第45話 神の呪い

 エルフはマーメイドとの戦争に勝利した。


 戦利品はないが被害もほぼ皆無という、完全なる勝利であった。


 その影で、エルフたちはマーメイドらが崇める神によって呪われた。


 エルフたちは呪いの存在に気が付くことは出来なかった。


 その呪いはあまりに自然で、エルフ族の天才、【樹海の苗】ピラクスをしても、呪いの気配すら感知できなかった。


 戦争から数日が過ぎた。


 戦勝の高揚感も終わり、日常が戻ってきた。


 だが誰も呪いには気が付かない。


 更に時が流れた。


 呪いは確実にエルフの社会に蔓延していたが、誰も問題にはしなかった。


 更に長い月日が過ぎ去った。


 呪いはエルフ族を完全に蝕んでいたが、それでも呪いに存在に気が付くことは出来なかった。


 ある日のこと、エルフの若者たちが雑談をしていた。


「俺、結婚したんだ」


「おめでとう。子供は生まれたかい?」


「まだだよ。でも男の子が欲しいな」


 たわいもない話であった。


 だがそのエルフの望みが叶うことはなかった。

 永遠に。 





 神がマーメイドたちに告げた。


「神罰は成った。これによりエルフ族は、世界からその姿を消すだろう」


 マーメイド族の王であり、神に仕える最高司祭でもある【珊瑚の女王】イオナが聞いた。


「エルフたちになにも変化はないようですが。神様はいったい何をされたのですか?」


「わたしはこの世界の創造主である。たとえ罪深いエルフといえども、傷つけることは出来ない」


 神の言うとおり、エルフたちが傷ついた様子はなかった。


 しかしそれでは、いったいなぜ神罰は完遂されたと宣言したのかがわからない。


「どういうことでしょうか?」


「生きとし生ける者すべてが所有する権利と義務を、エルフたちは果たせない。果たせなくした」


「どのような意味でしょうか?」


「我が子よ。簡単な言葉で、説明してやろう」


 神は諭すように言った。


 その言葉に、マーメイドたちは神の強大さを思い知り、頼もしく思うより先に背筋が凍りついた。


 どんな力で殴るよりも、どんな策で陥れるよりも恐ろしい、全てを滅ぼす神の怒りである。


「エルフ族にはもう、子供は生まれない」


 それは間違いなく、エルフ族の緩慢な絶滅を意味していた。 




《お前は神を頼らない立派な男だ。神に恨まれなかったらもっと立派だった》

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