第50話 隻腕王の決断
【隻腕の王子】ジョシュアは国王に即位して、【隻腕王】ジョシュアとなった。
そして王となり、初めの事件が起こった。
マーメイドがエルフに宣戦布告したのだ。
他の人間の国々はエルフに助力することを決め、複数国家で連合騎士団を作り派遣することとなった。
またゴブリン族もエルフに味方するようであった。
「連合軍に、わが国は参加しますか?」
ジョシュア王に近衛騎士長である、【蒼の鉄壁】ギャラットが聞いた。非常に厳格な性格をした若者である。
「それとも参加しませんか?」
騎士団の最年長である【白槍公】ザバラックが聞いた。白い長髭を蓄えた老騎士である。
この二人に【朱の騎士】ベルレルレンを足した三人が、王国で最も戦闘力の高い騎士である。平民であるため身分は低いが、先代の【黄金王】ヴァンベールにも頼りにされていた。
国王になったばかりのジョシュア王も、身分ばかり高い貴族の意見は話半分に聞き、最終的にはこの二人の意見を重視していた。
「さて、どうするべきか」
ジョシュア王は考えた。
あまり頭も良くないジョシュア王は、最良の結論がなんであるか判断がつかなかった。
「ギャラット。重ねて意見を述べよ」
ジョシュア王は再度、積極論を確認するため、ギャラットに意見を求める。
「はい、国王。我が国は無論、この戦いに参戦するべきです。理由は二つあります。第一に、連合軍を組まなければ、他国から敵対行為をとったと思われます。第二に、この戦いはエルフが勝つでしょう。勝つ戦いには参加すべきです」
ギャラットの言葉に、他の近衛騎士たちも同意の声を上げた。
「ではザバラック老。お前はどう考える?」
続いてジョシュア王は慎重論を確認するため、騎士団のザバラックに意見を求めた。
「はい。我が軍はもちろん、参戦するべきではありません。戦いなどは天運によって左右されます。またジョシュア王は即位して間もありません。ここで戦争に負ければ、取り返しのつかないこととなります」
慎重論を話すザバラックの言葉に、実際に戦う役目の騎士たちが同意の声を上げた。
近衛の騎士たちはそれを臆病と罵るが、騎士たちは「安全な王都から動かぬ近衛が何を言うか!」と、感情論で反発する。
会議は収集がつかなくなりつつあった。
「「陛下、ご決断を!」」
近衛騎士と騎士団が、正反対の意見を持ちながら異口同音に聞いた。
ジョシュア王は目を瞑り、考えにふけった。
だが考えは纏まらなかった。
ジョシュア王には父親であるヴァンベール王が持っていた圧倒的な武力も、奇抜な発想と知恵も、騎士たちを心酔させたカリスマもなかった。
あるのは度胸だけである。
その鋼の心臓を持って、ジョシュア王は、未だに決断が出せない心中を暴露した。
「未だ決断には早い」
「早い、と申されても」
ギャラットの反論に、ジョシュア王は更に被せた。
「早いものは早い。すべての発言を許す。言いたいことがあれば、全てを言え。誰の、どんな発言も許可する。この場にいる者は、すべての考えを述べろ。その上で、俺が決断する。決断には異論は一切認めん」
ジョシュア王の言葉を受け、饒舌な近衛騎士は我先にと発言をした。
それを受けて騎士団の男たちも己の意見を言った。だが騎士たちは近衛たちほど口が上手くない。そこでマーメイド族たちがどれだけ強いかを、身振り手振り、素振りに、時には試し切りを交えて熱弁した。
ギャラットもザバラックも、口角泡を飛ばして激論した。
すべての者が発言を終え、明け方になろうとしていたと時、ジョシュア王は僅かに慎重論の理屈に傾いた。
「結論を下す。連合軍には参加しない。ただし他国との関係悪化が懸念される。軍備と食糧の備蓄に努めよ。以上!」
ジョシュア王の決断に、言うことを全て話しきった全員が従った。
連合軍に参加した人間の国は【珊瑚の女王】イオナの槍の餌食となり、手ひどい打撃をおった。
このためジョシュア王の治める人間の国は、戦わずして人間族随一の勢力となったのであった。
《足りないならば、どんどん借りろ。なんだって余っている。知恵も力も金も、世界中の誰かが何処かで余らせているんだ》
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