第40話「激戦」
「ギャァァァァアァァ!!」
ドサリと倒れた、名も知らぬ囚人兵の姿を見て、元盗賊の囚人兵はその時が来たことを知った。
「始まったぞ! 全員密集、隙間を作るな」
「「「おう!!」」」
ついに、魔族側から弓矢の応酬が始まったらしい。
予想した展開に、古参の囚人兵は予定行動にうつる。
足枷をジャラジャラと引き摺りながらも、古参の囚人兵はなるべく素早く動き、密集するのだ。
そして買い揃えた防具を頼りに、亀のように身を小さくし、固まった。
カン! ガン!
矢が命中しても、簡単には盾は射抜けない。
「ひひ! た、助かったぜ」
「あぁ! 買っといてよかった!」
矢を防ぐ古参たち。
だが、その周囲では次々に囚人兵が射抜かれていく。
ギャアア! ウギャアア! グワァアァ!
と、耳を覆いたくなるような絶叫が響き……負傷者の呻きでたちまち溢れかえる。
「動くな! 動くなよ!」
「お、おう…」「任せとけ!」「おう───な、なんだ?」
しかし、上手くいったのも最初だけ。
突如、防御姿勢を取る元盗賊の囚人兵達の中に、強引に分け入る者がいた。
……ほかの囚人兵だ。
血走った眼で元盗賊の囚人兵らの作る防御の傘の下に潜り込もうとする者や、果ては防具を奪おうとする者まで───!
そういった連中の大半は、擦った揉んだしているうちに矢に射抜かれていくが、中には、中々しぶとい連中もいる。
そうこうしているうちにもスカァァン、と矢が盾に集中して突き刺さり、古参たちが目標にされていることを知る。
「てめぇらどけ! ここは俺らの場所だ!」
ドカン、バキィ! と足癖悪く蹴飛ばし追い出すが、外の囚人兵も必死だ。
何とか潜り込もうと──もう何が何だか!
そうこうするうちに、あらかたの囚人が魔族側の弓矢の攻撃圏内におさまり、射ぬかれていく。
つまり、人類側の狙いどおりだ。
この瞬間を待っていたのか、ようやく野戦師団の反撃が始まった。
パーパラパーパー!!
合図のラッパが鳴り響き、ようやく動き出した正規のロングボウ部隊。
ビュンビュンと頭の上を飛び交う矢に、時折降り注ぐ流れ矢。
だが、目標となっているのは囚人兵だけだ。
それをほくそ笑みながら、野戦師団は悠々と、王国軍得意のロングボウで反撃を開始。
「射れ、射れぇぇえ!!」
「魔族どもに教育してやれ!」
嵩にかかって反撃をするも、今回は少し様相が違った。
なぜか敵の防御が異様に固く、さすがに城壁の防御もあり魔族側もなかなか崩れない。
どうも、魔族側も準備していたらしい。
やつらとて馬鹿ではない。二度も同じ手にかかるとは限らないらしい。
魔族側も、囚人兵が死兵だと既に気付いているのだろう。
それに気付かないのは人類側のみ。
二匹目のドジョウを掬わんと狙っているのだろうが───世の中そんなに甘くはない。
白馬に乗った将軍が陣頭指揮をする中、
「将軍! 危険です、お下がりください!」
ガキュン……! と巨大な弓を弾く音がしとかと思うと───。
「何を言っとる! 魔族領に攻め込む一番槍を得るチャンスだぞ。後ろでコソコソしておられ───ガハア! ぶふ、」
ドサっと倒れる伏す将軍。
軍旗がカランと落ち、驚いた馬が走り去っていく。
将軍の下半身だけ乗せて……。
「は?」
唖然としているのは、将軍付の将校で、
「え? な! し、将軍!?……って、あれ? 俺も何か、変だ、ぞ?」
将軍をぶっ貫き、将校の腹に突き刺さった巨大な矢───。
それは、致命傷を負い、倒れる寸前の将校が目にした最期の光景。
彼は、グリン──と、目を白目にしつつ叫ぶ、まだ死んだことに気付かずに。
「ば、バリスタだぁぁぁぁ!」ドサリ……。
──ガキュン!
