第73話「懲罰」

 リズを冷たい装甲越しに───軽く、そして熱く抱きしめる。


「待たせたな───」

「……さん───」


 う゛う゛う゛とリズのしゃくりあげる泣き声を聞きながら、優しさのこもる手で頭を撫で……──装甲に覆われたそれでは、リズの柔らかい触感すら感じられないな、と苦笑する。


 だが、その間も油断せずイッパを注視している。


「うがぁぁぁあ───ガァァァアアアアアアアア!!」


 ジタバタと暴れるイッパに、

「腕の一本くらいでぎゃーぎゃー騒ぐな!」


 ドカぁ! と蹴り飛ばし、すごむ。


 フルパワーのエプソMKー2の蹴りを食らってゴロゴロと転がるイッパは、それでも気丈に立ち上がると───、



「囚ぅぅぅ人んんん兵ぃぃぃぃ!」


 と、威勢良く叫び、片手で折れた斬馬刀を拾う。



「はん!……いいだろう。来いよっ」



 チョイチョイと、片手であやして・・・・挑発。

 クラムも、イッパにあわせてライフルやミサイルは使わずに、高振動刀を抜く。


 フィィィィイン……。


 振動音を聞きながら──片手で正眼に構えてみせた。


(けっ……!)


 別に正々堂々と戦ってやる義理もないし、つもりもないが……!!


 このやり方でこいつを倒したほうが、確実に屈辱を与えることができるだろう、という思いがあった。


 なにより、リズも見ているしな───。


 お前の苦しみ。

 叔父さんが少しでも晴らしてやる!!


 ……っと! 来たぁぁあ!


 ズンズンズンと足音もけたたましく!


「なぁぁぁぁ、めぇぇぇぇえ、るぅぅぅぅ、なぁぁぁぁぁぁ!」


 うぉらぁぁぁあ!!!

 

 ダンッ!! と踏み切るイッパ。

 負傷を思わせない動きは、一流のそれだ。

 「うがぁぁぁぁぁぁ!」と、気合のこもった一撃を繰り出してくる。


 なるほど。


 速さも重さも一級品。

 さらに旧エプソのアシスト付き───。


 ……確かに、優秀な戦士なのだろう。


 近衛兵団にこの男あり、と……そして、王国随一と称されるのもわかる。


 『勇者』を除けば最強だと───!



 だが、

 だがよぉぉお……!


「ハエが止まるほどおせぇよ……!」


 恐怖も、

 焦燥も、

 驚愕も、


 ───何もない!!


 そう。

 強化手術を受けて、脳内処理速度が上がったクラムにとって、たかが王国随一・・・・・・・、それは───、



「死ねよ───ただの、雑魚がぁぁあ!!」



 ───まさに雑魚だった。


 ヘルメットを失って火器管制能力こそ激減しているが、エプソの心臓部は全身に張り巡らされている電子回路のネットワークによるものだ。


 それは、マザーコンピューターのようなものがあるわけではなく、核心となるものはクラウド化されたシステムである。


 そのため、どこかが破壊されてもシステムの処理速度や能力が少々低下する程度で、全体的な能力が失われることはない。


 故に、クラムの強化手術の成果は、今もエプソを動かすことには何の支障もなかった。


 最適な動き、

 最適な選択、

 最適な回答───!


 それは自然と脳内で処理され……目の前の雑魚を瞬殺するに、何の支障もない。


 唯一の懸念があるとすれば、だ。



「リズをいたぶっておいて、楽に死ねると思うなよ───……」



 簡単に殺してしまわな・・・・・・・・・・いように調整・・・・・・することだった───。


 なぜなら、それは……クラムが、イッパに積年の恨みを晴らす機会。


 残虐な復讐を望む人間だということだ!!



 さぁ、始めようか───。

 あの日の復讐と、リズの苦しみとぉぉお!


 そして、その先に開く復讐の幕開けの第一歩のためなぁぁぁぁあああ!!



 まずは、

「この痛みを噛み締めろ!!」


 スパン───! と何でも切り裂く高振動刀はイッパの腕を斬馬刀ごと切り裂く。


 ───縦に、だ。


 エプソの頑丈極まりない装甲ごと、まるでバターのように……ズバババババ!! と、縦に切り裂く。


 そう、

 いっそ輪切りにするように切ったわけではなく、割けるチーズのようにびりびり縦に切り裂いてみせた。


「ぎ、」

 ギャアアアアアアアアアアア!!!


