第115話「最期の一線」
……ラスト一個の手榴弾。
後生大事に降下後から持っていてよかった。
安全ピンを
その信管を遅延モードにすると、目立たない位置に設置してこの部屋を飛び出した。
その背後では、テンガが未だにバタバタと暴れているが……おそらく回復も早いはずだ。
傷とは違い、精神に直撃するような
いや────。
もう関係ないな。
手榴弾の設置は奴に勘づかれていない。
だからあとはその爆発を待つだけだ。
心中するつもりだったが、その必要もなさそうだ。
クソ野郎は一人で死ね!!
心残りはルゥナの心臓だが──こればっかりは……諦めるしかない。
だが、その替わりに奴を仕留められる。
奴を殺せる。
この手で
そうだ、くそ勇者のテンガよ──核で焼かれて死ね!!
お前はこれで終わりだ!
ここで終わりだ!
あとは──────リ。
『クラム! まだか!?』
「魔王!?」
ドキリと心臓が跳ねる。
リズ……。
少し……。
ほんの少しだけ──。
そう、少しだけ、生き残りたいと考えてしまったからだ。
だけど、無理だ。
この船と共にクラムは死ぬ。絶対に……。
だってあと数十秒でできることなど─────な。
『叔父さん!』
「リズ?」
『叔父さん、こっち!!! お願い……叔父さんっ』
──帰って、
帰ってきて!!! 私を────。
(リ、ズ────)
「リズ……」
あぁ、リズの手が頬に触れた気がした。僅かに考えていた生還の目──。
心の片隅にあったリズのこと。
諦めかけていたというのに……また。
俺は──生き、
ピコン!
突然、
軽い音とともに、ガイドルートがバイザー上に表示される。
なんだこのルートは??
『よ、よし、上手くやったようじゃな!?』
「魔王──? ぁ、あぁ! ギリギリだ。ギリギリ───こいつを墜とせるはずだ!」
『うむうむ! 重畳重畳! よくやった!!』
「は! どーいたしまして。……で、なんだよ、このルートは?」
今さらどこに行けというのか?
施設自爆まで、あと20秒……。
間に合うはずもない。
ないが、体が動く。
『決まっておろうが?』
「は?」
エプソMK-2が動きだす。
まるで、生きろとクラムに言わんばかりに。
「決まってるって、なにが?」
『アホぅ! 言うたじゃろうが! 上空でピックアップすると───ほれ、急げ!!』
……な?!
「本気か?!」
『当たり前じゃ!! 急げ、』
クラァァァッァアアアム!!
「ッ!!」
その瞬間、弾かれたようにクラムは駆けだす。
飛行船の狭い通路を駆け抜け、
いくつもの封鎖された扉を突き破り──!
走るっ!
走る走る走る!!
「うぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
果てしなく感じられた一方で、飛行船の脱出口はどこに──……バンッ!!
「ここか?!」
ガイドルートに従い、
頑丈そうな扉を突き破った先───。
「そ、外!?」
足音荒く進んでいたクラムの目の前が唐突に開けた。
いつの間にか上部の開放デッキに出ていたようだ。
「だけど、どうすれば───」
扉を開けた瞬間から、ブワァ──と、風圧が押し寄せたのがわかる。
周囲には瓦礫の細かな砂礫が飛び散っている。直前までテンガが瓦礫の迎撃をしていた場所だろう。
そこは埃まみれになっていたが、開放感に溢れている。ここには上部開放デッキ上の航海艦橋があると魔王はいっていた。
つまり、飛行船を操作する場所なのだ。
いや、それよりも!
「……こ、コイツ、地下から抜け出す寸前じゃねぇか!」
すぐ近くで大型のプロペラがヒュンヒュンと空を切って力強く船体を空へと持ち上げていた。
そして、クラムが目にした光景は、
「王城の……跡! もう、地上なのか?!」
王城があった場所と思われるそこ。
周囲を覆う城壁はそのままに、王城の瓦礫があった場所にはポッカリと穴が開いており、
すぐ横にはエレベーターシャフトと、ゴギギギと重々しい音を立てて分厚いハッチが格納スペースに収納されていく様子が見えた。
つまり、ハッチから飛行船が飛び出す寸前と言う事だ。
爆破が間に合うかギリギリの所。
そして、ギリギリ助かるかもしれな───、
『……まったく、ギリギリだぞ、クラムぁぁぁぁ!』
『叔父さん! 掴まってぇぇ』
心中するつもりもあった……。
死なばもろとも。
そう、
テンガを仕留めてここで死ぬつもりも──。
だが、
生存のチャンスもあった!
刀でエンジンをぶった斬っても良かったのだが、最後の最後で手榴弾が役に立った……。
だから、ここにきた!
ここまで来た!!
……リズと、
「ここだ! 残りは5秒もない!」
施設の自爆まで約15秒。
そして、クラムの設置した手榴弾の遅延信管は残り5秒ほどで設置しておいた。
施設の自爆と、飛行船の撃沈は同時ではだめだ。それでは飛行船は撃墜できても、勇者には脱出される──。
だから、早めにしたのだ。
クラムが脱出できるギリギリのところにあわせるように!
ギリギリで諦めきれなかった。
リズと────。
リズと……。
リ──。
キュゴォォォオオオオオ!!
空中空母のダウンウォッシュが叩きつける!
何とまぁ、危険なほど超低空に進入した空中空母がそこにいるではないか!
さらに、機体の下部から垂れ下がるのは無数のピックアップ用のフックだ。
『掴まれクラムぁぁぁっぁぁ!』
バツンバツンバツン!
そのうちのいくつかが、飛行船のプロペラに引き裂かれるが──。
『跳べ!!』
『跳んで!!』
跳べぇっぇえええクラぁぁぁぁああム!!
近づく空中空母の、スカイラウンジの床に設置された窓。そこに顔を見せるのは──赤い髪の美しき……
彼女は簡易インカムを装着し、通信できる状態で──。
『叔父さぁぁぁん!!!』
「リぃぃぃいズぅぅぅ!!」
帰る。
帰れる。
あの子のもとに……!
「ギリギリだ」
ギリギリのところで踏みとどまれた。
ギリギリのところで帰る選択をできた。
ギリギリのところで決心が鈍った──。
リズと………………。
リズと、
生きた───……。
「──生きたい、ってか? はっはっははぁぁぁあ!!」
んな?!
この声──────。
『叔父さん、後ぉぉぉぉぉぉ!!!』
「──テ、!?」
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