第66話「格闘戦」
───見つけたぞ! 近衛兵団長……。
『イッパ・ナルグー!!』
外部スピーカーを最大限に調整し、声を響かせる。
その音は、まさに割れんばかりの声量!!
間近にいた兵が、泡を吹いてぶっ倒れるほどだ。
当然、気付いたイッパがこちらを穴が開くほど注視している。
「───貴様は本当にクラム・エンバニアなのか? そんな
外部音声を拾う収音器は、イッパの音声のみに集中する。
その他の雑音はノイズキャンセラーが働き、カットしていった。
おかげで、本来なら喧しいはずの戦場で、クラムには奇妙までの静音環境だ。
『はは! 帰って来たぜ、地獄の釜からよぉぉぉ!……これは俺の戦装束だぁぁぁ!!』
ブババッババ!
と刀を振り回すと、白兵戦を挑んできた兵を切り刻む。
しかし、段々と
訓練を積んだとはいえ、所詮は元一般人の囚人兵だ。
「舐めるな犯罪者が! たかだか囚人兵ごときに、おくれを取る我らではない!」
「かかれぇぇ!」とイッパが合図をする。
それを、しゃら臭ぇ!
とばかりにガバメント改を乱射し、群がる兵を打ち倒す。
バンバンバンバン!! カチン───。
──ち!
……ガバメントの弾が切れやがった。
イッパを撃ち殺してやりたいが、ここで弾切れ。
ブンと、ガバメント改を投げ捨てるとヒートナイフを抜き───刀と合わせて二刀流。
『どけぇぇぇ!!』
イッパを切り刻むべく突撃するが、並みいる兵どもが邪魔だ!
しかもイッパの指揮のもと兵どもとて、無謀な突撃ばかりを繰り返しはしない!
いつのまにか、
剣兵は後方へ遷移し、馬具から取り出した弓を構える。
騎槍兵は長物の利点を生かしてチクチクと攻撃し始めた。
貫通するはずもないが、腕の動きや足を阻害されて
正面装甲は絶対に貫くことはできないが、関節は別だ。
超硬素材で作られているが、機関部ゆえ繊細な作り。
故障の危険は常にある。
「ちぃぃ!」
斬っても切っても兵は沸く。
大隊規模どころではないのだ。
『どうじゃー? 支援するかのー?』
魔王が天使の笑顔でクヒヒヒと笑う。
ピンチでもなんでもないが……これは悔しい。
『うっせぇ! 黙ってろ!』
無人機の支援も可能だが、こうも組み合っていると味方識別が邪魔をして攻撃できない。
精々後方を
『強情じゃのー? 補給用の
ニヤニヤとした顔で
可愛らしいのが救いと言えば救いだが、その顔は認識阻害効果によるもの。
脳の強化手術を受けても、この補正処理はできないようだ。
ルゥナの顔はどこまでも意地悪に笑う。
(ち……!)
クラムの苛立ち等構うことなく、近衛兵団は果敢に攻め立てる。
さらにイッパの指揮は適確で、兵の被害が極限し始めた。
騎槍など簡単に切り裂けるのだが、刀とナイフだけではリーチが足りず、トドメをさせない。
そのうちに武器を失った兵は後方へ下がっていく。
クッソ! ブーストでぶっ飛ばすか?
強引に体をねじ込んで何人かを切り裂くが───!
───ドスン!?
な、なんだぁ?!
突如、巨大な質量が降り注ぐ。
「ぐ…………!」
こ、こいつら……?!
数人がかりで馬の死体を持ち上げ、ブン投げ始めやがった!
馬の重量がどれほどだと!?
さらには兵の死体まで───!!
『ぐぉおぉ!!』
切り裂くことは切り裂けるのだが───数が……!
数が多すぎる!!
ドン! と、何体もの馬の巨体が飛んでくる。
『がっ!』
ドカっとした衝撃に思わず振り返る。
背後から投げつけられた近衛兵の死体を切り払おうとして───……。
シャりぃぃん! と刀が落ちた。
高振動刀は何でも切り裂くが、その効果は当然刀身のみ、腹や峰部分では効果はない。
その腹にぶつけられた兵の死体のため刀は弾き飛ばされてしまった。
『の、野郎ッ!!』
残る手持ちの武器はナイフのみ。
あとは鉄球ぐらいだが……。
「いいぞッ! 武器を奪え!! 障害物を使え!」
イッパは流石に戦い慣れしている。
勇者を除けば国軍最強だというのも嘘ではないだろう。
実際、あの戦場で魔王軍の武装隊員を切り倒している。
案外、勇者と戦ってもいい勝負をするのかもしれないな。
王国と言えど、『勇者』が反抗すれば勝ち目がないことくらい分かっている。対策くらい立てているだろう。
それが、このイッパの戦い方なのかもしれない。
次々に投げつけられる死体やらの障害物。
ヒートナイフでは捌ききれない。
そのうえ、この状態はさらに分が悪すぎる。
高振動刀と違い、腹や峰部分も高温になり十分に脅威になるのだが、瞬時に切り裂くとは言い難い。
それが故に、
『く!? ぬ、抜けん?!』
───スブブブ……。
ついには、ぶつけられた馬体にナイフが沈み込み──取りだすことができなくなった。
「いいぞ! 仕留めろ!!」
クラムが武器を失ったと見て、兵を突っ込ませる。
騎槍兵が下がり、剣兵が奇声を上げて突っ込んできた!