 こりゃ痛そうだ……!! 

 裁判長と同じザマだな!


 どうよ? 見ろよ! 見てみろよ!

 

 いびつに割れた腕の完成だ。


 はっはっはっ……!!


 ……超痛ぇぇだろう!



 ───ほらぁ!


「それが俺の受けた痛みの集大成だ!!」


「ぎゃぁぁぁぁあああ!!」

 ───ギャアアアアアアアアアアア!!!


 と、既視感溢れる光景でイッパがのたうち回る。

 

「アアアアアア!!! ぐぁぁあ!」


「は! 一端に騒ぐじゃねえか!」

 ───まだ、こんなもんじゃねぇぞ!


 ベチャベチャと、汚らしい血をばら撒きながらゴロゴロと転がる。


 ビチャ!!


 その血がリズにかかりそうになって、素早くクラムが姪っ子を庇ってやった。


「───お前は見なくていい……」

 そう言って、視界を塞ぐように立つ──。



「よぅ、近衛兵団長どの」



 シュラン──と、ヒートナイフを抜き放つと、エネルギー供給をストップさせる。


 すると、赤熱したオレンジの刀身が鈍い鉄の色に戻っていく。

 そうなれば、ただの切れ味の悪い肉厚のナイフでしかない。


「まずは、お前からだ───さ、楽しもうじゃないか?」


「ぎざま゛ぁ゛ぁ゛! ごん゛な゛ごどじでだだで、……ぐぉぉお──?!」


 ズドン!


 ──────ッ!!!


 ぐ、

「ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛──!」


 と、


 分厚い肉厚のナイフを、奴のボロボロの腕に突き立てる───。


「ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛──!」

 痛い痛い痛い! と騒ぐ屑野郎。


「今のは、貴様に踏みにじられた囚人兵たちの分だ!」


 元盗賊の囚人兵や、最初期に生き残った古参の囚人兵たちの顔がよぎる。


 彼らの苦しみを代弁するなんて、烏滸おこがましいけど、それでも何かしてやりたかった。


 ほら、

「───楽・し・め・よ、この子らにしたみたいに、自分で体感しなッ」


 ───きっと楽しいさ。


 …………………………楽しかったんだろ!


 ……ああ!?

 どうなんだよ!!


 ───楽しめや、おらぁぁぁ!!


「ほら、寸刻みにしてやるよ!」


 ブツと、まずは数センチ───

 ……肉を切り離す。


「ぐぁああああ!!」


 これは意趣返し。

 正・当・な・仕・返・し・だ!


 まずはぁ、

「これは、俺の分───!」

 ブツ! と、数ミリ。


「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 次、


「これは、その他の引き潰された仲間の囚人兵の分───!」

 ブツ、グチ! と、多目に数センチ。


「があ゛あ゛───っ……ああが!!」


 は!

 良い声で鳴くじゃないか?


「たっぷり味わえ……」

 クククっ!


 お次は───!


「囚人大隊───500人分!!」

 ズドン!

 グリブリグリブリ!


 ───たくさん、たくさん切り分ける。


「ぁ゛───カッ…………ばっ───!」

 

 腕を細切れにするため、まずは暴れられないように、アシスト付きのパワーで足蹴にしたまま───ゆっくりと寸刻みにぃぃぃ!


「よぜ! ぐあ゛あ゛あ゛あ! やめっ!」


 ……やめろ、だぁ?


 ああ! ごら!

 てめえ、ふざけてんのか!?


「楽しいんだろう! 人を殺しても毛ほども感じないんだろ!? おら゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!」


 ズドン、

 ズドン、

 ズドンッ!!


「あぐ、が───」

「聞こえんわぁぁぁ!!」


 聞くに耐えん声で──喋るな屑がぁぁぁ!


「どうだ!? あぁん! 楽しいか? 楽しいんだろ!?………………」


「ぐぶぶぶ………………」


「答えろや屑野郎ぉぉぉ!!」


「ぎ、が───」


 まだ、

「───腕の一本だろうがボケぇぇぇ!!」


 ブチブチブヂィ! と、ナイフを突き立て───ケバブを切り分けるようにビリビリに引き裂いてやる。


 もはや、イッパは声にもならない。


 まだだ!

