第6話 小話 退屈な王とトロール

【放浪の姫君】レィナスと、【朱の騎士】ベルレルレンが旅をしていた。


 レィナス姫は修行の為に、荷物に石を足して重くし、その全てを担いで旅をしていた。


 もちろんそんな単純な修行に、レィナス姫は飽きていた。


「なあ」


 何かを期待する目で、レィナス姫がベルレルレンを見た。


 ベルレルレンはため息をつきつつも、石を入れた荷には文句を言わないレィナス姫に敬意を示し、姫の退屈を紛らわす話を始めた。


「あるところに、平和な人間の国がありました……」





 あるところに人間の王国があった。


 その国は小さく豊かではないが、周囲にいるのは領土的な野心のない巨人のトロール族だけであり、非常に平和であった。


 平和な小国で、王は何もすることがなく暮らしていた。


 ある日、王は臣下一同に向かって言った。


「余は退屈である。余の退屈を晴らしてくれた者には褒美は思いのまま出そう。探してまいれ」


 臣下たちは王の命令を受けて、大道芸人を集めた。


 しかし大道芸人の技など、王は祭りで見飽きていた。


 臣下の一人が大国まで行き、一流の技を持つサーカスを呼び寄せた。


 少しの間だけ王は一流のサーカスの技を楽しんだが、やがてそれにも飽きてしまった。


 これ以上、王を楽しませる方法が思いつかない臣下たちは、山に住むトロールたちに相談をした。


「退屈を晴らせば褒美は思いのまま。間違いありませんな?」


 トロールの族長が臣下に重ねて尋ねた。


「もちろんです」


 トロールが人間の富に興味を持つことは珍しかったが、臣下は頷いた。


 世にも珍しいトロールの芸を見られるのであれば、王の退屈もはれるに違いなかった。




 数日後。


 トロールたちが山を越えて人間の小国にやってきた。 


 歓迎をするつもりであった臣下たちは、その様子を見て仰天した。


 全員、武装しているのである。


 何かの間違いかと確認している者たちを尻目に、巨人のトロールたちは手に持った槌で城門を破壊すると、悠々と城内に入った。


「てて、敵襲ぅ!」


 臣下が叫び、騎士たちが動員された。


 だが何もかも遅かった。


 トロールの戦士たちは既に城内に入っている。


 王は玉座の間で真っ青になり震えた。


 だがトロールたちは玉座へは来なかった。


 トロールたちは穀倉に向かうと、備蓄された麦を半分だけ担ぎ、そのまま山へと帰っていった。


 帰り際、腰を抜かしている門番に、トロールが言った。


「退屈も晴れたであろうし、褒美に麦を頂いていく。それと僭越ながら、人間の王に助言を差し上げる」





 ベルレルレンはそこまで話して、レィナス姫に聞いた。


「さて、トロールはなんと言ったのかわかりますか?」


「ふふん、簡単だ」


 レィナス姫はいつものように自信満々であった。


 レィナス姫は生まれの高貴さ故か、単純な頭脳の故か、前向きすぎる性格の故かは分からないが、どれだけ凹まされても自信が陰ることがない。


「ほう。ではお聞きしましょう」


 さして期待もせずに回答を促すベルレルレン。


 レィナス姫は大声で、なぜか楽しそうに答えを発した。


「油断大敵! どうだ、合っているだろう?」


「……ま、及第点といたしましょう」


 ベルレルレンは、底の浅過ぎるがレィナス姫の額を軽く指ではじいた。




《王が退屈を嘆くのは、平和を嘆くのと同じこと》 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る