第111話「花丸」

 ブシュウウ……と白煙が立ち昇り、奴の顔がみるみる修復していく。

 オマケに……なんだ、と!?


「これが聖女の血か──、一時的にとは言え……怪我くらいなら立ちどころに再生してしまうみたいだな!」

 血だらけの顔と、

 なんともぎとった腕さえも、アっという間に回復していく。


 なんだそれは───。

 まるで自動修復機能オートリペアの人体verだ。


「ここまで送ってくれてありがとう! あとは『勇者』に───」


 まだ媚びを売るってか!?

 ……呆れた野郎だ。


「今すぐ地獄に………………!」


 っと、

 …………そう言えば、

「てめぇはクソ野郎だが……2個ほど借りがあったか?」

「借りだぁ? そう思うんならさっさと放せ! 俺を誰だと思ってる!!」


 そうだ。

 そうだった……。


「危うく忘れるところだったぜ。『教・官』どの」


 もちろん『教官』の死刑は決定。

 だが……恩義・・に報いて、特赦とくしゃを与えてやらないとな───!!


「……せめて、サクッと殺してやるよ」

 イッパやモチベェの時の様になぶる必要はない。

 義理堅く、借りは返しておこう。


 そう……借りの一個目は、

「死刑囚の身分から───」


 あの寒い日々……。

 延々と歩かされた日々……。

 囚人と魔族の血と臓物に溺れそうになった日々……。


「───最前線の兵士肉壁に引き上げてくれてありがとう!」

「んんな?!」


 ロケットブースターはまだ持つ。

 空に浮かんだままクラムは、『教官』を引っ掴むと、艦橋の下部から引きずり出し───!


 顔を近づけて宣言。


  「多分、いてぇ」(──と思う。)


 そう言い切ると、

 すぐ近くでギュンギュンと恐ろしい速さで回転している推進用プロペラに向かって飛び───……バチィィィン!! と、プロペラの中心軸・・・に『教官』を叩きつける。


「ぐが!! いでででででででで───!」


 ガリリリリリリと、ドリルの様に回転する中心軸(羽の部分ではない。)に旧エプソの装甲を撫でられつつも、


「こ、こんなものでは死なんぞ!」と、強がりを忘れない。

 はは───。

「そこじゃねぇよ……」


 そっちだよ、と。目で教官の意識を誘導してやる。

 中心軸から放射状に伸びる高速回転しているプロペラを見れば………………。

「んな?! ま、まさか───」


 ギュンギュンギュンギュン!!


 飛行船に馴染みのない、この世界の住人の『教官』とて、それ・・がいかに危険な代物しろものか分かったはずだ。

 それはギロチンの刃の如く……そう、中心軸ではなく……その外側。ギュン、ギュン、ギュン、と回転する翅の部分だ。


 サァァァッと顔を青くする『教官』。


「よ……よせっ!」

「よせ、……だぁ?」



 そうだ……その顔だよ───。



 お前が散々踏みにじってきた人達……囚人兵の気持ちが分かるか?

 戦場の先頭に立たされた挙句、目に見える死に緩慢に向かい合わされる気持ちが───!


 ぐぐぐ……っと、顔を押さえ付けて、その回転に近づけていく。


「どうだ……。自分の脳みそを見て見たくないか? そのお花畑満載の脳みそを、よぉぉぉ!」

 腕は回復し、その他の傷も回復しているらしい『教官』だが、単純に旧エプソではエプソMK-2のパワーに勝てない。


「ふざっけ───」


 ふざけてないぜ?

 なんせ俺は見たことがある・・・・・・・からな、


自分の脳みそを見れる・・・・・・・・・・機会なんて早々ないぜー!」


 もっとも……──それは最っっ悪の気分だけどな!!


「あ、そうそう、」

 そんでもって……二個目の借りは───。


「リズ───……あの子に免じて、」

「よせ、やめろ!! お、俺は命の恩人だろぅがぁぁぁああ!」


 はは!!

 寝言は寝ていえ───。



「じゃああああ! 二個目の借りがあるだろうがぁっぁああああ!」



 そうだな──────だが死ねっっっ!



