第31話 姫君の王位簒奪①
英雄として帰国した【放浪の姫君】レィナスの屋敷には、多くの者が集まるようになった。
多くは現状の待遇に不満を持つ貴族たちだ。
その場に、レィナス姫を今まで導いた【朱の騎士】ベルレルレンはいない。
集まっていた貴族の一人が言った。
「レィナス姫様こそが次期王位に付くべきなのです」
「そうか? そうかなぁ。ふふふふふ」
目じりを緩ませてレィナス姫が聞きかえす。
「放浪の旅はそもそも次期王位継承者がやるべきもの。それをレィナス姫に譲っておいて、長男であるという理由だけで次期王位につこうとしているジョシュア王子こそが図々しい」
「確かに、あの旅は大変だった」
「そうでしょう、そうでしょう。その苦労を知る者が、次期王座に相応しいのです」
「そもそもはお兄様が行くべき旅を、わたしが肩代わりしたのだ。王位もわたしが肩代わりするべきか」
「まさしくその通り!」
我が意を得たりとばかりに貴族は頷くと、分厚い書類をテーブルへ置いた。
レィナス姫が次期王位に着くための計画書だ。
長男であるジョシュア王子の廃嫡や、その他、次男や三男、四男の王子たちの王位継承権放棄に関する計画もある。
「すごいな」
「たいしたことはありません」
「それで、わたしは何をすればいいのか?」
「何もせずともいいです。姫はただ我々に「やれ」と命令するだけでよいのです。あとは我々が計画を進めます」
貴族はそう説明した。
集まった貴族たちは心の底では、頭があまり良くないレィナス姫を馬鹿にしきっていた。
例えレィナス姫に無数の武勇談があろうとも、王宮の外を知らない貴族には関係ない。
貴族たちの目には、レィナス姫は宮廷での礼儀作法もろくに知らない、無知で無学な少女にしか見えていなかった。
ただし抜群に国民の受けが良い英雄であり、しかも王族である。利用価値は十分だ。
「すべて我々にお任せを」
別の貴族が繰り返し言った。
「それは楽だな」
「真の王は楽をするべきものなのです。雑事は我々にお任せください」
「なるほど、わたしは座っているだけで、女王になれるのか」
レィナス姫は次第、笑いがこみ上げてきた。
彼女の脳裏には、かつて【朱の騎士】ベルレルレンが忠告した謙虚さも慎重さも、完全に消えさっていた。
《素晴らしい儲け話が次々やってきて、気が付いたら家屋敷が無くなってました》
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