第90話「最後の抵抗線」
『クラぁぁぁぁぁっぁぁぁム!!』
憤怒の表情! それで魔王が叫ぶ。
「言っただろ? 帰ってからにしようぜっ、てな…」
カシャコと、ガバメント改を戻し、もう一つの主武装───コンバットショットガン&グレネードライフルに切り替える。
『お、おのれ……』
ギリギリとバイザーの内部スピーカーから魔王の歯ぎしりが聞こえてくる。──ククク……意味が分からねぇぜ。
『待っておれ…クラム! 今、
バイザーの奥で魔王が物凄い勢いでキーボードを叩き始める。それをリズが
ギィィィィィン───……!
空いた天井から見上げる天を───爆炎に煙るそれを、無人機が航過していった。
「好きにしな。俺は次へ向かう。……マーカーは設置したからな、後は任せる……リズ」
『うん!』
その笑顔の眩しい事───。
リズのしなやかな指がキーボードを叩き、マーカーを設置した範囲へと爆弾とミサイルを降らせていく。
その爆音と熱気に後押しされるようにクラムは前へ進む。
まずは、
───国王!
※ ※
ギョム、ギョム!
「敵襲ぅ──うぶっ!」
ズパンと、出合頭の兵を刀で切り伏せ───。
「どけ、おらぁぁ!!」
ドゥン、ドゥン、ドゥンドゥンドゥン!
と、コンバットショットガンの連続散弾射撃でグッチャグチャのミンチを量産していく。
12.7mm程の威力と貫通力はないものの、20ゲージのショットシェルからはじき出される散弾の面制圧効果は圧倒的に過ぎる。
対して狙いなど付けなくとも、屋内に置いては凶悪過ぎる面を収める火制効果。
反撃の糸口すら与えずに、次々に挽肉と化していく近衛兵たち。
終いにはガタガタと隅っこで震えるのみ。
イッパの様な強烈なリーダーがいない以上。彼らの頼みにするのは自らの忠誠心と勇気のみ。
他に頼む求心力がない以上、それは個々の資質に起因するものだ。
「ははははは! 逃げろぉ! 隠れろお! 丸見えだぞぉ!」
ドゥン、ドゥン!!
コンバットショットガンは弾の大きさ故、様々な弾種を誇っている。
大粒散弾を基準としつつも、
それをバイザーに表示された選択項目から指定してやれば、ドラム上の弾倉から給弾してくれるのだ。
そして、物陰に隠れた愚かな近衛兵には、貫通力抜群の
バゴォン!!
壁ごと撃ち抜かれた近衛兵が、扉と同じように大穴の開いた腹を呆然と眺めつつ、数秒後に死に際の叫び───。
それを聞くともなしに聞きながら、そのまま放置しズンズンと歩を進める。
最初の内は抵抗の激しかった近衛兵も、この場に来てそのほとんどが戦意喪失。
背後ではリズが、ボンボンとミサイルを投下して逃げ道すら焼き払っていく。
都合、彼らは隠れ潜む部屋や通路の影から飛び出して前へ前へ……彼らから見て後ろへ後ろへと
いや、退くなどと言う言葉では説明がつかない。
もはや、追い詰められる動物の群れだ。潰走とも言えない……!
少しでもクラムから───エプソMK-2の攻撃から逃げようと右往左往し、
果てには仲間を押しのけ、髪を掴んで引き摺り倒し、少しでも離れようと王の
そして、クラムはそんな奴らに───背中にも容赦は、しない。
ドコォォン! と、
25mmグレネードをその群れにぶち込んで、程よく焼けた合い挽き肉を量産すると、悠々とそれらを踏みつけて進む。
「ひぃぃぃ!」「き、来た!?」「どけ! 逃げろ、俺を先に出せ!」
「き、貴様ら戦え! それでも栄えある近衛兵か、恥を───」
───ドゥン!
ドゥン、ドゥン、ドゥン!
「ははははっはは、ははっはははは、ハハハハハハ!」
『アハハッハハハアハハッハハハハハハッハハハハ!』
弱い!
弱い!
弱い!
人の人生を踏みにじり、
国家安寧のために家族を奪い、
『勇者』の供物にしたあげくに、
魔王との戦いは、
ただの略奪の小競り合いが原因ときた!
俺はなんだ?
リズはなんだ?
お国の皆の生と死の肥やしか?
『勇者』の精と子の便器か?
ざっけんな!
ふっざけんな!!
人を……。
俺を……、無罪の俺をぉぉぉ!
死刑にしてまで得た『勇者』のご機嫌取りの産物がこれか!?
リズを、少女を傷だらけにして得た精鋭たちがこれか!?