 まだ終わりじゃない───。


 お前は許さん。

 いや、許せん。

 絶対に許さない!


 俺の……。

 俺のリズに───。


 俺の、最後の家族に………。

 俺だけの、リズにぃぃぃぃぃぃぃ!!


「これは、リズの分───」

 ドガッ! と、剥き出しの顔面を蹴りあげる。


「───これはリズの分、」

 グチャ! と、肩の傷を抉り蹴る。


「───これはリズの分」

 ゴキィン! と、拳を喉に叩き込む。


「これは───」

 リズの分、ボグッ!


「これは───」

 リズの分、グサッ!


「これは───」

 リズの分、ゴキィッ!


 これは、これは、これは、これは、これは、

 リズの分リズの分リズの分リズの分リズの分


 ドカ! ボグ! グサ! グチャ! ズドン!


「しね、しね、死ね、死ね、死ね、氏ね、シネシネシネ───」


 糞のような面をぉぉ!──ザクぅぅッ!

 理不尽な暴力しか生まない腕もぉ!──ブヂぃ!

 その真っ黒な腹の中もぉぉ!──ドカ!

 罵るしかできない口はぁ!──グリリッ!


「ぃぐ、囚人んん……ぐぁ゛ぁ゛あ゛!」


 黙れよ……。


 これは、これは、これは、これはこれはこれはぁぁ!

 リズ、リズ、リズ、リズリズリズリズリズリズぅぅ!



 面、腕、腹、口、面、面ぁぁ!

 腹腹腹腹ぁぁ!


 がぁあぁああ!!

 腕を千切ってやるぁああ!!


 面ぁ、頭頭! 歯ぁ!

 鼻、歯歯歯、前歯全部!


 おらぁぁああ゛あ゛あ゛!!

 目ぇ玉ぁぁぁ!!


 おら、おら、おらぁ!

「ぎゃあぁあアアア亜亜AAああ゛ぁ゛!」

 

 一際大きなイッパの悲鳴。

 まだだ───。


 まだ、終わらせるものかよ!


 終わルカヨォォ!

「シネヤ、コノクズヤロウガアァァ──!」


 これは、

 これは、リズの分だああぁぁぁ───!!


 リズにヒデェことしやがって、

 そのぉお──小汚ない逸物いちもつをぉぉぉ!


 砕けろやぁァァァアアア!!!


 ジャキン!! と、近接戦闘装備を繰り出すと!


 ───ドガァァァン!


 と、腕に仕込まれた格闘戦用の40mmストレートが炸裂!!


 軍馬すら砕く鋼鉄の拳がイッパの股関にぃぃぃ───……直撃!!!


 ドォォッッパァァァン!!!


 と、土塊と肉と、汚い液体と───!!


 地面にクレーターができて───股関がエプソの装甲ごと、そう……逸物いちもつごと消し飛ばす!!!



 イッパの、表情が───、


「─────か! っ! っ──……?!」


 ブシュゥゥ──と、40mmストレートを放った腕から空薬莢が排出され、奴の口からも、


「な゛ぁぁぁぁぁぁ!!───ぁ……!!」


 長い吐息のような絶叫が排出。


 そのあと……糸が切れたように、グリンと白目を剥くイッパ。


 あ゛?


 気絶とは生温い……そんな楽をさせるか!


 ……もういい、仕上げだ───!!!




 ぐっちゃぐちゃに、ぶっ殺してやる!!!


 


「リズ……───目を閉じてろ、お前は見なくていい」


 クラムなりにリズに気を使ったのだが、


「ぅ、ぅん……」


 フルフルと首を振るリズ。

 その目は悲し気に伏せられているが……イッパに同情しているわけではないようだ。


その人ぁその人は酷ぃぉぉをぁくぁ酷いことをたきさんしてぃぁしていた……小ぁぃ子ぉ小さい子も幼ぃぉも構ぁぅ幼い子も構わず……何時ぁんぉ何時間もぇぇて責めて……せめぇ責めてせめて責めて、責めて責めて───」


 その情景を思い出したのか、オエエエエエ……と、リズが吐き戻す。


 血の匂いを嗅いで、その時の光景がフラッシュバックしたらしい……。


(リズ………………!)


