第37話 マーメイドたちの聖戦①
【珊瑚の女王】イオナからの命令を受けて、すべての海洋、河川に住むマーメイドたちが招集された。
イオナ女王の前に、老人、子供を除く戦闘が可能な男女すべてのマーメイドが居並んだ。
マーメイドたちは頭脳に劣るものの、優れた体力と、ゴブリンに次ぐ人口を誇る。
そのマーメイド族の戦士が勢ぞろいすると、もはやすべてを飲み込む大津波のごとき軍団となった。
「神の命により、我々はエルフに対し聖戦を行います」
イオナ女王はマーメイドたちに告げた。
マーメイドたちは、使われた言葉が難しかったので、その意味がよくわからなかった。
「女王様、聖戦とはなんでしょうか?」
最前列にいたマーメイドが、イオナ女王に聞いた。
聖戦と戦争の違いは女王もよくわからなかったが、疑問に答えないことは女王として許されない。
「聖戦とは、……つまり正しい戦いのことです」
「そういう意味でしたか」
使われた言葉が平易だったので、マーメイドたちは頷いた。
さらにイオナ女王が続けた。
「我々はエルフ族の住む森を攻めます。この戦いは正義の為の戦いですので、領土を得ることはありません。食料を得ることもできません。宝石を得ることも、材木を得ることもできません」
マーメイドたちに不満の声が上がった。
「それでは我々は何を得ることができるのですか?」
「正義です!」
イオナ女王が、なるべく多くのマーメイドたちに聞こえるように、自分にも言い聞かせるように、ひときわ大きな声で答えた。
正義という概念は、マーメイド族の中にもうっすらとある。
「……正義」
「すべては神のため、正義のため。つまり我々が戦うことによって、世界が良くなるのです」
マーメイドたちはざわめき、話し合い、世界がよくなる事を自分なりに想像した。
そして浮かび上がった考えを、次々とイオナ女王にぶつける。
「世界がよくなると、エルフが変な色の水を川に流さなくなるのですか?」
「そうなります」
「ゴブリンが騙したりしなくなるのですか?」
「そういうこともあるでしょう」
「人間が奴隷狩りに来なくなりますか?」
「あるかもしれません」
「トロールともっとお話ができるようになりますか?」
「きっとなれるでしょう」
様々な声に答え、総括するように女王が断言した。
「つまり、そういう良い世界になるための第一歩が、聖戦なのです」
「すごい、すばらしい!」
マーメイドたちは熱狂し、これによりマーメイド族総勢での戦争が決まった。
神も信者であるマーメイド族の熱狂を快く思い、祝福のためにイオナ女王の頭上に虹をかけた。
戦いが始まろうとしていた。
《正義。なんて甘美な響きだ。その甘さに身も心も溶かされて、もう何も考えられない》
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