(そうだ……あの日、)

 奴隷市場で買ったリズのことを目こぼししてくれたっけな。


 ありゃぁ……助かったよ。……本当に助かった。


 だけど。

 ───結局、その後連れ去っていったけどな───!!


 だから………………プラスマイナスで、ゼロ。


 ゼロ…………?


 …………ふっ。


 ……。



 ……………………兆倍で──マイナスだよぉぉぉぉ!!!




「ぶちまけろぉォぉ!!」

 ロケットブースター全開!!


 背後からブースターを噴射し、『教官』をプロペラに押し付けていく。


「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 当然全力で抗う『教官』。


 『勇者』が座乗する飛行船を前にして、何でこんな雑魚と戦っているんだという気持ちもなくはないが───。


「ケリはぁぁぁ───つける!!」


 こいつが望んだことでもある。

 ならば付き合うことにはやぶさかではない!


 だか、『教官』とて、黙ってやられるたまではない。


 押し返しつつ───叫ぶ!!



 しゅうううう

 じんんんんん

 へいぃぃぃぃ


「……舐めるなと言ったぁぁぁっぁ!!」


 『教官』が片手でクラムを押し返しながらも、開いた手で腰に手を伸ばす。


 そこに、奴の切り札が!?



 ───パン、パン、パンパンパンッ!!



「って、そりゃ銃……か?」


 …………はっ!

 わははははは!


 どっかで回収した魔王軍の武器らしいがよぉ。

「───エプソMK-2にそんな豆鉄砲が効くかぁぁぁあ!!」


 『教官』が抜き出した9mm拳銃弾を吐き出す小さな銃をみても、クラムは全く動じなかった。

 そんなもので貫通けるほどやわな装甲ではない!


「だったらぁぁぁ、耐えて見せろぉぉぉぉ!!」


 『教官』も怯まない。

 さらに腰から抜き出した短機関銃を構えると、拳銃と合わせて二丁をクラムに指向する。


 たどたどしい・・・・・・手つきながらも、安全装置を外すとためらわずにゼロ距離射撃───!


「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


 パンパンパンパンパンパンパン!!

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!


 ガキュン、ガンガン連続して命中する9mm弾にバイザー内の警告表示が真っ赤に染まり、銃撃を受けていることをご丁寧に教えてくれていた。


 ビービー!! と警告表示───!


『黙ってろ!』


 内部スピーカーに怒鳴るも、エプソからすれば当然のことだ。

 いくら貫通かんつうしないと言っても衝撃が消せるわけでもなく、

 一応、衝撃緩衝装置こそ付いているが、こうも連続でゼロ距離で撃たれまくって──全く支障なし! とはいかないらしい。


 ピーピーピー! と、許容限界の警告装置がうるさく鳴り響き、いくつかのバイザー画面にヒビが入る。

 そのヒビに重なる場所には、自爆のタイマーが延々と秒数を減らし続けており、残りは2分を切っている。


 そして、未だ飛行船は上昇中だった。


 そんな飛行船の様子など露知らぬクラムと『教官』は未だ空中で取っ組み合いをしている。

 そして、連続発射で真っ赤に焼けた銃身から白煙が上るころには───!!


「どうだ!!!」


 自信と勝利を確信した教官の雄叫び!

 シュウウウ……と、息を吐くように白煙棚引たなびく銃口。そこからは弾が出ることは、もう二度とないだろう。


 だが、


「──…………は! もう終わりか?」


 ジジッ……と、少し火花の奔る音をたてたエプソMK-2。

 流石に至近距離では、多少の損害を及ぼしたらしいが……総合的な機能には支障なし。


「ば、ばかな!」


 ポロりと取り落とした銃。

 それはクラムの体に当たり、『教官』のつま先で弾かれて───……暗い暗い地下の底へと降っていった。


 …………。


 ……。


今度はコッチの番だ倍っっ返し、だ!!」


 ダン! と、『教官』を押さえつけると、ブースターに突進力をいかしたまま、


「そういや、その顔をよぉぉぉぉぉ、」


 ミシミシと軋む両者の腕────……。



「一回ぶん殴ってやりたかったぜ!!」



 格闘装備の12.7mmジャブ。コイツをお見舞いしてやるぜ!