まともに、反抗してみろや!!
雑魚が!
雑魚が!
雑魚がぁぁああ!
「ははははっはは、魔王軍のお出ましだ!!」
『アハハッハハハ、魔王軍のお出でだよぉ!』
興奮するなぁ、リズ。
うん、
高揚するなぁぁ、リズ。
うん、
哄笑するなぁぁぁ、リぃぃズゥぅぅ。
ぁ、ん♡
「ざまぁみろ、クソ王国」
ドゥン!
『ざまー見ろ、クソ兵士』
ドゥン!
「『ざまぁ、ざまぁ、ざまぁ、ざまぁ、ざまぁ!』」
──ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥン!
逃げ散る兵。
仲間を盾に、一歩でも奥へ、
奥へ───!
そして、
「こ、これ以上は進ませんぞ!……邪魔だぁどけぇええ!」
「隊長! 逃亡兵が邪魔です! 敵を撃てません!」
視線の先。
豪華な観音開きの扉の先に国王は、居わすのだろう───!
その前に布陣する最後の抵抗線らしき近衛兵の一団。
その指揮のもと、兵による上下二段に構えたボウガンが控えていた───。
一段目が膝射ちの姿勢。
二段目が立ち射ちの姿勢。
既に弦は引き絞られていた……!!
「構わん! 逃げる連中ごと───射てぇぇぇ!」
バィン、バィンバィンバィンィンィンィンィン!!!
歩兵の持つものとしては大型のボウガン。
鏃も大型でシャフトにまで金属が使われたソレは───、
「み、味方───あが!」「やめ───」
ドドドドオドドドス! と、クラムに追い散らされて逃げ延びてきた兵を貫き通し───……。
カン、コン……と数発がクラムに命中。
「なるほど……最後の直線で一斉射撃か───」
戦術レベルとしては正しい。
だが、
甘いわ!
「そんなもん効くかぁぁ!!」
「怯むな! 射てぇぇぇぇ」
第二列───射てぇぇぇっぇ! と躊躇ない号令のもと。
一段目は装填中。二段目の立ち射ちの連中が狙いを付けると───。
バババババババィィィン!!!
一斉射! その全てがクラムに命中し───ゴィィン! とエプソMK-2を揺るがす……。
「や……ったか?」
ガポッと、指揮官は兜を脱ぎ、薄暗い通路の先を見通そうとするが、───ドズ……。
「あぇ……?」
脱いだ兜にポタタタタ……と赤いものが、
「た、隊長……!」
近衛兵の絶望に染まった顔、その顔の意味を理解することなく彼の意識は闇に落ちた。
ドスン、カランカラン……と。兜が転がり、
「結構効いたぜ……やるじゃねーか」
僅かに凹んだエプソMK-2の胸部装甲をコンコンと叩きながらクラムは薄闇からヌゥと姿を見せる。
手には発射されたボウガンのボルト弾を数本。
小さく悲鳴を上げる近衛兵たち…
「ば……?! ばかなッ!……オリハルコンの
勇者の宝剣を除けば、最高峰の金属素材……。
剣にして鋭く、鎧にして最硬のそれだ。
「オリハルコンだぁ?……甘い甘い。魔王軍の冶金技術ってのは星の世界を行くそうだ……残念、もう一回やり直しだ、な! と───」
ドッズン! と、手に持つボルト弾を驚愕している兵の頭に叩き込んでいく。
一人ずつ、一本一本丁寧にぃぃ!
「ひぃぃぃ!」「よせ! やめ───アビュ……」「頼む、降伏───ヒデ、ぶ」
ドス! グサ! ズン! と、それはもう丁寧且つ丁重に親切に一本一本ボルト弾を返却していった。
しかし……。
「あん? 一本足りねぇな」
そうだ。
指揮官に返却したボルト弾の分、兵一名分のボルト弾が足りていない。
そのおかげで生き残った最期の一人が───。
「た、たすけ……」
「よぉ、お前の体重どんくらいだ?」
ズリ、ズリ……ドンと後ずさる近衛兵は、王の居室の扉に背中が当たる。
これ以上は先に進めない。
王の居室は固く閉ざされており───。
「た、体重? さ、さ、ご───」
「───……十分だ!!」
兵士は、グンッとクラムの剛腕に胸倉を掴まれるとぉ、一度引き寄せられてぇぇぇ!
すぅぅぅ……。
「
引き絞った近衛兵の体ごと、右手に内蔵されている40mm空砲を利用した右ストレートをぉぉぉぉ、叩き込む!
あ、そーれ!
ノックして、……開けましょう!!!
「どっせぇぇっぇい!!」
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