第69話 ゴブリンの進撃
【火炎山の魔王】ガランザンが率いるゴブリンの軍勢は、【隻腕王】ジョシュアの統治する人間の王国へと進軍を開始した。
「進め!」
ガランザンは、進むべき方向を大剣で指し示した。
それだけである。
敵が現れるまで、彼がやるべきことは極めて少ない。
進むべき方向を示して、歩くだけだ。
だが一方で、配下のゴブリンは大忙しであった。
人間の軍隊である騎士団が到着するまでの間、進路上にある全ての村から、作物、貴金属、価値の有りそうな物、価値が有るかもしれない物、つまり奪える物は全て奪うのだ。
ゴブリンにとっての戦争とは、進軍してから戦場に到着するまでの間が、最も利益がでる瞬間であった。
そして奪えない建物には、腹立ち紛れに火を放った。
ゴブリンの軍勢が通過した後には、何も残らない。ことごとく瓦礫の山と化す。
それが定説であり、常識であった。
ある村でのこと。
逃げ遅れた人間の神官が、それでもなんとかゴブリンの慈悲に縋ろうとした。
「これは神様への供物です。どうかお見逃しを」
「ダメだ。奪える物は全て奪えと、魔王様は言っている」
「せめてわたしの命だけはお助けを」
「ダメだ。殺せる者は全て殺せと、魔王様は言っている」
「でしたら一つだけ。この神殿は残してください。ここは人々の信仰心の結晶なのです」
「ダメだ。燃やせる物は、全て燃やせと、魔王様は言っている」
ゴブリンは供物を奪い、神官を殺し、神殿に火を放った。
彼らは己の欲望の赴くままに略奪をし続けた。
だが貪欲が具現化したようなゴブリンたちですら、その行動の理由は、すべて魔王ガランザンの命令であるといった。
そんな命令はどこにもなかったのだが、命令があったとゴブリンの全員が言い、そして略奪を繰り返した。
《違う。俺は悪人ではない。命令されたんだ。仕方なかったんだ。お前をぶち殺して妻を犯した後で子供もろとも殺して宝石を奪って家に火をつけるが、俺が望んでしたことじゃないんだ。信じてくれ!》
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