第72話「旧エプソ」
───さん?
バサっ! と天幕の支柱が吹き飛び、ロケット推進が生み出す突風と、空中空母から降り注いだ爆撃、それによる熱を伴った爆風が天幕をそのまま上空へと
あとに残ったのは、むき出しの地面に並べられた天幕内の調度品と、
無数の檻と、
転がる少女達の死体と───、
巨大な鎧を着たイッパと……、
『───撃つな、クラムぅぅう!! 姪御さんがおるぞぉぉおお!?』
り、
『──────ズ……?』
「ぉ、ぃさん……?」
ヨロヨロと起き上がったボロを
『リ───』
「よそ見をするなぁぁ!!」
ゴキィィィン! と頭全体が揺さぶられる衝撃にバイザー内が真っ暗になる。
バチバチ!! と、バイザー内のモニターが点滅し……画面が死んだ。
ブラックアウトの直前には、衝撃によってヒビが入り、目の前を映していた360度モニターが激しく点滅したかと思うと、小さな火花を散らせて───……。
バシュゥゥゥン…………
ピーー!!
「error───」
『…ム!…───えるか!? ク……』
くッ! なんだ今のは!?
通信機もイカレたのか、魔王の声が途切れ途切れに聞こえる。
ダメだ。前が見えねぇ!
仕方なく、頭全体を覆うヘルメットを外すと───、
「え、エプソ!?」
クラムの目の前に、エプソMK-2が立っていた。
「しゃべるな下郎ぉぉぉ!」
グワぁぁ……! と得物を振り上げたのは、馬を切り裂く斬馬刀を構えたもう一機のエプソだ。
断じて目の前にいるのは、クラム本人ではない。
そいつは、今のクラム同様にヘルメットを被っていないかった、人物確認は容易だった。
い、
「……イッパてめぇぇええ!」
「しゃべるなと言ったぁぁぁ!」
ズガァァァン!! と、強大な質量を伴った一撃が地面を
それは、直前までクラムがいた場所で、そこには小さなクレーターができる。
「少しはできるようだな! 囚人兵ぃぃ!」
くそ!?
なんでエプソがもう一機ある?!
『クラム、聞け!』
ザザっと、雑音を伴った声が背後から聞こえる。
これは───?
『背部コンテナの緊急パックを開け! 予備の通信機がある。急げ!』
「誰としゃべっているんだ! あぁぁん!」
ブン! とさらに一撃ッ。それを辛うじて
ゴロゴロと転がりつつ、視線はリズに向く。
「リズ!」
「───俺を無視するなぁぁ!」
憤怒の表情で、ベッキベキに折れ曲がった斬馬刀をさらに一撃!
───ガッキィィィン! と凄まじい音が響き、クロムメッキ加工を施された強化銃身がへし曲がる。
くそ!
このパワーは、間違いなくエプソと同等だぞ!?
重機関銃を投げ捨てイッパにぶつけると、その隙にコンテナからインカムタイプの通信機を取り出し装着する。
途端に通信が明瞭に聞き取れ、魔王の声が耳を打った。同時に右目の前に小さなウィンドウが現れる。
その映像がやや荒いのは、ホログラムとして表示されるためだ。
簡易型のバイザーシステムらしい。
『装着したか!? クラム……すまん! 情報開示が遅れた───』
「何を言ってる? 何故、エプソがもう一機ある!?」
視界にいたリズを覆い隠すように、イッパが悠々とした足取りで、ズン! ズン! と歩を進める。
ほどよい距離まで迫ると──斬馬刀を正眼に構えた。
『あれは───かつての我々のモノじゃ。いわゆる遺失物のエプソじゃ。MK-2風に言えば旧エプソ……エプソMK-1じゃ』
「な、なんだと?」
旧式のエプソ!?
なんでそんなものがここにある───??
『まさか、ここにあれが持ち込まれておるとは……
苦々しく一人で納得している魔王だが、
「あれはお前らの持ち物か!? お前ら一体なにを───」
『すまん、今は話せん! だが、援護はしてやる! ワシらの尻ぬぐいをさせるようで申し訳ないが───』
魔王は一度息を切ると、言った。
『
「……
魔王め……。
何を隠している?
……旧式のエプソだと?
エプソは、強化手術をしないと扱えないとか言ってなかったか?
「戦いの最中に───誰と話している!?」
ブンブンッ! と連撃を繰り出すイッパ。
その動きは、なるほど……。
強大で巨大な剣を握ったエプソのそれ。
明らかに人間の動きではないが───、
「おい、魔王。エプソMK-1とやらは性能的に、MK-2に勝っているのか?」
『……まさか。だたの医療器具に装甲が付いただけの代物じゃよ。もちろん、性能はダンチじゃ!』
上等!
それだけ聞ければ問題なし!
……リズ。待ってろ。
リズ、
リズ、
リズ。
俺のリズ───!!
リズ、お前がそこにいるってことは……。
イッパぁぁ、てめぇを殺す理由が山と増えたぜ。
すぅぅぅ……、
「……リズを
おらぁぁ! と振り下ろされた斬馬刀。
なるほどな。
強力な一撃には違いない。が、初撃こそ不意打ちだったためクリーンヒットしたものの、所詮は旧式。
たしかに、人間の筋力をはるかに上回った攻撃が出せるのかもしれないが───、
「───なぁ、近衛兵団長さんよ……」
僅かに体を捻るだけで、強烈な一撃を回避。
更に、イッパの連擊!
それは流れるような動作で繰り出されるが、
「───俺にはお前を殺す理由がゴマンとできたぞ!」
スッ、
スッ、とクラムは身を躱す。
「ほざけ囚人兵ぃぃ!」
リズは───。
リズはおれの家族だ。
家族なんだ!!!
断じて、お前の玩具じゃねぇぇぇぇ!
この天幕でリズが何をされていたのか……何をされようとしていたのか。
転がっている少女達の死体を見ればわかる。
「お前は人間の屑だ!」
「ほざけ囚人兵がぁ!」
ブン! と迫る斬馬刀。
───クラムは左手のレーザーライフルを打ち捨てると、
「あの世で
ガシィィン!
と、斬馬刀を手で止めて見せる───!!
「ば、……ばかな! で、伝説の鎧だぞ!?
神の祝福を受けた鎧だぞ!! 貴様の様な
「──中古品と一緒にするんじゃねぇぇぇぇえ!!」
ボッキィィィン! と斬馬刀をへし折る。
筋肉アシストを全開。草でもむしるように……イッパの片手と一緒に、だ。
「ぎ、」
───ブシュ!
ぎ、ぎ、
「ギィヤアアアアアアアアアアア!!!」
と、吹き出した血にイッパが
「何痛がってんだよ……」
転がる少女達の死体には無数の
両の足がありえないくらいに腫れているところを見ると───骨折しているのだろう。
そっと近づき、死した少女たちの、数人──その目を優しく閉じてやる。
そして、
「ぉじ、ぁん……」
「リズ………───」
リズを冷たい装甲越しに軽く抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます