第100話「旧エプソ VS エプソMK-2」

 ───敵を殲滅しろぉぉ!


 魔王も激高している。

 相当に予想外の事態なのだろう。


 旧エプソが一体程度ならともかく……群れなして襲ってくるとは!


「ちくしょうがぁぁああ! やってやるよぉぉぁぁあ」


 じゃきんっ!! クソ思いグレネードをパワーアシストで構えると、


 ──ボン、ボン、ボンボンボンッ!!


 一挙、25mmグレネードの連続射撃だ。

 40mmグレネード程ではないにしても、爆発による破壊を主目的としたグレネード弾。

 威力は絶大で、生身の人間ならひとたまりもない。


 それが。ヒュルル~と飛翔して、ズガンズガン! と着弾っ!


 爆炎とともに、

 「ぎゃあああああ!」と悲鳴が上がる。


 ダダダダダダダッ! と、対抗射撃として9mm弾の連射が撃ち返されてくるが、コケ脅しにもならない。


『袋のネズミじゃ! 全弾ぶち込んでやれ!』

「おうとも!」


 死ね───。


 ボン、ボン、ボンボンボボボボボボボボボボボボボボン!!



 ガランゴン、と大粒の薬莢が排出され連続発射で銃身が真っ赤に焼けていた。

 そして、弾倉を捨てた頃には、


 ズドォォォォォォォン! と大爆発。

 ───ブワワー! と熱風が押し寄せてきた。


 はっ!! 見たかっ!


「これが魔王軍の戦いだっ!」

 ……そんな時代遅れの戦いで勝てるかよぉぉ──。


 バイザー内に表示された残存兵力は10程に減っている。

 さすがに全滅には至らないか……くそ。

 旧エプソ───想像以上に厄介やっかいだな!


「接近してとどめを刺す!」

『気を付けろ! 袋のネズミ……窮鼠きゅうそ猫を噛むというからな!』


 面白い言い回しだ。


了解コピー


 右手に銃を。

 左手に刀を。


 さぁ来い……王太子、いや───『教官』!

 お前の自慢の王太子直属とやらはとんだ雑魚だな。


 たが、


 だが、お前は違う。


 ……榴弾でくたばるようなタマじゃないだろ───!?


「げほげほ……」

 接近するクラムの前に、硝煙に炙られて出てきたエプソがヨロヨロと………───死ね。


 スパァンと、一刀のもとに切り伏せる。


 そして、次々に出てくる敗残兵ども。

 生きてはいるものの、もはや戦意は失せている。これじゃかも射ちだな。


 薄暗い兵器廠の中では、爆炎のせいでロクに見通しも聞かないのだろう。対してエプソMK-2はその辺の装備は完全だ。

 爆炎を吸う必要もなければ、暗闇でも見通す神の視座───!


「舐めるなぁ! 囚人兵ぃぃぃ!!」


 ブワァァァ! と爆炎を抜けてきたのは───やはり『教官』!

 そうだ……コイツは確か…!


「近づけばこっちのものぉぉぉ!!」


 モーニングスターが二つ上下にくっ付いた様な妙な武器を構えて突進する。

 はっ! 鴨撃ちだぜ!


 煙のベールに覆われていても、熱感知が可能なエプソMK-2───。


 性能が段違………、んなぁ!?


 ボフォォ…と煙を破って出てきた影は複数!?

 兵を盾に───!?


「ぐぉ!」

 ドゥン! と16mmグレネードをぶち込むが、一手遅い!


「おらぁぁぁ!」

 獣のごとき蛮声を張り上げる『教官』。常人なら持てないような重量級武器でも、旧エプソなら扱える。

 そして、その有り余るパワーと遠心力を使った一撃が!


 くそっ!


 ズガァァァン! と爆発でも起きたような凄まじい音。

 咄嗟とっさ高振動ハイバイブレーションブレードで防いだつもりでも、───勢いが殺せない!!



 グシャ…と、嫌な音が響いたのを見れば……左手の装甲が大きく凹み───。



「ぐああああああああ!!」

『クラムぁぁ!!』『叔父さん!!』


 装甲を通して骨が変形する音を聞いた気がした。


 姿勢制御が働かなければそのまま吹っ飛ばされていたかもしれない! ……だが、それは『教官』も織り込み済みらしく───追撃!


 追撃、追撃、追撃!!


 ブンブンと振り回される特殊モーニングスターに、9mmマシンガンの牽制射! 装甲は抜けなくとも、行動の阻害はできるということ──ダダダダダダダン! と連射の先は、はショットガンを狙っている。


 使いこなすというほどではないが───こいつ、やはり白兵戦に慣れている!?