 勇者から下げ渡された戦利品・・・という名目でなければ、自分もその目・・・に遭っていた──と。


ぅぉく痛ぁった凄く痛かった……ほぁの子ぁち他の子たちぉもっと痛ぁったはもっと痛かった、……思う、よ」


 そして言う。

 彼女は勇気を振り絞って聞いたのだ。


 拷問を楽しむイッパに敢然と───!


 「なんでそんなに酷いことができるのか」と───。



「リズ…………」

「───でも、もぅ終わぃにしよぅもう終わりにしよう?」


 イッパはリズに言ったらしい、「なんで?」と問う彼女に───「楽しいからさ」と……。


ぁたしは楽ぃくないわたしは楽しくない──」


 リズ───。


楽ぃくなぃ楽しくない! 楽しくなんかぁぃよ楽しくなんかないよ!」


 人が痛がる姿も、

 人を痛めつける人も、

 それを笑ってみている人も───!




 叔父さんのことも!!!







 リズ





「いい子だ───……」


 そうだ、

 そうだ。


 そうだ!


 リズは俺の家族。

 家族だ───それでいい。


 それだけでいい。


 今回はエプソの性能試験でもあったが、俺は、魔王がリズの居場所を見つけたと言ったからこそ、この作戦に乗った。


 そうでなければ……一番に『勇者』を殺している。


 でも、その前に……───リズだけは、最後の家族だけは!!

 この子だけは、救いたいと───そう思った。


 3カ月もの長きにわたり……。


 この醜悪な男に飼われていたと思うと、怖気おぞけが振るうが───。


 それでも生きていてくれた……。

 まだ、俺を叔父さんと呼んでくれた──。


 それだけで十分だ。

 十分なんだ……。

 

 だから、



 ……もう終わりにしよう。

 リズが望むなら───。



「───おらぁ!」

 股間に蹴りをいれて無理やり覚醒させる。


 流石に効くのか、

「ウギャアアアアアアアアアアア!!!」

 と、間髪なく反応。


 ……それだけでもリズは悲しげに瞼をふせる。


「うるせぇよ───」

 聞くに耐えん。


 ───ビュワン!


 ……と、出力を最低限に絞ったレーザーライフルはイッパの足を溶かし、地面に縫い付けた。


 これでしまいだ。


 レーザーは最低限の出力とは言え、熱量は凄まじい。


 装甲のない状態のクラムの頭部───その髪と、リズの──剥き出しになっている瑞々しい肌を焦がさんばかり……。


 なるほど、魔王がエプソMK-2を纏った状態でなければ使うなといったわけだ。


 その威力は有り余り、直撃したイッパの膝近くまで溶かしてなお、地面を溶解させてガラス化させた。


「ごふ……」


 焼き溶かされた足。


 その血流の止まった状態でイッパの意識が保てるはずもなく、今度こそあっという間にその意識は闇へと落ちた。


 この醜悪な男はまだ生き汚く、死に損なっている……。



「───だが、殺しはしない…………リズの前ではな」



 散々近衛兵団を殺してきたが、リズがもう終わりにして───とそう言う以上……クラムにはその言葉を反駁はんばくする気は毛頭なかった。


 そうだ。

 この子のために尽くすと、かつて誓った。


 あの囚人大隊の野営地で───。


 

 復讐に身を焦がしながらも、誓った。

 それはクラムの決して譲れない一線でもある。勇者への復讐に次ぐ、それなのだ。


 そう。

 たった一つ・・を除いて、俺の全てをお前リズにやる。



 そう───誓った。

 誓ったんだ……。



 ならば、この子が望むようにしよう。


 この子の叔父さんであろう。

 ……例え、偽りの姿であったとしても、この子には、見たいもの──信じたいものだけを見せよう。


 この子は、どんな辛い目にあっても人を・・「殺して」なんていう子ではない……!


 そうだ?

