第7話 小話 荷物を運ぶゴブリン

【放浪の姫君】レィナスと【朱の騎士】ベルレルレンが旅をしていた。


 レィナス姫は修行の為に、岩を背負い、荷物を手に持って旅をしていた。


 その重量は普通の人間では一歩も動けなくなるほどだが、レィナス姫はそれを運べるほどには筋力が増えていた。


 だがそんな単純な訓練に、レィナス姫はもちろん飽きていた。


「……そろそろ、次の話をしても良い頃合ではないか?」


 レィナス姫が期待のこもった瞳でベルレルレンを見た。


「えー。ではゴブリンの話を」


 ベルレルレンもわかったもので、レィナス姫の隣を歩きつつ話を始めた。





 あるところに旅をしているゴブリンがいた。


 ゴブリンは馬を引いており、馬にはいっぱいの荷物が載せあった。


 荷物をゴブリンの集落に届ければ、ゴブリンは大金持ちになれる。


 ゴブリンは張り切って、馬を引いて歩いていた。


 運んでいる途中、荷物の重さに馬が疲れ始めた。


 このままでは馬は集落までもたず、疲労で死んでしまうかもしれない。


「これは困った。でも、もうちょっとなら大丈夫だろう」


 ゴブリンは荷物を減らしたりせず、馬に鞭を打って更に荷物を運ばせた。


 馬の持つ荷物を減らしたら、自分で持たねばならない。


 荷物の総量を減らしたら、儲けが減る。


 ゴブリンは重い荷物を持つのは嫌であったし、儲けが減るのはもっと嫌であった。


 やがて馬は疲労で死んでしまった。


 ゴブリンは馬の肉を売り払い、その金で山羊を買った。


 山羊では馬が疲労するほどの荷物は運べない。


 しかたないので荷物の半分を、ゴブリンは自分で持つことにした。


 しばらくして、ゴブリンは腹が減ってきた。


「腹が減ったな。……山羊か。美味そうだな」


 ゴブリンは空腹に我慢することが出来ず、荷物を運んでいる山羊を殺して食べてしまった。


 こうして全ての荷物を、ゴブリンは自分で運ばねばならなくなった。


 荷物が重すぎて、非力なゴブリンにはとても運べない。


 ゴブリンは仕方ないので、半分の荷物を捨ててしまった。


「うーん。疲れた。眠くなってきた」


 さらにしばらくして、歩くのに疲れて眠くなったゴブリンは、その場で警戒もせず眠ってしまった。


 ゴブリンが目覚めた時、荷物の半分が盗まれてしまっていた。


 集落についてゴブリンは、荷物を少しだけ運んだ報酬で、少しだけ金を得た。


 その金は、初めに失った馬の価値の半分にも満たなかった。





 ベルレルレンが話を終えた。


「さて姫君。この話が教えてくれることはわかりますか?」


「うむ。……荷物が重いのは辛いことだな。その馬と山羊には同情を禁じえん」


 修行のため、岩を担いで旅をしているレィナス姫が言った。


 彼女なりに含蓄深く語ったつもりであったが、もちろんそれはベルレルレンの望む答えと違いすぎるほど違っていた。


 ベルレルレンは全力でレィナス姫の頭を叩いた。




《天国に行くつもりで、一番楽しい道を選び続けるがいい。やがてお前は地獄にたどり着く》

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