 イッパと同じくらいか、

 いや……、それ以上の使い手か!?


「は!! ひ弱な上官だと思ったか囚人んんん!!」

「ぐぅ!」


 『教官』の格闘能力は以前、垣間見たものの───……これで王族だと!?


「お前のせいで、王国は終わりだ! 終わっちまったよ! だから、死ね! 死ね! 死んで詫びろぉぉぉぉ!!」


 大振りの一撃が来る!


 かわそうと下がった背中に、煙に巻かれて逃げ出した近衛兵が!?

 邪魔だ!……退けぇぇ!


 損傷した左手を庇うことなく、肘でソイツの顔を覆うようにヘッドロックし、力任せにぶん回す!

 グルんと回転した兵と無理やり位置をスイッチした。


 酷く腕が傷んだが、腐っても元は医療機器のエプソ───直結しているインプラントからなにやらヤバイ薬が注入されたらしく、一瞬で痛みが消えていく。


『クラム! 距離をとれっ!!! そいつに接近戦は不利じゃ───』

「無茶、言う、な!」


 入れ替わったとたんに、兵の頭がゴッパアァァンと弾け飛ぶ強力な一撃。

 味方を殺したと知った『教官』だが、特に気にしたそぶりもない。


『っっ! スタングレネードを使え! 旧エプソにそいつを防ぐ手段はない!』


 す、スタン……どこだ!


「……手が使えねぇぇ!!」

『武器を捨てろぉォぉォ!』


 左手がいかれている事を忘れて、腰を探るが掴めない。そりゃああそうだ!


「ああああああああああああ!!」

 くそぉぉぉぉ!!


「ちょこまかとぉぉぉ! 逃げるなぁぁぁ!!」


 とどめだぁと言わんばかりの一撃。ショットガンをブチかもそうにも体勢が……悪いっ!




 んんんん、なぁぁああらぁぁぁあばぁぁっぁ!!


「ガチンコでやってやらぁぁ!!」


 ショットガンを握ったまま、

 『教官』の振り下ろした特殊モーニングスターにぃぃぃ───。




 40mmストレート!!




 ズドォンと、大音響と神速の右ストレート!

 握りしめたエプソMK-2の拳は戦車を除くほとんどの装甲すら撃ち抜く威力と硬度!!


 ッッッッガギィィィィイン!!!!!!


 と凄まじい破壊音と火花が散る!

 メキメキとショットガンのグリップが歪んでいく。そして……!


「ぎゃあああああああ!!!!」


 ボキィとへし折れたのはモーニングスターとそれを持つ『教官』の腕。

 いくらエプソを纏っていても旧式でパワーアシスト程度のソレでは、衝撃の吸収までは想定されていないだろう!


 実質、旧エプソのパワーアシストと遠心力、さらにモーニングスターの重量が加わっている。

 そこに40mmストレートのパワーが中間で激突し、両方に衝撃が跳ね返った。


 当然のこと…クラムの纏うエプソMK-2にもそれは伝わり───……。


 ビービービー!!!


「関節部損傷!? 衝撃限界値? ………か、稼働制限だとぉ!?」

『馬鹿者! 両手損傷じゃ!! そこから逃げろっ!』


 痛みはないものの、右手の動きが───鈍い…!

 左手は既に自動修復機能オートリペアが働いているが、腕そのものが損傷。使えなくはないが痺れが残っている。


「ぎゃああああああ!!! ああああああ!!!」


 だが、『教官』も動けない。

 エプソの通気口からドクドクと血が溢れている所を見ると、解放骨折くらいはいってるかもしれない。何れにしてもどちらも戦闘不能だ。

 だが、片手が無事な『教官』と残存する兵がいる状態では、

 現状クラムの方が不利だ。


 ……。

 

 …ち、


「後退する!」


 ショットガンをコンテナに放り込むと、身軽な状態で一気にバックステップ。

 ブーストが噴き上げた埃がさらに『教官』達の視界を悪くして、逃げるクラムを援護した。


 煙の奥で盛大に咳き込んでいる気配が伝わる。

 あの状態なら追撃はできまい。


 装備が万端なら何でもないはずが……クソ! 判断ミスだ。

 この状態で『勇者』に遭遇したら、ことだぞ……


『今は身を隠せ! こっちもまだルートの開拓中だ───リズ替われ』


 撤退か……クソ。


「一度補給に戻るか?」

『ダメじゃ! ……スマンがその時間はなさそうじゃ』


   ??


「何の話だ?」

『旧エプソが起動しておるという事は……この施設の遺失物は全て稼動する可能性がある…………『勇者』の手に渡るとマズイ!』




 ……。


 おいおい……。






 他に何を隠してやがる───?!

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