 おらぁぁ、

「いっぱぁぁぁぁっ!」

 ズガァァン! 


 ボキィ! と頸椎のへし折れる音と、顔面の陥没する音。


「ぶほ……」

 しかし、ルゥナの血の効果か、たちどころに回復していく傷。

 陥没した顔面が内部から盛り上がり、へし折れた首もグネグネと動き元に戻る。


「ホントに聖女だったんだな……ルゥナ」

「い……いでぇ……」

 ゴホッと血を吐く『教官』回復してもルゥナの血の効果は消えてなくなるわけではない。


「あーすまん……一回だけぶん殴るつもりだったけど───」


 …………。


 ……我慢できねぇわ。


 だから、全部ブチかましてやるよぉぉぉお!!


「ちょ、ま!」

「にはあぁぁっぁぁぁつ」


 ズガァン!


「さんぱぁぁぁぁっぁツ」


 ズガァァン!!


「た~~~~くさんだぁぁぁっぁ」


 ズガァン、ズガァン、ズガァン、ズガズガズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッガガァン!!!


 殴る、直る、殴る、直る、殴る、直る、殴る、直る───これを繰り返すうちに段々を口数が少なくなっていき、抵抗もなくなり始めた。


 まだまだ!


「脳みそぉぉぉぉ、ぶち晒せぇぇぇ!!」

 

 ゴキン、ゴキン、ゴキンッ!!


 もはや途中で、12.7mmジャブ用の空砲がなくなっていたらしく、強力なジャブは放てなくなっていたが、『教官』は「あばあば」と言うのみでロクに反応しない。


 そして、

 少しずつ少しずつ……。


 ギュン、ギュン──、

「言ったぞ……いてぇぞ──。ってな」……プロペラに──!


 当て──……グッシャ!


「ぎゃぼ?!」


 ビクン! と跳ねた教官の身体。

 抵抗の薄くなった教官は殴られるままに頭を後ろへ───……そして、グチャ! と、高速回転するプロペラに頭の一部が掻き攫われて消えていった。



 残す頭の残骸も全部プロペラに押し付けていく。


 グッシャ。グッシャ……。


「けぺぺぺぺ…!?」


 段々と削られていく頭部。プロペラには脳漿がこびりつきその部分だけ赤く染まり回転力も相まって赤丸を大きく空に描いているようにも見えた。


 普通なら即死だが、流石は聖女ルゥナの血の恩恵か……未だ強力な回復力を『教官』に与えているらしい。

 だが、中途半端に回復しても一度プロペラに巻き込まれてしまえば、もう逃れるすべはない。


 ドロー……と、血なのか骨片なのか脳漿なのか分からない何かが無茶苦茶に飛び散っている。

 それがプロペラの先端にへばりついているものだから───。


 グルグルとまわる回転による錯覚で、


 ははは、

「──『教官』らしく、……赤丸だってよ!」


 ブシュと、プロペラによる一撃、それは最後の一掻きで顔面の全てをかっさらっていき、教官は「ぇぺ……」と言い残してくたばった・・・・・


 なまじ回復するだけに即死できなかったようだ。

 だが、さすがに頭部は回復はしないらしい。首なし死体がだらしなく体を弛緩させるのみ。


「じゃー……最後は、」


 ロケットブースターもそろそろ限界らしい、プスンプスンと、咳き込んでいる。


「赤丸からの───花丸だ!!」


 ズガァァッァン! とブースターの突進力と、体をひねる遠心力を加えた廻し蹴りを教官の体に見舞う────!!


 

 ガ───ガッガガガ…………ブシャアアアア!!



 と、旧エプソの装甲すらズッタズタに切り裂いて、最後には中に詰まっていた『教官』の体をミンチにしてぶちまけた。

 それは回転するプロペラによって円を描くと、赤丸からの───飛び散った肉片による花。


 それはそれは見事な汚い花丸が咲き誇った。


「は! 汚ねぇ、採点結果だぜ……」







 なぁ『教官』どの───。

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