第9章「この素晴らしき『ざまぁ』に祝福を……」
第112話「鬼の中」
『
『クラムか!? どこにおる??』『叔父さん! どこぉぉぉぉ!』
『教官』との戦闘に集中するため、あえて音声を切っていただけのだが、あまりにも反応がないため、魔王とリズが心配していたらしい。
これほど心配されるほどとは思えないが、もしかすると位置信号が受信できないのかもしれない。
縦坑ゆえか、或いは飛行船とクラムが接しているためか?
──理由は分からないが、いずれにしても、
「魔王、リズ? こっちは無事だ。今、飛行船に取りついた!」
『おお、無事か!? ……心配させるな!』『叔父さぁぁん!』
本気で心配していそうな顔で魔王は言う。リズに至っては泣きじゃくっている。
「取りついたはいいが、ろく武器はないし……噴射剤も尽きかけだ」
『うむ……状況は把握した。ついでにこっちからも情報があるぞ。……お主にとっては悪い話でも──いい話でもあるのだが…………』
そういい置き、魔王は一旦区切ると、
『
ほう、つまり──テンガはまだ、飛行船の上部の開放デッキにいるということか。
『じゃが、奴がいたとて───今は
撃墜はそれから、だ──と。
(……何を悠長なことを────)
「魔王よぉ……あれだろ? この施設の自爆ってのは…───お前らでいうところの、」
そう、魔王は言った。
融合炉を暴走させた自爆だと……。
「───核爆発って奴だろ」
『む……』
…………押し黙ってしまった魔王。
なまじクラムが魔王軍で即席教育を受けただけあって、もちろん核の知識も持っていた。
核
魔王軍の教育の際に何度も出てきた禁じ手……。
世界を焼き滅ぼす悪魔の炎。
───それが、核爆発。
『ク、クラム……』
「だからせかっくだ。テメェらの爆撃やら空襲よりも───」
ッ?!
『ま、さか……』
そうだ……バンカーバスターを食らわせたり、空中空母からの砲撃で上空で撃墜しても『勇者』は死なない。
なにせ、奴は不死身だ。
……だが、倒せるとしたら、ここのこの場所だけ。
おあつらえ向きに、このままクラム諸共、撃墜してしまえば地下へと逆戻りしてくれる。
そして、トドメとして施設が核爆発で消滅すれば……あーらなんということでしょう、巨大な墓所の完成だ!!
ついでに核の炎で焼かれて、それは土砂で埋まるよりも酷いことになるに違いない。
……だから、さ。
わかるだろ? 空襲するよりも撃墜するよりも、
「──このほうが確実だ」
そう言い切ったクラムに、魔王は二の句を告げられないでいる。
『だ、ダメだよ叔父さん!』
「リズ……」
『帰って……帰ってきてくれるんでしょ!?』
リズの悲痛な顔をみて、胸がチクリと痛む。
思わず、「あぁ」と頷きそうになる。
だが、
「…………………………すまん」
できない。
……すまん、リズ────。
これだけは、これだけは譲れないんだ、リズ。
俺の全てはお前にやる……そう決めた。
だけど、な。
だけど──、なんだよ……リズ。
それはさ、
そして、今
お前のことは───そのあとなんだ。
すまん、リズ。
「魔王、頼む───……噴射剤が尽きる。その後は残った火器でコイツを沈めにゃならん。だから、こいつの弱点を教えてくれ」
『……………できんっ』
魔王軍なら間違いなくこの飛行船を適格に撃墜する術……または急所を知っているはずだ。
一見すればエンジンを破壊すればいいようにも思えるが、この飛行船のエンジンの数を考えると、一基や二基破壊したとしも、たちどころに撃墜とまではいかないだろう。
「魔王───……
『できん! できん! できんできんできんできんっ、出来んと言うておる!』
頼む……!
「頼むよ───……
『ッ!! ぐぅ…』
バリッ! と、スピーカーを通して異音が聞こえる。
見れば魔王の口から──ツーと、一筋の血が……。
彼女とて葛藤してるのだろう。千載一遇のチャンスだと理解しているはずだ。
『……いいだろう』
『ええ?! ま、魔王さん!?』
ほッと息をつくクラム。
ようやく魔王が折れてくれたらしい。
『じゃが、一つ約束せよ』
「……なにぃ?」
瞑目した魔王は、ふぅと息をつくと一気に言った。
『必ず!! 必ず生還せよ!! 生きるのを諦めるな!! そいつを撃墜してもまだチャンスはある!! じゃから、……だから、帰ってこい! クラァッァァアアム!!』
くくくくく。人道か───。
「
クラムの笑顔をどう魔王が判断したかは知らない。
了解の返事にどれほど納得したかも不明だ。
だが、魔王はそれで深く頷いた───。
そして、
『──…………………弱点と言えるのは、3カ所』『魔王──さん!?』
ポツリ、
『一つ目は、下部の戦闘艦橋。……二つ目は、上記開放デッキ上の航海艦橋じゃ──』
驚愕し、非難しているリズを無視して魔王はポツリポツリと語る。
『艦橋には船を動かす頭脳たるコンピューターが集積されてしておる。どちらをやられても航行には支障が出る……』
「三つ目は?」
『船のメインエンジンじゃ。……飛行船内部の中心に位置しておる。──そいつの構造は単純でのーメインエンジンそのものを、浮力を得るための区画が覆って居る形じゃ。内部に入りさえすれば、壁一枚内側はどこもそこに繋がって居る……』
ビュイン───と、バイザーに飛行船の構造がと飛行船の内部MAPが送信されてくる。
メイン構造は硬式飛行船という奴らしい。
「ありがとう……
『ふん……全部タダの独り言じゃ。───よし、クラムよ、我々は上空で待機しておる、空中でピックアップするからの、吊り下げられたフックをつかみ取れ!』
……ああ、そうだな。
「わけないさ───」
ドゥ───と、残り僅かな噴射剤を駆使して、飛行船に体当たりを敢行する。
装甲板の何カ所かは剥がれ落ちており、内部がむき出しになっているため、そこを目掛けて飛び、ガシャアアン! と軟着陸した。
その後、素早く態勢を立て直しサイドアームのガバメント改と、ヒートナイフを抜き出すとそれぞれの手に構える。
内部には100人の
地下での戦闘を、王太子直属部隊に一任していたので損害らしい損害は負っていないだろう。
性能はダンチとは言え、数の上では明らかに奴らが有利だ。
ならば、遭遇する前にメインエンジンを破壊するに限る。
チラリとバイザー内のタイマーを確認すると、1分を切りそうになっていた。
あとどのくらいで地上に出るかは知らないが、それまでに撃墜しないと『勇者』は地上で復活する……それは最悪の事態だ。
ピコン♪ と、通知アラームがなり、
パパパッ! と簡易バイザーにルートが表示される。
これは、
「──魔王……か」
歩き出そうとしたクラムの目の前───バイザー画面に、最適ルートと思われる道が照らし出されていた。
この場において、最適と思われれる
「すまん……」
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