第59話 魔王たちの報酬
【火炎山の魔王】ガランザンの軍勢は、マーメイド軍との戦いに敗れた。
その際に条件として、死人兵の使用禁止を約束した。
死人兵を開発した魔王ガランザンの腹心である【林冠】パヌトゥは不満であった。
「魔王様、死人兵を破棄せねばならないのですか?」
「そうだ。もう決めた」
「撤退の条件にせよ、もっとほかの条件にはならなかったのですか? 死人兵はこの世界を破壊し尽くすために、欠かせない戦力です」
「欠かせない戦力だと?」
魔王ガランザンはパヌトゥを睨んだ。
「その欠かせぬ戦力とやらは、マーメイドとの戦争で何か役に立ったのか?」
「たしかにあの戦争では役に立ちませんでした。しかし殺した敵を補充できるので、補充が容易です。ある意味、無限に増え続けます」
「無限に増える軍か、それは凄いな」
「はい。地上最強と言っても過言ではありません」
パヌトゥは誇らしげに言った。
だが一方で、ガランザンの反応は冷ややかであった。
「だが重要な観点が抜けている」
「なんでしょうか?」
「死人兵を使うと、敵が強くなる」
「そんな非論理的な話をされても困ります」
「事実だ。あれを使うと敵は持てる力を結集して戦う。その場にいる無関係な者も、我々の敵に回る」
マーメイド軍を攻めた時もそうであった。
奇襲であったはずが、その場にいただけの【放浪の姫君】レィナスと、【朱の騎士】ベルレルレンが加勢した。この二人の人間が参戦せねば、勝てたはずの戦いである。
「我々の敵は世界の全てのはずですが」
「確かにそうだ。だが一度に世界全てを敵にはできない。この理屈がわからぬ愚者ならば、もはやお前に話すことはない」
「それは、そうですが」
一度に全ての敵と戦う愚は、パヌトゥとて理解できる。
「二度は聞かん。今すぐ考えて、今すぐ答えろ。今後も俺とともに来るのであれば、死人兵を封印しろ。嫌ならここを出て、おまえ自身が魔王となれ」
「私が、魔王に?」
「そうだ」
パヌトゥは明晰な脳をもって考えた。
死人兵は改良を加えれば、更に強くなる。
他の者が倫理観にとらわれて研究しないのならば、この分野は自分が最高位だ。
無限に増える軍隊を持てば、憎いエルフに復讐することも容易であろう。
世界を破壊することも、もしかしたら世界を手に入れることすら出来るかもしれない。
パヌトゥの心に、野心と妄想が思い浮かんだ。
(……)
だが同時に思い出されたのは、魔王ガランザンとの出会いであった。
燃え上がる故郷の森の中で、ガランザンとパヌトゥは出会った。
世界に絶望し、森を焼き、エルフを殺すことしか脳裏になかったパヌトゥに、魔王ガランザンは言った。
『その憎しみが俺には必要だ。ともに来るがいい』
パヌトゥはその言葉に従い、今ここにいる。
それから時は流れた。
「魔王様」
「なんだ?」
「覚えていますでしょうか?」
「なにをだ?」
我々が出会った時の事を、と説明はせず、パヌトゥはありのままを聞いた。
「今でも、私の力が必要ですか?」
魔王ガランザンと、パヌトゥとの視線が交差した。
「……貴様の、その憎しみが俺には必要だ」
出会った時と、寸分変わらぬ言葉であった。
震えるほどの喜びが、パヌトゥに溢れた。
なぜそんな気持ちになるかは理解できなかったが、この気持ちを捨てることなどは出来そうもない。
「ならばその意志に従い、お供いたします」
パヌトゥは両手を握り、膝をついて信頼と服従を表現した。
死人兵はその研究を封印され、この世から姿を消した。
《その期待に必ずや応えてみせる。私に期待してくれる人など、貴方しかいないのだから》
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