第57話 死人戦争⑥

【火炎山の魔王】ガランザンに対峙し、【放浪の姫君】レィナスと【朱の騎士】ベルレルレンが戦っていた。


 魔王ガランザンの大剣がレィナス姫に襲い掛かる。


 レィナス姫が辛うじて刃を防いだが、剣の衝撃で吹っ飛ばされて岩にぶつかった。


 数秒、レィナス姫の意識が飛んだが、すぐに回復してまた戦列に加わる。


「まだまだ!」


「眠っていればいいものを。呆れた戦士だ」


 ガランザンは敢然と立ち上がるレィナス姫を、嬉しそうに迎えた。


 戦いはレィナス姫とベルレルレンに、非常に分が悪かった。


 強力な騎士であるベルレルレンが勝算を見込めない程に、魔王ガランザンは強かった。


 一対一では数分で勝負がついていただろう。


 だが負けない。


 勝つことは出来ないが、負けることもない。


 二人は明らかに分が悪い戦いを、レィナス姫は懸命に、ベルレルレンは賢明に長引かせていた。


「間に合いましたか!」


 甲高い声が、戦場に響いた。


 ベルレルレンが待ちこがれた声、【珊瑚の女王】イオナであった。


「パヌトゥが敗れたか?」


 ガランザンが、やってきたイオナ女王に聞いた。


「あの罪深いエルフは、私が叱っておきました」


「叱った?」


 ガランザンが聞き返す。だが聞き返しながらも納得していた。


【珊瑚の女王】イオナは、世界にたった一人しかいない本物の神に仕える、最高位の司祭でもある。


 イオナ女王は罪深いエルフを、正しい意味で叱ったのだろう。


「そうか、叱ったか」


「はい。未だ心の幼いエルフは叱りました。ですがあの幼き罪深さを利用した貴方は許せません」


「利用だと?」


「貴方は死者を冒涜しました」


「……そうだな」


 魔王ガランザンは、素直に認めた。


 彼はこの軍の頂点であり、その軍の行動の責任はすべて彼に帰する。


 死人兵に気乗りしなかったなどと、責任者が言えるわけがない。


「たしかに俺がやらせた」


「とうてい許せません。その命を持って償っていただきます」


 イオナ女王は巨大な槍を構え、ガランザンに迫った。




《全部俺の責任だ。責任をとって、糾弾するやつをすべて殺してやろう》

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