ガキュン……!
ガキュン!!!
直後、一斉に放たれる巨大な矢の嵐。
それは王国軍の野戦師団───ロングボウ部隊に降り注ぐ、鉄の雨だ!
「ギャアアアアア」
「いでぇぇぇ!」
「腕が腕がぁぁぁ…!」
たちまち阿鼻叫喚の地獄と化した前線。
ロングボウ部隊は瓦解し、後詰の近衛兵団の歩兵が交替する。
しかし、その致命的な時間ロスの間に、囚人大隊は壊滅的損害を受け───城壁と味方の間に取り残されてしまった。
もとより顧みられることもない死兵だ。
救出など万にひとつもありえない。
自分でやるしかないのだ。
だが……。
すでに逃走するほどの兵力も残っておらず、走り抜けた囚人兵もいるにはいたが、城壁の下で狙撃を受けて絶命していた。
生き残りは、まだ後ろでノロノロしていた一部の囚人兵と、亀のように縮こまっている元盗賊の囚人兵達くらいなもの。
他の生存者は、死体を盾にして震えているのみ。
「何をしている貴様ら! 早く行け!」
後ろでノロノロしていた囚人兵を蹴りだす『教官』に、監視の兵達。
しかし、行けと言われて大人しく従うはずもない。
「無茶苦茶いうなよ!」
「死んじまわぁ!」
「そーだ、そーだ!!」
既に背後で圧力をかけていた野戦師団は壊滅的なダメージを受けている。
無傷なのは近衛兵団ばかり───。
ならば、囚人兵に行けと言っても誰が言うことを聞くものか。
クラムも後方でノロノロしていたことが幸を制して、辛うじて生き延びていた。
はっきり言って人類が勝利しようが、敗北しようがクラムにとってはどうでもいい。
生き残ることを目的にしていれば、無茶な攻撃すら避けることができるはずと、あえて後ろで牛歩により戦いを避けていた。
だが、いつまでもそうしてはいられない。
もちろん、そんなにことが簡単に許されるはずもなく───
「進まないと、殺すぞ! わかってるのか…!」
…………頃合いだな。
十分に時間を稼いだクラムは、前に出る。
未だ矢の降り注ぐその戦場へ。
だが、さっきとは状況が違う。
何もない城壁前とは違い、今は遮蔽物だらけ。
他にも生き残っている囚人兵がいるように、彼らと同じように隠れるのだ。
そうとも、
「死んで………──死んでたまるかぁぁ!」
うおおおおおおお!
足枷を引き摺り、駆ける。
駆ける、駆ける、駆ける!
ジャリンジャリン! と、鉄球と鎖が
足がもつれそうになる…………だが、止まるな!
生きろ。
生き抜けッ!
たとえ、血反吐を
生きる!!!
俺は生きる!!!
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ジャリンジャリン──ビュン、ズバっ……と際どい所を矢が貫いていく。
だが辛うじて、無傷。
止まるなッ!
目星はつけている。
そこぉぉ───!
その折り重なった死体の間だぁぁぁ!!
バッと飛び込む死体の隙間。
零れた腸と、溢れた体液やら血でベチャベチャのそこに
バシャっ! と、赤い飛沫が立ち、頭から腸を被るが───知るかぁぁぁぁ!
もともと『勇者』の糞尿に体液で、とっくにドロドロのガビガビだ。
今更、気にもならない。
そこを目掛けて───!
ビュンビュン! ドドドズズ! と、直後に突き刺さる矢の雨。
だが、死体の盾は有効!
クラムは生きている……。
生きている!
生きているぞぉぉおおお!!
そして、
さぁ、ここからだ…………。
もう、わかってるよ!
………………来るんだろ?
目立ちたがりの『勇者』さんよぉぉぉ。
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