第54話 死人戦争③
【朱の騎士】ベルレルレンはマーメイドの王国にいた。
王国は死人の兵団とゴブリンたちによって攻められていた。
【珊瑚の女王】イオナは、隣にいた【放浪の姫君】レィナスに助力を頼もうとした。
だがそれよりも早く、レィナス姫の口は動いていた。
「女王、わたしが加勢します!」
その迷いのない言葉と、まっすぐな瞳に、イオナ女王は思わずレィナス姫を抱擁した。
「感謝します。貴方の親切と、正義と、義侠の心に幸多からんことを」
「当然の事です。あのような死人の軍を、許すわけにはいきません」
レィナス姫の言葉に、ベルレルレンは心中で嘆息した。
他種族の戦争に助力することは、人間の王族としては褒められたことではない。あまりにも向こう見ず過ぎる。
だが既に、レィナス姫は助力を明言してしまった。今更、止められるわけがない。
「ありがとうございます。感謝の心が溢れて止まりません」
ベルレルレンの脳裏に浮かぶ悩みとは裏腹に、イオナ女王は感激に震えていた。
今まで報酬の交渉もなしに助力を申し出てくれた人間は、イオナ女王にとって初めてであった。
「女王、ともに戦いましょう。正義の為に!」
レィナス姫の言葉は、またしてもイオナ女王の心を強く打った。
正義とは神に命じられた聖戦で、イオナ女王もマーメイドたちも、何度も口にした言葉である。
だが聖戦のさなかより、レィナス姫の口にする正義の方がずっとイオナ女王にとって心地よく響いた。
「あなたの正義は私と共にあります。ともに戦いましょう」
イオナ女王とレィナス姫は、強く強く抱擁していた。
その脇でベルレルレンは冷静に敵軍を観察していた。
「死人たちの動きは鈍いようです。ですが腕がなくとも平気でいるところを見ると、外傷で倒すのは難しそうです。ただ足がない者はいませんね。とすると、相手の足を狙うのが一番ですか。動けなくなれば、どうしようもないでしょうし」
「貴方のその冷静な知恵にも感謝を」
イオナ女王は姫君から離れ、ベルレルレンも抱擁しようとした。
だがベルレルレンはそれを辞退した。
義侠心で加勢したレィナス姫は感謝されてしかるべきだが、しかたなく加勢した自分まで感謝されるわけにはいかない。
ベルレルレンは騎士の本能に従い、戦いに勝つために更に敵軍の分析をした。
「二手に分かれたようですね。ゴブリンの軍と、死人の軍です。こちらの軍が固まっては、挟み撃ちにされるかも」
「ならば我々も軍も二つに分けましょう。死人へは私がいきます。放浪の姫君、ゴブリンをお願いできますか」
イオナ女王の言葉に、レィナス姫が頷いた。
「お任せを!」
レィナス姫は大きな声で、やや小さめな胸を叩いて返事をした。
軍の指揮までしては単なる加勢とは言いがたい。
ベルレルレンはあまりにも感情的過ぎるレィナス姫をフォローするために、また頭を回転させていた。
だがどう考えたところで、その解決策は無事に勝つ以外に思いつかない。
よくよく考えれば邪悪以外の何物でもない死人の兵に、ベルレルレンもようやく戦う決意を固めた。
《悪い奴に対峙する。子供にも出来ることだぞ。大人のお前になぜ出来ない?》
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