第101話「警鐘───」

 おいおい……。


「そりゃ、お前らの落ち度だろうが!」

『分かっておるっ! じゃから、空爆のため上空で待機しておる! おるが……最悪、お主の手伝いが必要になるかもしれん』


 はぁ?


「脱出の機会はどうする!?」

『むろん! 可能性は考慮しておる! じゃが、『勇者』どもが活発に活動しておる中、RLCVポチだけではハッチの解放は無理かもしれん』


 まさか、それを───?!


「お、俺にやれってか!? 爆弾を落とす穴を自分から開けろっていうのかよ! じょ、」

 ──冗談じゃないっ!

『それは、最悪のパターンじゃ! 今は施設内の敵の殲滅を考えい!……そうさな、まずはエプソの修復までの時間を稼げ』


 くそ……!


 そりゃ、『勇者』と相打ちをしろってか?


 それは、

 それは、

 それは・・・、たしかに本望ではあるが……!


 だけどそれだけじゃないんだ!……今はッ!!


 今の俺には、リズがいる。

 そして、リズのためにも、俺は勇者を圧倒して、

 ……リズと一緒に「ざまぁ見ろ!」って言わないと気が済まないんだよ!


 そう決めたんだ、残りの命はリズに───家族に、最後の家族に尽くすためのもの、と……。


 それは断じて、『勇者』と土砂の布団で眠るためじゃない……!!


 それに…ネリスや…───義母さんのこともある。


 彼女らのことは、まだ、

 まだ───なにもケリはついていないからなっ!!



「くぅ……。わかった。──こ、了解コピー!!」


 個々の中はさておき、それでも、ダンッと踏み込み、兵器廠を飛び出すクラム。


 素早く、センサーで走査開始、


 …………どこだ?

 周辺には『勇者』どもの気配はない。


 かわりに───生体反応が……1。これはネリスか。


「ネリス! こい!」

「く、クラム?? な、なにが……」


 兵器廠から吹き出す煙に、息が苦しそうにしながらネリスが出てきた。

 うまく隠れていたようだな。


「ここから離れるっ! 掴まってろ!」


 ネリスの歩みに合わせている暇はない。


 ネリスが躊躇とまどいつつも、オズオズと掴まってくるのを確認すると、

 一応は動く左手で彼女を抱え込む。


「きゃ!」

「しゃべるな! 舌を噛むぞ───」


 一気に、行くっ!


 狭い屋内でブーストジャンプするわけにもいかないので、全力疾走あるのみだ。

 床に積もった埃の状態で逃走先がバレるかもと思ったが、幸いにも『勇者』どもが団体で通ったおかげで床はドロドロになっている。


 なるべく遭遇したくないが、魔王の話しぶりから察するに、『勇者』どもはエレベーターのある大型資材運搬用口に向かってる気がする。


 実際、床の足跡はそっちに続いていた。


『叔父さん! RLCVポチが大型ハッチの開放準備中! ……で、でも───アイツ・・・がいる!』


 くそ! やはり、そこかぁぁぁ!!


『クラム、こっちにはまだ来るな! 身を隠せっ!』

「わかってる! そっちは問題ないか!?」

『……むろん、バレればひとたまりもない。自衛火器だけでは時間稼ぎもできんじゃろうな』


 ……やっかいだな───。


『むぅぅ……!』


 魔王の焦り声、

 もう何度目になるか……。


『や、やはりこいつ・・・が目的か! くそう、……朽ち果てていればいいものを!!』


 なんだ?


「おい、どうした!?」

『……むぅ。ま、まだ、お主には話せん! 今は回復に努めよっ』


 そう言うと魔王は口を噤んでしまう。


 くそ!!……隠し事が過ぎるぞ!

 全然、予定通りに戦えないじゃないか!!


『──くそ、ブツブツ……。さ、最悪の事態じゃ……なぜ、アレがこいつら・・・・に扱える? 『勇者』の知識とて、これは動かすこともできんはずじゃ……』


 ブツブツと零す魔王。

 しかし、肝心な情報は何もない。


『兵器廠の状態から、勇者が得たのは旧エプソが100……それに、研究資材がいくつか。……ま、まずいそ……これはマズイ』


 魔王め……いい加減にしろっ。

 さっきから、全部お前らの落ち度に見えて来たぞ?


「帰ったら覚悟しとけよ!」

「ひぃ!」


 お前じゃねえよ! ネリス!


『わかっておる……話せるとこまでは話してやる…───』


 は! 期待しないで待ってるぞ!

 

 既視感を感じる通路を駆け抜けるクラム。

 床に残る足跡のあとを辿る様に…かつ、『勇者』がいるという大型資材搬入口へは向かわないようにして───だ。


 幸いにも足跡はいくつもの分岐にわかれている。

 一直線に大型資材搬入口に向かったわけではないらしい。


「この先は───」

 そうだ、魔王軍のエーベルンシュタットなら、確かこの先は…………。


『む!? おい、クラム! そ、その先へは───』


 突然焦りだす魔王。だが、とくに反対される理由もない。

 ここはクラムでも踏み込める区画で……。


 

 脳の強化手術を行った脳みそを弄った場所。

 ロボトミー実験棟……。



 自動医療器械オートメディックがある場所だ。


(なんだ、この胸がざわつく感じ……)


 既視感を感じるその場所───。

 だが、懐かしさなどかけらもわかない、それ。


 むしろ……。

 むしろ───。


(これは、なんだ??)


 脳裏にチリチリとしたものを感じる。


 壁にあてた手がかすかな振動を拾っている。


 空調……。

 PCのたてる低周波……。


(お、おいおい、なんでここに電力が通っているんだよ?)


 この廃墟同然の施設で……よりにもよって、なぜここが稼働している?

 勇者たちには絶対必要なんてないだろう?


 なのに、

 なぜ人が踏み込んだ形跡がある?


 なぜ……──なぜ、クラムのここに脳は警鐘を与えている?




 なぜ、



 な・ぜ……。



        ───ル、



 足が……。

 動く───。


 誰かが、

 呼んでいる気が────────────…………。




『……よ、止せ、クラムぁぁぁぁ! その先を見るなぁぁぁあ───』



 魔王の絶叫がバイザー越しに響いていた。


 だが、それだけ。

 それがどうした……?



    ───ルゥ……。



(……ルゥナ??)


「ルゥナ……?」



 ルゥナ?!


「く、クラム……?」


 ネリスの顔など見もせずに、クラムはエプソを駆けさせる。

 最大出力。

 エネルギー全開ッッ!!


「──ルゥゥゥナぁぁぁあああ?!」


 カンカンカン……と、飛ぶようにして鋼鉄製の階段を降り……き出しの壁をなぞる様に地階ちかいへ。





 そして解放されている、その部屋へ───……踏み込、む。

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