第9話 ゴブリンと約束する
ゴブリンは麦を育てるよりも、盗む方が賢く効率的だと考える生き物である。
収穫期になるとゴブリンは集団で人間の村を襲うので、【放浪の姫君】レィナスがゴブリンの退治にやってきた。
修行の成果により、レィナス姫はゴブリンよりはるかに強くなっていた。
しかしゴブリンの数は多過ぎた。
レィナス姫がいくらゴブリンを殺したところで、とても全てのゴブリンを退治することなど出来はしない。
殺しても殺しても減らないゴブリンの軍勢を前に、レィナス姫が叫んだ。
「もう村を襲わないと約束するのであれば、貴様らは逃がしてやる」
ゴブリンたちは喜んで約束し、住処である湿地へと帰っていった。
そして数日後。
ゴブリンたちは約束をすっかり忘れて、村を襲い始めた。
村人から報告を聞き、再び退治に来たレィナス姫が、ゴブリンの軍勢を前に叫んだ。
「今度こそ村を襲わぬと約束をしろ。忘れぬようにキチンと書面を交わすのだ」
ゴブリンたちは約束し、書面を交わして住処である湿地へと帰っていった。
そしてまた数日後。
書面を無くしたゴブリンたちが、再び村を襲い始めた。
三度、ゴブリンを退治に来たレィナス姫が、その軍勢を前に叫んだ。
「もはや貴様らは信用せぬ。王の名の下に約定をしろ」
ゴブリンの王は承諾し、姫君とゴブリンの王は条約を結んだ。
しばらくした後。
ゴブリン王は殺されて、殺したゴブリンが新たに王座についた。
新たなゴブリン王は約定を破棄して、配下のゴブリンを率いて人間の村を襲い始めた。
村は度重なるゴブリンの襲撃に、荒廃していった。
失敗に失敗を重ねたレィナス姫は、頭を抱えて【朱の騎士】ベルレルレンに相談をした。
「ゴブリンは生きている限り、村人を襲う。だがゴブリンを殺し尽くす事など、海岸の砂を獲り尽くすに等しく不可能だ。どうすればよいだろう?」
ベルレルレンは少しだけ考えたのちに返答した。
「姫君の行為は、まったく正しいと思われます」
「わたしもそう思う。だが解決しない」
「必要なプロセスが一つだけ抜けております。他は全て正しい。わたしにお任せを」
翌日、ベルレルレンは人間の村へ向かった。
ベルレルレンは村の若者たちを強制的に徴発して、戦闘訓練を施した。
見張り台を作り、自警団を組織した。
若くない者は強制労働をさせて、村の周辺に柵を作らせた。
嫌がる村人は殴りつけて言うことをきかせた。
こうして【朱の騎士】ベルレルレンの名は、村人から蛇蝎の如く嫌われた。
「憎んでもらって結構。だが命令には従ってもらう」
ベルレルレンは村人の怨嗟の声に耳を貸さず、嫌がる村人に戦闘訓練を施した。
しばらくして、ゴブリンたちは再び村を襲いにやってきた。
だが村の周囲には柵が出来ており、村人たちは武装していた。
このまま襲撃すれば、被害は甚大である。
ゴブリンたちは襲撃を躊躇した。
そのうちゴブリンたちは、村を襲わない約束をレィナス姫と交わしていた事実を思い出した。
「約定に従い、我々は村を襲わない。感謝しろ」
ゴブリンたちは村を襲わずに、そのまま帰っていった。
村人はゴブリンと約定をかわしたレィナス姫に深く感謝をした。
《約束を守ってくれてありがとう。おかげでお前を殺さずにすんだ》
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