第12話 信仰の民を得る2(トロール)

 この世界にも神がいた。


 神は自らを信仰する民を探していた。


 エルフ族からの信仰が得られなかった神は、次にトロール族の信仰を得ようとした。


 巨人のトロール族はドラゴンを除けば世界最強であり、山を領地に持っている。


 野蛮ではあるが、血族を中心に秩序だって生活している彼らは、神の目にかなった。


 神はトロールたちが多く住む大山脈の上空に出現し、トロールたちへ語りかけた。


「わたしはこの世界の神であり創造主である。わたしを信じれば、お前たちに幸福をやろう」


 トロールたちは突然現れた、ドラゴンをも凌ぐほどの巨大さと威圧感をもつ神という存在に驚愕した。


 だが神を名乗る者が、領土的野心により現れたのではないことを悟ると、落ち着いて話し合うことにした。


「お前は何者だ?」


 トロール族最強の戦士である族長が、一族を代表して神に尋ねた。


「二度聞くか。では二度答えよう。わたしは寛容である。わたしはこの世界の神であり創造主である」


「何を求めて大山脈へ来たのか?」


「それも既に答えたが、特に許そう。わたしを信仰せよ。さすればわたしは、お前たちを幸福にしてやろう」


「我々は既に幸福だ。別に他人にわざわざ与えもらわなくてもかまわん」


 あまりにあっさりとしたトロール族長の返事に、神は気分を害した。


神の認可しない幸福など、神にとってはありえないのだ。


「それは真実の幸福ではない」


「そんなことを、他人が決めるな。我々は幸福なのだ。そもそもお前が言う幸福とはなんなんだ?」


「わたしの言葉を全て信じ、わたしの言葉のみに従うことだ」


 トロール族は仰天した。


 トロール族はさして自由を尊ぶわけではないが、唐突に奴隷にも等しい束縛を享受するほど軟弱ではない。


「断る!」


「さも浅薄な巨人どものよ。断れば神罰を下すぞ」


 神からの脅迫にも等しい言葉に、さしものトロール族も恐れたが、しかし彼らを率いる族長は引かなかった。


「重ねて断る! 我々には天命を遂げた祖先が精霊となり、戦死した祖先が英霊となって我らを守護している。神なぞ不要だ!」


「なんという傲慢。いずれ神罰を下そう」


 トロール族は強く、神の庇護は必要ないようであった。


 神はトロールからの信仰を得ることを諦めた。




《お前が誤っていることは、俺の理性が教えてくれる》

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