第24話 姫君のサイクロップス退治④

 対峙する【放浪の姫君】レィナスと、一つ目の巨人サイクロップス。


 サイクロップスと視線を合わせようとすれば、レィナス姫は首を直角に近く見上げなければならない。


 およそ勝てるとは思えない戦いであるが、レィナス姫の戦意は高かった。


 逃げようにも逃げられない事実が原因ではある。


いわば無謀と表裏一体、自暴自棄にも近い勇気だ。


 こんな無謀な戦いに挑んだことをもはや後悔はないが、なお恨めしいのは「勝てる」と断言した【朱の騎士】ベルレルレンの言葉であった。





 戦いに赴く前、ベルレルレンはレィナス姫に言った。


「姫君のことですから、いざサイクロップスを前にしたら怖気づくでしょう」


「わたしは臆病者呼ばわりするか? 無礼者め」


「臆病というか、サイクロップスを初めて見て、臆病風に吹かれない人間はいません。サイズが違いすぎます」


「ふん、わたしは違うぞ」


「どちらでも結構。逃げたくとも、一度見つかれば逃げられないでしょうから」


「はっはっは。巨人のノロマな足に、わたしが追いつかれるとでも言うのか?」


「全力疾走できる距離が違います」


「距離? 意味が分からないぞ」


「これもわからなくて結構です。現場で理解するでしょうから。ただ一つだけ覚えておいてください。後は忘れて結構です」


「うん?」


 レィナス姫は話半分にベルレルレンの言葉を耳に入れた。





 思い起こすと戦いの前にベルレルレンが話した内容は、意外なほど現実に起こった出来事に沿っていた。


 ベルレルレンが預言者でなく経験を積んだ戦士であるというなら、彼の言う通り勝てるかもしれない。


 レィナス姫は心の戦意を失わぬように、無謀だけを取り払うように息を吐いた。そしてゆっくりとサイクロップスの間合いに寄る。


 初めはゆっくりと、そして段階をおかず一気に急加速した。


 レィナス姫は油断するサイクロップスの足の甲を踏み台にて飛び上がると、渾身の力をこめて膝に鉄球の一撃を加えた。


「ギャァア!」


 サイクロップスは悲鳴を上げた。膝の皿が割れたのだ。


 怒り狂い反撃する一つ目の巨人。


 レィナス姫は後ろに飛んでその攻撃をかわした。


 レィナス姫は冷静であった。脳裏にはベルレルレンの言葉がある。




《まずは一撃、確実に当てなさい。あとはこれを無限に続けるだけ。それだけで貴方も英雄の仲間入りです。どうです、簡単でしょう》

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