーせ田舎者ですよ。


「で、じゃがの───」

 クルっと振りむく魔王は、一転して真剣な顔。


「コイツを使いこなすことできるのは、お主しかいないわけじゃが………」


 うん??

 これを俺が───?


 いやさ、重い鎧ってだけじゃないよね? 絶対……。


「コイツには高度なCPが組み込まれておるわけでの、扱うには脳と直結する必要がある。それ自体はちょっとしたインプラント手術で何とかなるんじゃが……」


 は?

 しゅ、手術……!?


 「まぁ、黙って聞け」と魔王。


「で、じゃ、通常の方法での直結ではこいつは扱えん。並の人間が扱うと───……その、なんだ。の、脳が焼け付く」


 ……ぱーどぅん?


「───はぁぁあ!?」


 よくわからんが。

 …………使ったら脳が燃えちゃうってことか?


 頭バーン! って!?


「う、うむ……。そ、そんな反応をするでない。じゃから説明しておるじゃろうが」


 魔王いわく、勇者に正面から対抗するために、この鎧に最大限の装備と能力を組み込んだらしい。


 クラムにもわかるように、一種の魔法の様なものだと言っているが……まぁ──。


 要するに、かなり無茶苦茶装備を盛り込み、ギンギラギンに魔改造を施した結果───!!


 …………普通の人間では扱えない代物になってしまったそうだ。


(いや、アホでしょ?)


 しかし、それくらいでないと『勇者』には正面から対抗できないという。


 ドラゴン(魔王は「無人機」と言ったが)での攻撃も制約が多いうえ───無人機自体が、かなり高価な代物らしい。


 おまけに、『勇者』相手に攻撃しても、無人機で確実な成果が出るかと言われれば、そうではないらい。


 ……先日の一件よろしく、精々が時間稼ぎにしか使えないという。


 まさに化け物。


 あのドラゴンですら、勇者には対抗できないという事実に驚愕する。

 

「───故にコイツの出番なわけじゃが……ま、使用者を選ぶという欠陥があるという始末じゃよ」


 コイツなら……単騎で、無人機を10機相手にしても対抗できるんじゃがのー。──とのたまう魔王。


 無人機……ってことは、あのドラゴン10匹より強いのか!?


「そ、そんなに強いのか?」

「当然じゃ、そのために作ったわけじゃしの」


 魔王が『勇者』を倒そうとする目的はよく変わらないが、かなり心血を注いでいる事実は分かった。


 しかしながら、それであっても、対抗は困難であるという。


「事情も……物の理解もできないのだが、」

「うぅむ……」


「───これを、俺だけが扱うことができるという理由はなんなんだ?」


 全然思いつかんし、理由もわからん。

 脳みそが焼けても───俺は生きてるとか思われてる?


 …………普通に死ぬ自信しかないぞ。


「言ったじゃろ? お主がエルフじゃからじゃよ」

「は?」


 魔王はやれやれ、仕方ない───といったふうに、

「……インプラント手術のほかにの、脳の強化手術ブーストセラピーをすればいいんじゃ」


 脳の、強化手術!?


「な、なんだよ、それは!」


 のけぞるクラムに対して、魔王は首をまくって見せる。


 白いうなじが見え、妙に艶めかしかった。


「──うなじ・・・じゃない。ここじゃここ……」

 チョイチョイと指さすところを見ると、皮膚が盛り上がり───。


「あ、穴?」


 ポカっと穴が開いてる。


「穴というか……。インプラント手術のそれ・・じゃよ」

 外部端子孔といってな───。ペーラペラ。


 ツラツラと話す魔王。

 その聞いた話は驚愕そのもの。


 なんということでしょう……!

 魔王軍の人たち、ほとんどがこういった手術をしているとか?


 脳の強化手術も別段珍しくもないという。


 ただ、


「エプソを扱う手術は特殊での……」


 ポリポリと頬を掻きつつ、

「この手術をした場合───」




 寿命が縮む───……。




 魔王は無表情で、………………そう言った。

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