英雄∞寓話

いわたせみ

第一章 ある少女が英雄になるまでの第一歩

第1話 この世界は誰もが

 野蛮な巨人であるトロールたちは山で暮らしている。


 彼らは山で生まれ、一度も山を降りることなく死ぬ者もいる。


 傲慢なエルフたちは森に閉じこもって暮らしている。


 彼らは森の外に一切の興味がなく、森の外に出るということは追放を意味するほどだ。

 

 愚鈍なマーメイドたちは海で暮らしている。


 水中で呼吸できる彼らは、海の中でもなんら不自由はない。


 暴虐なドラゴンは、ありとあらゆる生物よりも強い。


 他の全ての種族は、ドラゴンにとって等しく餌である。


 貪欲なゴブリンにとって、命ほど軽いものはない。


 ゴブリンはゴミのように死んでいくが、それよりも多い数が生まれるので、誰も問題だと思っていない。


 各種族の特徴をまとめていた人間の学者は、こう結論づけた。


「街の外に常識などありはしない。世界は非常識だ。異常者で満ち溢れている」


 諸国をまわっている【放浪の姫君】レィナスが、学者に話しかけた。


「学者よ」


「なんでしょう?」


「お前は山や海や木の上では暮らしていない。全ての生き物を餌とも思わず、命の大切さも理解できている」


「そうですな。ところで、それが何か?」


 あまりにも当然のことをレィナス姫が言ったので、学者は不思議そうな顔で聞き返した。


 その学者に、レィナス姫が言った。


「お前以外の者から見たら、お前だって異常なんじゃないか?」


 姫の言葉を、学者は歯牙にもかけずに笑い飛ばした。




《この世界は異常だ。まともな奴が何処にもいない。みんながみんな狂ってる。私を除いて全員だ!》

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