第三章 放浪姫の英雄譚
第21話 姫君のサイクロップス退治①
巨人のトロール族は、一見すると荒々しいが、その実、知性を保った優秀な種族である。
そんなトロールたちが、一切の知性を捨て去ることがある。
片目を失った時だ。
病や戦いなどにより片目を失ったトロールは、その時点から知性を失う。
彼らは怪力だけを倍化させて、野獣のように暴れまわるサイクロップスとなる。
そして今、人里に災厄を及ぼしているサイクロップスがいた。
「わたしにサイクロップスを退治しろというのか?」
【放浪の姫君】レィナスが、【朱の騎士】ベルレルレンに聞いた。
「はい、そうです。いくつもの人間の村を滅ぼしたサイクロップスを退治したとなれば、姫君の勇名は全国に轟きましょう」
「わたしだけで?」
レィナス姫は『だけ』の部分を強調して聞き直した。
「わたしが手助けしては、姫君の手柄になりません」
「そんなことはないだろう。王族は部下の騎士を連れて行くものだぞ」
「姫君とわたしの武勇の知名度が違いすぎます。わたしが付いて行ったら、わたしが退治したことになってしまいます。姫君は付き添いで」
「……そこは、内緒で」
レィナス姫が小声で聞くが、ベルレルレンは溜息をつくばかりであった。
「仮にわたしが秘密裏に同行して退治したとしましょう。姫君が倒したことにすれば、手柄は姫君のものです。多くの者はそれで納得するでしょう」
「うん。それで良いじゃないか」
「ただし一部の者は騙されません」
「何処にでも疑り深い者はいる」
「そうではなく、戦いを知る者です」
「なに?」
「姫君が本当にサイクロップスを独力で倒したのか。倒せるのか。それは水準に達した戦士や騎士でなければ分かりません。ただし彼らはわかるのです」
「そんなの、ほんの少数だろう?」
「本国にも武術を極めた騎士はおります。彼らに真実を触れ回られたらどうします? 人々は放浪している姫君の言葉と、本国で勇名轟く騎士の言葉と、どちらを信じるでしょう」
レィナス姫は嘘を喧伝して回ったという汚名を着せられた自分を思い、震え上がった。
「それは困る!」
「では、お一人で。退治できれば、姫君も勇者の仲間入りです」
レィナス姫はしぶしぶ納得し、単独でサイクロップスの退治に向かった。
《そんなんじゃド素人は騙さえても、プロの私は騙せませんよ。もっとも世界はズブのド素人だらけですが》
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