第6話 小話 退屈な王とトロール
【放浪の姫君】レィナスと、【朱の騎士】ベルレルレンが旅をしていた。
レィナス姫は修行の為に、荷物に石を足して重くし、その全てを担いで旅をしていた。
もちろんそんな単純な修行に、レィナス姫は飽きていた。
「なあ」
何かを期待する目で、レィナス姫がベルレルレンを見た。
ベルレルレンはため息をつきつつも、石を入れた荷には文句を言わないレィナス姫に敬意を示し、姫の退屈を紛らわす話を始めた。
「あるところに、平和な人間の国がありました……」
※
あるところに人間の王国があった。
その国は小さく豊かではないが、周囲にいるのは領土的な野心のない巨人のトロール族だけであり、非常に平和であった。
平和な小国で、王は何もすることがなく暮らしていた。
ある日、王は臣下一同に向かって言った。
「余は退屈である。余の退屈を晴らしてくれた者には褒美は思いのまま出そう。探してまいれ」
臣下たちは王の命令を受けて、大道芸人を集めた。
しかし大道芸人の技など、王は祭りで見飽きていた。
臣下の一人が大国まで行き、一流の技を持つサーカスを呼び寄せた。
少しの間だけ王は一流のサーカスの技を楽しんだが、やがてそれにも飽きてしまった。
これ以上、王を楽しませる方法が思いつかない臣下たちは、山に住むトロールたちに相談をした。
「退屈を晴らせば褒美は思いのまま。間違いありませんな?」
トロールの族長が臣下に重ねて尋ねた。
「もちろんです」
トロールが人間の富に興味を持つことは珍しかったが、臣下は頷いた。
世にも珍しいトロールの芸を見られるのであれば、王の退屈もはれるに違いなかった。
数日後。
トロールたちが山を越えて人間の小国にやってきた。
歓迎をするつもりであった臣下たちは、その様子を見て仰天した。
全員、武装しているのである。
何かの間違いかと確認している者たちを尻目に、巨人のトロールたちは手に持った槌で城門を破壊すると、悠々と城内に入った。
「てて、敵襲ぅ!」
臣下が叫び、騎士たちが動員された。
だが何もかも遅かった。
トロールの戦士たちは既に城内に入っている。
王は玉座の間で真っ青になり震えた。
だがトロールたちは玉座へは来なかった。
トロールたちは穀倉に向かうと、備蓄された麦を半分だけ担ぎ、そのまま山へと帰っていった。
帰り際、腰を抜かしている門番に、トロールが言った。
「退屈も晴れたであろうし、褒美に麦を頂いていく。それと僭越ながら、人間の王に助言を差し上げる」
※
ベルレルレンはそこまで話して、レィナス姫に聞いた。
「さて、トロールはなんと言ったのかわかりますか?」
「ふふん、簡単だ」
レィナス姫はいつものように自信満々であった。
レィナス姫は生まれの高貴さ故か、単純な頭脳の故か、前向きすぎる性格の故かは分からないが、どれだけ凹まされても自信が陰ることがない。
「ほう。ではお聞きしましょう」
さして期待もせずに回答を促すベルレルレン。
レィナス姫は大声で、なぜか楽しそうに答えを発した。
「油断大敵! どうだ、合っているだろう?」
「……ま、及第点といたしましょう」
ベルレルレンは、底の浅過ぎるがレィナス姫の額を軽く指ではじいた。
《王が退屈を嘆くのは、平和を嘆くのと同じこと》
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