第54話「強化手術」

「じゅ、寿命?」

「そうじゃ。……脳の処理速度を上げるわけじゃが───まぁ、ざっと100倍近くかのぉ」


 脳が100倍……って、100倍の頭の良さ?


「バカですか?」

「バカとはなんじゃ! バカとは!」


 ムキーと怒る魔王。

 ……いや、だってね。


「実際それくらいでないと、コイツは扱えん! そこまでしてようやく『勇者』を圧倒できるわけじゃ。……で、どうじゃ?」


 やるか? ん?


 と、そう聞いてくる魔王。

 なんか軽いね……。


 そんな、

 エビにする? カニにする? みたいなノリで聞くなよ!


 ───ま、そうと聞かれても、だ。

 ……もう決まっていること。




「やるさ」




 寿命が短くなろうが───そんなことは、どうでもいい。

 もう……どうでもいいことだ。


「ちなみに、どれくらい短くなる?」

「んー……20才の成人男性で───だいたい、一年ギリギリ生きられるくらいかの?」


 シュミレートしたんじゃぞ? と魔王。

 

「しゅみ……何とかがよくわからんが──……一年か」


 短いな…でも、


「やるさ……。一度死んだ身だ。家族を……───リズとルゥナを取り戻すためなら、なんだってやってやる」


(そして、勇者を殺せるなら……!)


「───他の3人のことはええのか?」


 えて名前を挙げなかった、義母さんとネリスとミナについて、突っ込んで聞いてくる魔王。


 ………………正直なところ───わからないとしか答えられない。


 ……殺意がないと言えば嘘になる。

 勇者の天幕であえぎまくっていた彼女らを思い出すと!!


 ……歯がバリリと音を立てた。


 どうも、凄まじい形相をしていたらしい。


 魔王がチラリと視線を寄越すと、

「んー…………。すまんかった、忘れろ」

「……いや、いいさ」


 いずれ決着をつけることだしな……。

 魔王のおかげでその道も見えそうだ。


「手術でもなんでもいい、やってやるさ……たとえ一年しか生きられなくとも───な」


 ペチンと鎧───エプソを叩き、そう言った。


「一年? 何を言っとる?」


 ……ん?


「寿命は短くなるんだろ?」

「そうじゃが……。お主には関係ないことじゃろ?」


 ん、……んん?


「どういう……?」

「エルフじゃと聞いて居るが……その、不老とも長命とも言う、あの───」


 いや、何言ってんだコイツ?


「───俺は人間だが? そりゃ、多少の血は混じっているが……多分、人間より──ほんの少し寿命が長いくらいだと思うぞ……?」


 それでも100年だとかは……生きられないだろうな。


「ン!? んん??」

 目をぱちくりする魔王。


 ……あれ? 何かおかしいぞ。


「お主の経歴は───」

「あー。多分それは、例の『教官』が細工した奴だろう」


 ……家族の経歴もないとか言っていたしな。


 『教官』のことだ。囚人兵として使うために、エルフということにして経歴を誤魔化しているはずだ。


 魔王が知った経歴はそれだろう。


「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待て!」

「??……なんだよ?」


 顔をひきつらせた魔王は、

「さ、さっきの話は、なしじゃ──」


 ……はぃ?


「さっきってのは……」

「強化手術のことじゃ!」


 ……え?

 いきなり、何を?


「───ああ!? じゃ、じゃあ……どうやってこいつを扱うんだ? そのままだと死ぬんだろ!?」

「じゃから! それ・・これ・・もなしじゃ!……言うたじゃろ、人道を重んずると!」


 そんな、死んでしまうことが・・・・・・・・・確定している手術・・・・・・・・はできん! とピシャリと言い切る魔王。


 どうやら───寿命が縮むのは確定だが……。長命のエルフなら耐えられるという、推測ないし結論があったらしい。


 そして、クラムはその対象りうると───。


「まさか、普通の人間じゃったとは……この話は忘れろ」




 おいおい……。

 おいおいおいおい……!!


 おいおいおいおいおい!!



 ───じょ、冗談じゃないぞ!!



「寿命なんて気にしないぞ? やってくれっ!」


 そうだ……!

 勇者テンガ……!───奴を殺すことができるなら…寿命など惜しくはない!!


「できん!! クドイぞ、この話は仕舞しまいじゃ!」


 出るぞ! と、クラムの背中をグイグイ押して、兵器廠から追い出されてしまった。

 抵抗はしたものの、存外強い力であっという間に摘まみ出されるクラム。


 「つれていけ!」と、クラムの案内を兵に任せると魔王はどこかへ行ってしまう───。




 おい……!


「おい!!」



 ふ、ふざけるなよ!?

 ふざけるなよ!

 

 ふ・ざ・け・る・な・よぉぉぉおおお!!



「ふっざけんじゃねぇぇえええ!!」



 対抗手段を見せておいて、それを手の出るところまで出しておいて───……!


 今更できないだと!

 人道だぁぁ? そんなの知るか!


 クラムの叫びなど、意にもかいせず去りく魔王……。


 その背中に万感の思いを込め叫ぶ。


 叫ぶ!!


 俺を、

 俺を、

 俺を切り裂けよ!

 頭蓋を割ってぇぇぇええ、中身を掻き回せよ!!



 命なんていらない。

 体もいらない。

 心もいらない。


 

 ───寿命をくれてやる!



 だから、


 だから、勇者を殺させろよ!


「───なぁ! 魔王!!」



 しかし、魔王は振り返らない。

 兵に引き摺られて、魔王と遠ざかりつつあるクラム。



 待て、

 待てよ……!


 待てよぉぉ……!!



 ま、


「───魔王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ぉぉぉおおお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!




 ───魔王の背中にクラムは慟哭どうこくする───。

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