 ───俺のリズ。


 だから、今はこれで終わりにする───。


「……………………帰ろう、か──リズ」

「───ぅん、かぇる帰る帰ぅよ帰るよ……帰、る」


 ヒクッと、リズがまたしゃくりあげる。


 よく……。

 本当に、よく泣く子だな。


 その頭に軽く手を置く。

 ポン、と───優しさが伝わるように尾をひくように……。


 いくらでも、

 いつまで、

 好きなだけ───……。


 うん。

 リズ───いくらでも泣いていい。

 もう、いくらでも泣け。


 俺が、

 俺が全て受け止めてやるから───。


 俺の全てはお前の物───………だた一つ復讐を除いて、全てがお前のものだ。



 ………だから。



 だから、イッパ……。

 テメェは生かしておいてやる。






 ──────今はな。



※ ※





「魔王、終わった。目標沈黙、敵勢力は殲滅した」

『ん……んむ。そうか、わかった……迎えをよこす───じゃが、その、』

「いい。ほっとけ」


 ……む。


『わかった、わかった。ポチはどうする?』


「あれは残置していいか? ちょっと考えがある。あとで少々プログラムをいじらせてくれ」

『ん? まぁ構わんが……近いうちに回収部隊が拾いに行くが、それまでは自立させておこうかの』


 自衛火器もあるし、どうとでもなる。

 そう言って魔王はそれっきり黙ってしまう。


ぉじぁん叔父さん? まぉぅってだぁれ魔王って誰?」

「魔王は魔王さ─────いい人・・・だよ。リズも気に入るはずだ」


 ???


 人類の天敵とされる魔王のことをリズが知らぬはずもないが、それでもクラムの言葉を一切疑っていなかった。

 そして、

 リズを連れて……魔王の迎えが来るまでの時間いっぱいを活用して、同じく飼われていたであろう少女たちを解放した。


「好きに生きろ───ここにあるものは何でも持っていけ、後から来るもの・・・・・・・も役に立つはずさ。使い方はさっき教えたからわかるな?」


 コクリと数人の少女たちが頷く。

 体の動かせない子もいたが、彼女たちの表情は晴れやかだった。


 すまんな……。

 連れていくことはできん。


「───あばよ」


 クラムはそれ以上イッパを害することなく、リズだけを伴って去っていった。



 ───キュイィィィィン!!



 空中空母からの迎えは小型のVTOL垂直離陸機だった。

 けたたましい音を立てて着陸するソレ。


 目を丸くして驚くリズが実に可愛かった。


 しかし、リズの現在の格好は際どい……。

 というか、絵面的にヤバい。……適当に天幕を切り裂いただけのボロを纏っているだけだ。


 なんという、その…………。

 まるで、少女に乱暴を働いた後始末のよう。


 それはもう、バツが悪いことこの上ない。


 だが、魔王ならこの先リズに無体を働くこともあるまいと、勝手に考えている。


「帰ろうか。俺たちの家に───」


 コクンと頷くリズの肩を抱き、小さな座席へと腰かけさせてやる。


 パイロットに一言二言声をかけて、クラムは貨物用のにラッチに乗った。

 一応、人が乗ることも考慮されているのか申し訳程度の補助席が付いているので固定具でしっかりエプソMK-2と結合し、パイロットに合図を送る。


「やってくれ!」

『了解』


 座席に腰かけると、落下防止を兼ねた銃座についている12.7mmドアガンを地上に指向した。


 もっとも、戦いは終了したことは明白で形以上の見張りでしかなかったが……。



 ───キィィィィィィィ……!!



 エンジンが空気を焼き、陽炎が生まれる。


 その余熱を頬に感じながら、座席に沈みこみ───この轟音の中、眠りこけているリズの髪を撫でた。


 よほど疲れていたのか、それとも安心したのか、リズの眠りはとても深い。


 だけど、生きている。

 美しく、気高く、あの頃のまま生きている……!


 ……良かった。

 本当に良かった……!!


 お前が生きていてくれて……本当に──!



「───待たせてすまなかった」



 ……もう、一人にしない。

 約束だ、リズ。


死ぬまで・・・・一緒だ───」


 男の誓いが戦場に溶けていき、そうして戦場は墓場となり───動く人影は一握りの少女たちだけとなった。




 否、もう一人───いる。

 この戦場には、囚われていた少女たち以外にもまだ一人。




 そう。

 たった一人生き残った男がいる……。

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