第4話 放浪姫と簡単な修行
放浪の旅にでたレィナス姫。 人は彼女のことを【放浪の姫君】レィナスと呼ぶようになった。
レィナス姫は英雄になりたかった。
そこで放浪の旅の傍ら修行を積むことにした。
レィナス姫との同行を命じられた【朱の騎士】ベルレルレンが、その指導役となった。
「英雄ですか。けっこうなことです。では指導役をお引受けいたしましょう」
ベルレルレンは基礎体力の向上を目的とした、長く地道な訓練をレィナス姫に施した。
来る日も来る日も重い荷を持って歩き、歩き、また歩く日々が続いた。
貴人の生まれであるレィナス姫は、その修行に飽きていった。
ある日のこと。
「なあ。もっと手っ取り早く強くなる手段はないのか?」
レィナス姫は思い切って、ベルレルレンに尋ねた。
「……修行は、お嫌いですか?」
ベルレルレンはレィナス姫が予想した通り、心底から軽蔑した、落胆した顔で姫君を見ていた。「お前が修行をしたいと言い出したんだろう」と口には出さないまでも、その目ははっきりと言っていた。
だがレィナス姫はもう単純極まる修行に飽きていたので、ベルレルレンの失望しきった顔にめげずに続けた。
「修行はある程度は我慢しよう。しかし毎日、重い物を持って歩くだけなんて耐えられん。近道とは言わないが、もっと効率的な方法はないのか?」
「効率的、と。言葉を変えて意味が変わるとは思えませんね」
「問答をするつもりはない。もっと合理的な方法で教授してもらいたい」
「今度は合理的と来ましたか。姫君はじつに多様な言葉をご存知で」
はぐらかすばかりで答えない騎士に、レィナス姫は苛立った。
「あるのか、ないのか。はっきりと言え!」
「ありますよ」
あっさりと言い切ったベルレルレンの言葉に、レィナス姫は目を見開いた。聞いてはみたものの、まさか本当にあるとは思っていなかったのだ。
「あるのか! 教えろ。いや、なぜ今まで教えなかった?」
「小手先で強くなる方法は無数にあります。1を2に。2を3にするくらいでしたらしごく簡単に出来ましょう」
「おお!」
「ですが100には出来ません。そして一度、近道を覚えたら、もはや基礎には戻れませんよ」
「む、そうなのか?」
「人はそのように出来ています。素人がするべき鍛錬は、素人のうちにしか出来ないのです」
「うむむ」
「さらに言えば、わたしは姫君を英雄にするよう訓練を施しております」
「うむ。そう頼んだからな」
「姫君が1の強さとすると、わたしはおよそ1000くらいです。姫君は安易に2や3の強さを得てどうするおつもりですか?」
「……お前はそんなに強いのか?」
「わたしが強いのではありません。姫君が弱いのです」
だがレィナス姫の見るところ、【朱の騎士】ベルレルレンの強さは間違いなかった。
結局、レィナス姫はベルレルレンの言葉を聞き、黙って重い荷を持って歩く訓練を再開した。
《最短ルートはこちら。ただしゴールにはつながっておりません》
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