第19話 魔王とゴブリン
世界に悪意をもつ【火炎山の魔王】ガランザンは、ゴブリンの集落に目を付けた。
ガランザンは腹心の【林冠】パヌトゥとともに集落のゴブリンを皆殺しにする為、戦いを挑んだ。
集落にゴブリンは五千人以上いた。
「なにが【火炎山の魔王】だ。いくら強いとはいえ、五千ものゴブリンを相手に、たった2人でどうしようもあるまい」
集落のゴブリンの王は大笑いして、魔王を迎え撃った。
しかし【火炎山の魔王】ガランザンは強かった。
というよりも、ゴブリンたちは弱かった。
ゴブリンは弱い敵には強く、相手に略奪するものがある時には圧倒的な力を発揮する。
そして誰もが誰かに守って欲しいと思っており、団結することを知らない。
守勢にはとことん弱かった。
ゴブリンの王は困った。
このままでは一族が滅ぼされてしまうと怯えた。
怯えた結果、ゴブリンの王は降伏することに決めた。
全ての武器を投げ捨て、ゴブリンの王はガランザンに跪いた。
「火炎山の魔王様。どうかお許しを。命だけは奪わないで下さい。せめてわたしだけは助けてください」
ガランザンは首を横に振り、ゴブリンの王を許さなかった。
「降伏など認めん。俺はお前たちが滅亡するまで戦い続ける」
ガランザンの冷徹な通告にも、ゴブリンの王は怯まなかった。
滅ぼされるか、もしくはこの場で殺されるか。
行く末がどちらも死の二択であることが、ゴブリン王の頭脳を明晰にした。
「魔王様。それでも結構ですので、どうか降伏をお認めください」
「どういうことだ?」
「いずれ滅ぼされてもかまいません。ですからわたしどもの降伏を認めて、部下にお加えください」
「奇妙なことを言う。殺されてもいいから、降伏すると?」
「はい。魔王様が全ての生き物を滅ぼすのであれば、我々はその軍に加わりお手伝いをいたします。ただ我々を滅ぼすのは、最後にしてください」
ガランザンはその言葉を聞き、剣を振り下ろすのを止めた。
それをみた【林冠】パヌトゥは、大いに慌てふためいた。
「魔王様! 何をお考えですか。ゴブリンが役に立つわけがありません。即刻、殺すべきです」
「とは?」
「ゴブリンは無知、無学、非力、卑劣にして要求だけは強い。軍隊として役に立つわけがありません」
パヌトゥの言葉は正しかった。なにしろつい先程、5千人の軍隊を2人で撃退したばかりだ。
初めにほんの百人を殺した段階で、ゴブリンたちは散り散りになって逃げ始めた。
呆れるほどの結束力のなさである。物の役にたつ軍隊とは到底思えない。
「仲間にしても足手まといにしかならぬ奴らです。今すぐ殺すべきです」
パヌトゥはガラクタの山を見るような冷たい目でゴブリンの王を見ながら、ゴブリンを仲間に引き入れる愚を説いた。
「ゴブリンの王よ、お前は俺に従うか?」
「もちろんです!」
ガランザンの言葉に、ゴブリン王は一も二もなく返事をした。
「口からでまかせです」
パヌトゥは反対をしたが、ガランザンはそれを退けた。
「口からでまかせでもよい。この卑劣さは役に立つ。我が軍に入るがいい」
ガランザンはパヌトゥの意見を退け、ゴブリン王の命を助けた。
「ははーー。魔王様の手足となり、粉骨砕身働かせていただきます」
ゴブリン王は心にもないことを言いながら、土下座をして忠誠を誓った。顔を上げた頃には忘れているほどの忠誠心である。
こうして魔王の配下に、数だけは莫大な軍勢が加わった。
《卑怯で何が悪い。卑劣で何が悪い。卑屈で何が悪い。俺はぜんぜん悪く無い。俺をこうした世界が悪い!》
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