「「「きぇぇえええええ!」」」
『舐めんな!!』
奥の手は───武器はまだあるんだよぉ!
そう叫ぶと、繰り出す一撃!
『うらぁぁぁああ!!』
───ブワッキィィィン!!
と、衝突事故のような音が響き、突っ込んできた正面の兵が吹っ飛んだ。
顔は───……いや、首がない。
「な! 何だ今のは……」
イッパが驚愕している。
周囲の兵に至っては恐慌状態だ。
「「ひえ?!」」
「「な、殴って殺しやがった」」
なにかって?
ジャブだよ。ジャブ。
パンチぱんち……パーンチー!
ただし、
『仕込みは、12.7mm空砲からのジャブだ!』
ジャコン!!
左腕の排莢口から、12.7mmの空薬莢が排出される。
腕は僅かに伸び切り、その鋼鉄の手には兵の
見たかっ!
……エプソMK-2は伊達じゃない!
まだだ……。
まだ、まだ終わりじゃねぇぞ!
『おおおおらあぁぁぁぁっぁ!』
ガンガンガンガンガンガンガン!!
まるで砲撃のような音が響き、クラムの腕が前後する。
発砲?
いや……わずかだが腕が伸縮している。
これが───!!!
12.7mmジャブ───腕に内蔵した伸縮機構に、同じく内蔵されている12.7mm重機関銃用空砲の発砲エネルギーを利用した機械式パンチ。
その威力は12.7mm重機関銃なみの威力を遺憾なく発揮する。
『どぉぉぉっけぇぇぇぇ!!』
ガガガガガガッガガガガガガガガガン!!
連続打撃は正面に立つ兵を粉みじんに粉砕していく。
その間にも、周囲から切りかかられようと完全無視だ。
お前らのチンケな武器で装甲が貫けるものか!!
兵の死体を投げつけられたとしても、筋肉アシストを受けているクラムにとっては羽の如し。邪魔なだけだ。
「ば、化け物め! そいつを、ぶつけてやれ!!」
「「はッ!!」」
イッパが指示し───!!
ブン、と馬体が再び投げつけられる。
殺しまくったおかげで死体には事欠かない様だ。
さすがに、馬の巨体は12.7mmジャブと言えど───……。
『───どっせぇぇっぇい!!』
ドパッァァァァン! と、凄まじい音が響き、馬の巨体が粉々に……!!
そして、ジャブを放っていた左腕の12.7mm重機関銃の空薬莢ではなく、
伸び切った
そこからデッカイ薬莢が、ゴトン───と……。
どうだ!!!
『───40mmストレートだ!』
40mm榴弾を発射するための薬莢が、音を立てて転がり落ちる。
その威力は、40mm弾の威力を遺憾なく発揮した。
近接格闘戦闘用に、
左腕には12.7mm空砲を利用したジャブ。
右腕には40mm空砲を利用したストレート。
───それぞれが内蔵されている。
これがエプソMK-2の武装だぁぁあ!!
「ほ、本当に化け物か貴様は!!」
イッパが忌々しそうに
逃げる気か!
『逃がすか!』
「ほざけ! 総員ッ! 奴を包囲し、足止めせよ!」
形成の不利を悟ったイッパは戦線離脱を図る。
「「「はッ! お任せを」」」
この場に残る兵は死兵だ。
せいぜいが足止めに使える程度……。
イッパは素早い判断のもと、離脱準備にかかっていた。
その目の前で、
ズガァァン、ドパァァン! と、紙屑の様に兵の体が舞っているがしばらくは持ちこたえるだろう。
「せいぜい、時間を稼いでくれよ……」
その隙に、後方の特殊部隊を投入する
「がっぁああああああああ!!」
と獣のようにクラムが唸るが、イッパは
戦場の倣い……戦術的後退というものだ!
ドカカッドカカッ! と馬蹄を鳴らし引いていくイッパ。
この場は他の将校に任せて、逃げる気らしい。
クラムも気付いて追いかけようとするが、さすがに敵の数が多すぎる。
格闘だけで制圧するのはもはや不可能だ。
それに、格闘装備は内蔵型兵器のためジャブもストレートも弾数が少ない。
ストレートは5発。
ジャブは50発しか放てなかった。
『ち! くそぉぉぉ!』
逃がすくらいなら───!
『………………魔王、撃てぇぇぇ!!』
バイザー内の支援項目を選択。
空中空母に支援を要請した。
『ホイ来た! ウズウズしとったぞ?』
バイザー内の魔王が、それはもう綺麗な笑顔でニコニコと───その隅でズガン! と巨砲が唸る音が響き、画像が少し揺れた。
そして───……。
キュガァァッァァンン!!
と、大音響が響いたかと思うとバイザー内が真っ赤に染まり、爆風でユラユラと体が揺さぶられる。
それは、155mm連装榴弾砲の着弾だ。
空から降り注ぐ重砲に対抗できるものなどなく、兵が木の葉のように吹き飛んでいった。
直撃すればクラムとて無事では済まない。
そう、
当然、着弾点はズラしている。
榴弾の威力を考慮し───兵だけを殺傷できる位置に着弾させている。
余談だが、
イッパは狙わない。
なんたって、俺が殺すんだからな!
155mm榴弾で粉々なんて………生ぬるい。
奴は、俺の手で引き裂いてやる!
道が
その先からは、別の兵団が見える。
『ち……! ほんと、数だけは多いな……』
現状では、負けはしないものの。
銃がなければ簡単には、勝てないだろう。
ならば、
『───補給にいくッ!』
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